トヨタ・クラウン 2.5アスリートG(FR/6AT)【試乗記】
偉大なる「無難」 2013.03.27 試乗記 トヨタ・クラウン 2.5アスリートG(FR/6AT)……533万6800円
クルマは文化の表出物。新型「クラウン」を見れば“ニッポンの事情”が浮かび上がってくる。「2.5アスリートG」に乗って考えた。
“違和感”か? 改善か?
新型「クラウン」に関してビックリしたことがひとつある。それはドライビングポジション。簡単に言うとフツーになった。「脚のすごく短い人がペダルに合わせて座面の位置を決め、あとは背もたれを寝かせ気味に(=いわゆるストレートアーム気味に)するとピッタリくるのかな?」という感じだった従来路線からは明らかに外れた。ここだというポジションが決まらず、走りだしてからも何度も何度も微調整を繰り返して、そのうち諦めて……がお約束だったのに。別世界。個人的には、プラットフォーム一新に匹敵するほどのインパクトを伴った違いだった。
そういえば、シートもフツー。チョコンと腰掛けるタイプではなく、ちゃんとサポートがあるタイプ。乗員の体重がかかることで支持が発生するタイプ、と言えばいいのか。体重をしっかり預けることができる。骨盤のサポートも、あるかないかで言うとある。運転姿勢とかけ心地。ビミョー(とは言いがたかったけど)な居心地の悪さがむしろクラウン流のおもてなし、伝統の一部なのかと思っていた。半分マジで。
後日プレス試乗会の場で資料を読んだり技術者に聞いてみたりしたところ、やはり意識して直していたと判明。ドライビングポジションに関しては、いわゆるHP、ヒップポイントを10mm低く。それに合わせて、ハンドルの角度もアジャストしてある。シートに関しては、「クッションとシートバックの面圧のつながりをよく」した。あと、「腰の収まりをよく」。さらにいわく、従来のシートは「面に対して座らされているシート」。なるほどねえ。
“いつかはクラウン”ならぬ、“当分クラウン”。事情によりそういうコトになっているお客さんが、このクルマの場合は多い。そう推察される。だとすると、上記のような変更はどうなのか。“当分クラウン”の人たちによってうれしくない“違和感”と判断されるのか。それとも、改善としてプラスに評価されるのか。
つまりは「相変わらずクラウン」
で、走りだすと。でもそのまえにちょっと。ダッシュボード中央にある液晶モニターのうちの下のほう。ちっちゃいほう。カーナビ画面じゃないほう。これって、けっこうあからさまなコストカット策じゃないですか? エアコン関係やオーディオ関係(とあとトラコン関係)のスイッチをいっぱい用意するよりこっちのほうが……という。あと「スマホ感覚」とか言ってるのかもしれないけれど、いまどきこの程度の描画クオリティーのスマホではカネとれませんよ。
で、走りだすと。「2.5もあるクセにトルクが細いな」というのが第一印象。「でも待てよ」となって車両概要の書いてあるのを読んだら(笑)。そうか、直4はハイブリッドだけなのね。言われてみると、たしかにこの回転フィーリングはV型6気筒。記憶の中の、前のクラウンの2.5との違いは、「ひょっとして、モード燃費対策でトルコンのロックアップ領域を少し広げたかな?」という程度。それでもって少し運転しやすくなったともいえるし、エンジンの、地のトルクのホソさがさらにあからさまになったともいえる。
あとは……。んー。「ハンドルの手応えが少しフワついていて、なにげなライントレース性がイマイチ」とかはあったけど、カンタンに言うと「相変わらずクラウン」。先代をふくめて、旧世代のクラウンに毎日乗っている人なら、もっとイロイロと違いを見つけることができたのかもしれないけれど。あるいは、「ヨシヨシ」状態で安心して乗っていられるのかもしれないけれど。
まとまりがいい「2.5アスリート」
2013年のいまの大型高価格サルーンとして見た場合、新型クラウン、クルマの基本部分のポテンシャルがすごく高い……とは言いがたい。新しいクルマに乗っている感じが希薄なことの、おそらくはそれが根本要因ではないか。ホレボレするほど骨格がガッチリしていて、そのおかげで(アシが硬くても)乗り心地がイイ。クルマの動きの精度が高い。アシがイイから真っすぐ走る。そういう感じのクルマではどうもない。動力関係のフィーリングもやはり。
その一方でポジティブに評価できるところもあって、例えば新型クラウン、最近はやりの“クーペみたいなセダン”のカタチをしたセダンにはなっていない。それは実用上のメリットにつながってもいる。四角いぶん車両感覚の把握が容易だったり、Aピラーがジャマくさくなかったり。「メルセデス・ベンツEクラス」や「アウディA6」と比べたら、車幅やトレッドがワイドすぎないことのよさもある。というか、立体駐車場でそのありがたさを感じることになるでしょう(ただし、ほぼ4.9mもある全長は絶対的にも、またキャビンの広々感との対比でいってもデカい)。とはいえこれらも、乗った瞬間「おお!!」となるほどの美点とはちょっと言いがたい。
“クーペみたい”ではないカタチの大型セダンで、クルマがちゃんとしていて運転してすごくイイ。癒やされる。そういうクルマとしては、いまなら例えば「クライスラー300」がある(18インチの素のグレードか「SRT」を強く推奨)。また一方、コンサバ実用セダンとしての使いやすいカタチやサイズのお約束をキッチリ守った折り目正しいクルマとしては「クラウン セダン」がある(ただしガソリンエンジン搭載モデルはなくてLPGのみ)。そのどっちのよさもないけれど、どっちよりも無難そう。フツーの気持ちで買える(乗った印象に対して値段の額面がちょっとならずゴリッパすぎると思ったことは書いておきたいけれど)。
あえて言うなら、新型クラウンはそういうクルマ。ダチョウ倶楽部のギャグではないけれど、「甘からず、辛からず……」。対案としてクライスラー300やクラウン セダンを薦められて「ほう」と思う人は、実際にはほとんどいないでしょう。じゃあもっとググッと現実的な、ベタなところで……となると、これがない。「ロイヤル」または「アスリート」のクラウンは、マーケットでは実質かなりライバル不在の存在と化している。ずっと前からそうだったのかもしれない。
後日、プレス試乗会で他の仕様も試すことができた。具体的には、ロイヤルのハイブリッドとロイヤルの2.5とアスリートの3.5とアスリートのハイブリッド。いろんな事情によりクラウン以外の選択肢がない人も世の中には少なからずいそうなので――というかクラウンの場合そういうお客さんが特別多そうなので――参考までに書きますと、それらもふくめたなかで比べてクルマとしてまとまりがよかったのはアスリートのハイブリッドとこれ、つまりアスリートの2.5でした。
(文=森慶太/写真=高橋信宏)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

森 慶太
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。