トヨタ・クラウン アスリートS-T(FR/8AT)
ニッポンの高級車 2015.12.01 試乗記 「トヨタ・クラウン アスリート」に、2リッターのダウンサイジングターボエンジンを搭載した新グレードが登場。60年の長きにわたり、日本のユーザーを第一に作られ続けた高級セダンの魅力に触れた。ただの“エコユニット”にあらず
技術の未熟さから当時はまだ例外的ですらあった、“100%純国産”による開発――あえてそうした道を選びつつ、トヨタが初代モデルを誕生させたのは1955年のこと。すでに60年におよぶヒストリーを持ち、常に日本国内のカスタマーこそを念頭に置いてきた製品づくりの実績から、海外ではほとんどその存在が知られていない一方で、国内においては「もはやその名を知らない者はいない」といっても過言ではないほどの際立った知名度を誇るのがクラウンだ。
政財界や法人、そして宮内庁の御用達ともいえる「センチュリー」を別格とすれば、事実上、トヨタブランドの頂点に立つこのモデルは、2012年に登場した現行型で実に14代目。ここに紹介するのは、このほど行われたマイナーチェンジでバリエーションに加えられた、最新の2リッター直噴4気筒ターボエンジンを搭載するモデルとなる。
最新のクラウンは、ロングホイールベース版の「マジェスタ」に、よりコンサバティブな流れをくむ「ロイヤル」、そしてモデルチェンジごとに高齢化が進むユーザー層の若返りへの期待が込められた、スポーティーな雰囲気をまとう「アスリート」と、3本立てのシリーズ構成とされる。その中で、このターボ付きエンジンが搭載されるのはアスリートシリーズに限られる。シリーズ中最小排気量の“ダウンサイズエンジン”ではあるものの、同時にこれがスポーツ性を強調すべく投入されたものであることも、このあたりの設定から読み取れるわけだ。
デザインは個人の好みの問題とはいえ……
今回用意された「S-T」グレードのテスト車は、ご覧の通り派手なブルーカラーに彩られていた。「天空」という文字に「ソラ」とルビが振られるこの色を含めた特別色、カタログ上で「情感豊かな12色のボディーカラーと、3色のインテリアカラー」と紹介されるオプションの“ジャパンカラーセレクション”は、前述のターボエンジンと並ぶ今回のマイナーチェンジの、文字通りの「目立つ話題」のひとつである。
もっとも、正直言ってこのあまりにビビッドな青色は、個人的には「クラウンというモデルにお似合い」と受け入れられるものではなかった。一方、そんな冒険的なオプションカラーの残る11色の中には、「これなら、このクルマのスタイリングにもなかなかマッチングが良さそうだナ」と、そんな印象が抱けるものも存在する。いずれにしても、一部のパーツに手吹きの塗装を施すなど、「完全受注生産でそれなりの納期も必要」とただし書きが付くこうした特別仕様の設定には、今後の他モデルへの展開を前提とした、トヨタの新たな試みという意味合いが含まれているのかもしれない。
一方で、「ただただひたすらに押し出し感の強さを狙ったのみ」と、個人的にはそうとしか受け取れない“逆イナズマ型”の巨大なフロントグリルの造形に、相変わらず嫌悪感を抱く自分がいたりもする。
ボディーカラーと同様、もちろんこのあたりは個人個人の好みが意見を支配する部分。けれども、これが“グッドルッキング”で“スポーティー”であると心底感じられる人とは……申し訳ないけれど、自分は一生“おともだち”にはなれないような気もしてしまう。
追従式クルーズコントロールは要改善
気を取り直して(?)ドライバーズシートへと腰を下ろすと、理想のポジションがすんなり決まり、視界がすっきり開けることに、まずは“さすが日本市場が本命のクルマ”と実感させられる。
踏んでオン、もう一度踏んでオフという、軽自動車や安価なコンパクトカーでおなじみの足踏み式パーキングブレーキは、「トヨタで最上級のモデルなのに」とちょっと興ざめ。が、いざスタートすると低速域ですこぶる軽く、しかもそのボディーサイズから想像するよりもはるかに小回りが利くステアリングに、あらためて日本の街乗りシーンでの適性の高さを教えられることになる。
「さすがは高級車だナ」と多くの人を納得させるのは、インテリア各部の仕上がりレベルの高さや、優れた静粛性である。ナビゲーションシステムなど、メインディスプレイの操作はタッチパネル式とした上で、オーディオのオン/オフや空調のメイン画面表示用に“物理スイッチ”をレイアウト。これでメニューを選んだ後、そこから先の細かな操作はフルカラー表示のサブディスプレイ内のアイコンで行う、という方式も、操作の複雑化を避けつつスイッチ類の数を最小限に抑えるという点で、なかなかよく考えられている。
テスト車は、ミリ波レーダー式のプリクラッシュブレーキや、クリアランスソナーなどからなるオプションの「アドバンストパッケージ」付き。が、そこに含まれるレーダークルーズコントロールは、およそ40km/hを下回ると自動的にカットされてしまう前時代的なものだった。今の時代、クラウンクラスのモデルであれば、“全車速対応”で停止まで面倒を見るのが当然。こうなってこそ、渋滞内でのストレスを大幅に減らせ、追従式クルーズコントロールのメリットを最大限に生かせるはずなのに……。
乗れば乗るほどイイ感じ
一方で、新たにターボ付きエンジンを得たクラウンの走りそのものの仕上がり具合は、“乗れば乗るほどイイ感じ”だった。
2リッターという排気量ではあるものの、スタート時の力感は必要にして十分なレベル。ただし、今回の試乗は終始ひとり乗り状態だったから、複数名乗車、特に「リアシートにも人が乗り、かつ広いトランクルームにはそれなりの荷物を積載」といったシーンでは、いささかの物足りなさを感じる可能性はあるようにも思う。
そんなこのモデルの動力性能面でちょっと意外だったのは、8段ATがアップシフトの度に発するショックが、思いのほか明確であったこと。これは評価が分かれるかもしれないが、その一方でアクセル操作に対する駆動力発生のレスポンスが素早く、タイト感も強かったので、個人的には不快さよりもデュアルクラッチ式のテイストに似たスポーティー感が心地良く思えた。
特筆すべきはエンジンの回転フィーリングで、静粛性が高いこともあり、知らなければ多くの人が「6気筒でしょ?」と答えてしまいそう。6100rpmに設定されたレッドラインに向けてのパワーの伸び感も文句なし。ちなみに、100km/h走行を1700rpmほどでこなす8段ATのギア比の設定にも助けられ、高速道路上では「どのように走っても10km/リッターを超える燃費をマークする」というのが、ボードコンピューター上から得られるデータだった。
日本の使用環境に焦点を絞ったクルマ
低速時のステアリングの軽さと取り回しのよさは前述のとおりだが、そんな軽いステアリングの感覚は、速度が増していっても基本的には変わることはない。
ただし、それでもそこには操舵(そうだ)とともにきちんとした反力が認められ、路面とのコンタクト感も適度に伝わるので、単に“軽いだけ”のモデルとは違い、不安感を一切伴わないのは特筆すべき点だ。
しかも大きく切り込んだ際の操舵感は、まるで念入りに研磨をしたギアの歯面同士がかみ合っているかのような滑らかさ。このあたりも“乗れば乗るほどイイ感じ”というテイストを生み出す重要なポイントとなっているに違いない。
一方、そのフットワークは常にしっかりとした4輪の接地感を提供してくれると同時に、しなやかさが分かりやすく演じられている印象。高い速度域で大きなアンジュレーションに遭遇したりすると、時にボディー全体の上下量が大きくなり、ダンピングが弱いと感じられる場面もある。
恐らく、このあたりは高速道路でさえ法定速度が100km/hまでという、そんな日本での使われ方に即したチューニングを意図したものと考えられる。
そして、いうなればこうした“日本ベスト”の考え方を念頭に置いた割り切りも、実際に日本の道路環境でクルマを使う私たちに“乗れば乗るほどイイ感じ”をアピールする原動力のひとつになっているはず。
とにもかくにも、すべてが日本の市場を向いた真に「日本人のための高級車」が、クラウンシリーズであるということなのだ。
(文=河村康彦/写真=郡大二郎)
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テスト車のデータ
トヨタ・クラウン アスリートS-T
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4895×1800×1450mm
ホイールベース:2850mm
車重:1610kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:235ps(173kW)/5200-5800rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1650-4400rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(ダンロップSPORT MAXX 050)
燃費:13.4km/リッター(JC08モード)
価格:450万円/テスト車=508万8600円
オプション装備:ジャパンカラーセレクションパッケージ(27万円)/アドバンストパッケージ<プリクラッシュセーフティシステム+クリアランスソナー&バックソナー+インテリジェントクリアランスソナー+レーダークルーズコントロール>(10万8000円)/ITS Connect(3万240円)/インテリジェントパーキングアシスト<イージーセット機能、駐車空間認識機能、ハンドルセレクト機能付き>(3万2400円)/電動式リヤサンシェード(3万2400円)/T-Connect専用DCM+ルーフアンテナ+リモートセキュリティーシステム<リモートイモビライザー>(11万5560円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1975km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:530.4km
使用燃料:46.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.4km/リッター(満タン法)/11.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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