第91回:好かれなくても、嫌われなければいい!?新型クラウンのスゴさ(その1)
2004.01.26 小沢コージの勢いまかせ!第91回:好かれなくても、嫌われなければいい!?新型クラウンのスゴさ(その1)
■モデルチェンジは正解
新型「クラウン」に乗ってきました。正直言っちゃうと、スタイリングに「ホントにコレってカッコいいのかなぁ?」って思う部分があるし、大きなフロントグリルとか「ココがやっぱりオヤジくさいんだよ!」なんて思う部分もある。だけど、このモデルチェンジ自体は正解だと思った。
というのもね、消極的な言い方になるけど、新型は「乗りやすいベンツ」もしくは「BMW」的なクルマになっていたからだ。
俺みたいな輸入車好きから見ると、新型クラウンが、ベンツ、BMWに代わる存在になったとはいえない。315.0万円〜の値段を見て「俺だったら中古のEクラス買っちゃうかも?」って思う。要するに、そこまで魅力的なブランドにはなり得てない。っていうか、そんなことは永遠にあり得ない気がする。
でもね、ヒトのクルマとして乗せてもらう分には、ほとんど恥ずかしくなくなったのだ。それ以上に、長く乗ってると「ひょっとしてベンツ、BMWよりこっちの方がいいかも?」って思えそうな部分がある。
それは、いわば「おもてなし」の部分。官能的には、革のタッチが柔らかい“気がする”、スイッチ類も扱いやすい“気がする”。総じて“なんとなく乗りやすい”、造りも繊細な“気がする”程度なんだけど、ハッキリとクラウンの方が乗っててラクなのである。
■日本人のツボ
具体的に「ココが使いやすい」とか「軽い」とはいいずらい。「静かさ」は、明らかにクラウンが上だと思うけど、ドアは安全性を考慮してか、クラウンも重くなってるし。一方、最近のドイツ製高級車は相当に乗りやすく、他人への親しさを増しているから。
だけど、ドイツの「ブラウン」と、日本の「ナショナル」の電気シェーバーの違い、とでもいいましょうか。ベンツ、BMWには「イマイチ俺たち日本人の繊細さが、わかってないなぁ」って部分が残ってる。一方、クラウンには「やっぱコレよ、コレ」っていう、ツボを付くような安楽さがある。
でね、これに気づくっていうのは、逆にクラウンの基本性能が上がってきた証拠だと思う。「走り」と「根本的なデザインのテイスト」が、国際レベルに近づいたからこそ、こういう瑣末な違いを如実に感じられるんじゃないか。
たとえば「走り」の部分。今までのクラウンはいくら足を硬めても、ステアリングフィールが甘かったり、路面の継ぎ目を乗り越える際に「なんかユルいな」と感じた。だが、今回の新型、特にアスリートにはない。
「デザイン」もしかり。正面から見ると「どうみてもクラウン」。しかし、見方によってはまったく別のクルマに見えるし、ショルダーのふくらみなんて相当にマッチョだ。今までの“神社仏閣デザイン”とは根本的に違うだけでなく、乗ってるところを人に見られてもイヤじゃない。
■おいしいポジション?
開発責任者の加藤光久エグゼクティブチーフエンジニアは、こうおっしゃっていた。「若い人に『乗りたい!』と思ってもらわなくてもいいですけど、『乗りたくない!』と言われないようにしたい」と。まさにその通り。以前は「絶対イヤだ」だったのが、今回は「別に悪くないんじゃない」ぐらいになった。
「別に悪くない」。それって、結構おいしいポジションなんじゃないか? と俺は思う。おそらくベンツ、BMWのまっさらコピーだと、しょせんはニセモノ。遅かれ早かれ、魅力がなくなる。
だけど、「基本はクラウン。でも悪くないよね〜」だったら、将来、俺たちが落ち着いてきた時に誘われてしまう気がする。ちょうど恋愛に疲れた美人が、優しくて包容力のある、だけどちょっとダサい男に行ってしまうように。
微妙な表現だが、なんとなくわかってもらえるでしょうかねぇ……。
(文=小沢コージ/2004年1月)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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