トヨタ・クラウン【試乗記(後編)】
裸になった王様(後編) 2004.01.23 試乗記 トヨタ・クラウン 雨の宮崎県に開催された12代目“ゼロ”クラウンのプレス向け試乗会。『webCG』コンテンツエディターのアオキが参加した。感心しつつも、納得できないことが……。スポーティとジェントル
雨のなか、宮崎の道を走りはじめる。新しいクラウン、足、硬いね。いま乗っているのは、ロイヤルシリーズの上級グレード「G」。60km/hで定速走行すると、ドライバーのオシリに、荒れた舗装の状態を正直に伝える。スポーティを謳う12代目だからある程度予想はしていたが、どこか軟体系な(?)乗り心地を示した従来モデルからは、完全に断絶している。
新型のフロントサスペンションは、ダブルウィッシュボーン、リアはマルチリンク式。前脚はアームの取り付け位置から、後脚はリンクの取りまわしから見直された。ダンパーに、オイルと高圧ガスを分離させた「モノチューブショックアブソーバー」を採用したこともジマンだ。
グレー内装のロイヤルサルーンGから、アイボリー内装のロイヤルサルーンに乗り換える。
やわらかなベージュの(アイボリーと呼ばれるが)ファブリックシートに、赤茶のウッドパネルの組み合わせ。和風に華やかで、伝統的なクラウンユーザーにもっとも好まれるインテリアだろう。
これまでの鋳鉄製直6と比較すると、ざっくりいって40kg軽くなったというオールアルミV型6気筒。北米「フォーランナー(邦名ハイラックスサーフ)」「プラド」用4リッターV6由来のそれは、吸排気双方に可変バルブタイミング機構「VVT-i」を搭載した4カム4バルブユニットである。シリンダーに直接燃料を噴射する直噴エンジンながら、燃費とエミッションの両立のために、希薄燃焼を行わないのが特徴だ。理想空燃比で燃やすため、「ストイキD-4」とトヨタは名づけた。
トロンと回ったストレート6とはフィールが変わり、V型らしく、軽快にピストンが上下する感じ。スロットルレスポンスは良好。256ps/6200rpmの最高出力、32.0kgm/3600rpmの最大トルクを発生する3リッターV6は、「0-100km/h=7.4秒」と、客観的に十二分な動力性能を提供する。しかし運転手の主観的な印象では、あくまで“ジェントル”で、穏やかなエンジンだ。「パンチがない」とも言えるが、クラウンの場合、それはホメ言葉だろう。
……といった、クラウンというクルマに対するリポーターの思いこみのせいかもしれないが、“締まった足まわり”を目指したとおぼしき乗り心地は、個人的には「なんだが妙だ」と思った。より厳しい嗜好をもつ従来のクラウンユーザーの方は、さらに違和感をおぼえるんじゃないでしょうか。顧客のニーズを汲み取るに敏なトヨタのことだから、早晩、サスペンションセッティングの見直しがあるかもしれない。
アスリートに乗って
2.5リッター版「アスリート」は、これは“若やいだ”クラウンである。専用のブラック内装をもち、背面が黒のオプティトロンメーターも、ステアリングホイールごしによく映える。新しい「ブルーグレー」のパネルもインパネまわり溶け込んでおり、「新奇な」という単語を思いつかせない。
2.5リッターV6のスペックは、最高出力215ps/6400rpm、最大トルク26.5kgm/3800rpm。もちろん絶対的なアウトプットは3リッターに及ばないが、勢い、エンジンを回しがちになり、室内に飛び込む軽いサウンドが心地よい。
組み合わされるトランスミッションは、3リッターの6段ATに対してて、こちらは5段AT。ファイナルは変えられているが、1-5速までのギア比は、3リッターモデルの6段ATとまったく同じ。担当エンジニアの方にうかがうと、3リッター専用の6速は純粋な“燃費ギア”で、ギア比が高いため「2.5の出力だとちょっとツライ」そうである。だから、2.5は5段。
テスト車の個体によっては、ロウ-セカンド間のショックが大きいものもあったが、総じてスムーズ至極。6ATにのみシーケンシャルモードが備わるが、これクラウンの場合は、切実な必要性を感じるデバイスではない。エンジンとの協調制御もますます進化し、たとえば減速時に、フューエルカット領域(空走)のまま、ギアを落とす工夫が採られた。
アスリートは、ロイヤルサルーンよりふたまわり大きな「225/45R18」サイズのタイヤを標準で履き、併せてスプリング、ダンパー、アンチロールバーも強化される。ほどよくスポーティに装ったインテリア、適度に聞こえるエンジン音、滑らかなAT、そして18インチをもてあまさない足まわり。クルマとしてのコンセプトが明快なためか、2.5アスリートは素直なまとまりを見せる。「クラウンとはなんぞや」と悩むことがないなら、ココロ安らかにドライブを楽しめる。
もし「クラウン」という、販売面で絶大なパワーをもつ名前の価値を強引に忘れるとするならば、「クラウン」と「アスリート」を分離して、後者により力を注いでもいいんじゃないか、との暴論を主張できるほどに。将来的には、(ちょっと違うけれど)たとえば「コロナ」の名が消え、「プレミオ」が残ったようなことがクラウンにも……起こらないですね、たぶん。
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「乗り心地」談議
用意された試乗車にひととおり乗せていただいた後、サスペンション担当のエンジニアの方とお話をする機会を得た。
しっかりした足まわりですね、とじゃっかんオブラートに包んだ感想を伝えると、いかにも優秀そうな技術者は笑顔になって、補器類が整理されたコンパクトなV6エンジンの恩恵で、どれだけサスペンションの自由度が上がったかを説明してくれた。
撮影のために駐車場でUターンするたび、ステアリングがよく切れることに驚きました、と述べると、補器類の配置、特に電動パワステユニットの配置場所がキーだったと応える。ニュークラウンの回転半径は、わずか5.2m(4WDは5.4m)。ステアリングがややスロウなのでグルグル回す必要があるが、取りまわしのよさは、クラウンの使いやすさの、重要なポイントのひとつである。
電動パワステのフィールも大変に自然で……と言うと、「やはりクラウンに載せるモノですから」とエンジニア氏。さすがだ。
それにしても、と思うわけである。1955年に初代が登場したクラウンは、どちらかというと、かつての憧れであったアメリカ車の性格を色濃く残したクルマだった気がする。年配のユーザーは、これまでのソフトな足をして、「いい乗り心地」と感じていたのではないか?
−−(新型クラウンの)乗り心地には、ユーザーのニーズがあるんでしょうか?
「世界に通じる走りを目指しましたから」とエンジニア氏。なるほど。
しかしクラウンの強さは、なにはともあれ“国内に特化したモデル”であった点にあったのではないか。
−−たとえばキャディラックにしてもそうですが、日米とも、どうして“ヨーロッパ車の走り”に向かうんでしょうか?
「一般的に、走行するスピードが上がっているからだと思います」
−−クラウンのオーナーさんは、そんなにトバさないでしょう?
「“トバさない”速度域でも、新型の乗り心地は向上しているんですよ」
そうですか。
ちょっとセンチメンタルな言い方をするならば、いわゆる世界基準の土俵に投げ込まれたニュークラウンは、“ドメスチック”の衣をはがされた裸の王様。再びゼロから始めるトヨタの王冠。かき消してもかき消しても、「小セルシオ」との言葉が、頭の中で反復される。
−−僕の母親などは、映画でフルサイズのアメリカ車が「フワッ!」と停車する場面をみると、「いいクルマねぇ」と言いますよ。
「まぁ、いつまでそういうヒトたちを向いて(クラウンを)つくるのか、と。そういうことなんじゃないでしょうか」
そういうことなんでしょうなァ……。
カメラマンに促されて、最後の試乗のために席を立った。
(文=webCGアオキ/写真=高橋信宏/2004年1年)
・トヨタ・クラウン【短評(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000014663.html

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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