ポルシェ911GT3(6MT)【試乗記】
尽きない“911の魅力” 2003.08.02 試乗記 ポルシェ911GT3(6MT) ……1575.5万円 2003年7月18日、「Porsche High Performance Press Test Drive」と題して、FISCO(富士スピードウェイ)で開催されたポルシェ2003年モデルの試乗会。目玉の1つである、911のハイパフォーマンスNAモデル「GT3」に、自動車ジャーナリストの笹目二朗が試乗。よりパワフルになったエンジンの内容などについて解説する。
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普段着の金看板
300km/hを超えるロードカーといえば、かつては“夢の領域”にあったものだが、ポルシェはそれを日常風景として市販化した。一見ノーマル911とよく似た、スペシャルバージョンの「GT3」がそれである。いまの911を見ると、全モデルが300km/hの大台を超えるような気さえする。「GT3」は高価で希少な最高峰スポーツであるが、そのポルシェの金看板が普段着のままなのだから、一層不気味だ……。
GT3の2003年モデルは、従来型から更にパワーアップされた。最高出力は、360ps/7200rpmから381ps/7400rpmへ。トルクも37.7kgmから39.3kgmに向上した。最高許容回転数は400rpm高まり、1〜4速までが8400rpm、5、6速は8000rpmまでまわせる。これらにより、0-100km/hは以前より0.3秒速い4.5秒、最高速度は306km/hに達した。
新しいGT3は、アメリカで購入できることもポイントである。欧州排ガス規制「EU4」だけでなく、北米の「LEV」排ガス規制をパスしたからだ。ポルシェは、時々で“究極”と思われても、「最新こそ最良のポルシェ!」。その進化はとどまることを知らない。
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新型エンジンの舞台裏
GT3に興味をもたれる方なら、こんな改良点やスペックなどは先刻ご承知かもしれない。では、許容回転数が400rpm上がった舞台裏を説明しよう。
03モデルのGT3に搭載されるエンジンは、コンロッドを延長してレブリミットを高めた。長いコンロッドが高回転に有利なワケは、ピストンの首振りが減少し、気筒内の動きがスムーズになるからだ。ストローク量でコンロッドの長さを割った値「コンロッドレシオ」が、その目安となる。
新型は、コンロッドとピストンをつなぐコネクティングロッドにチタン合金を採用。コンロッド長を、2000年モデルより2.2mm長い130mmとしたのである。
GT3のエンジン「M96/79」型は、ブロックとケースが一体型となった現行911(996)やボクスターの「M96/03」や「M96/22」とは素性が違う。クランクケースからヘッドまで、長い長いスタッドボルトで留めていく伝統的な水平対向ユニットだ。往年のレースカー「935」や、ルマン24時間レース連覇で名をはせた「956」「962」の系譜にあり、クランクシャフトをはじめとする基本的な設計は、約40年前に逆上る。物理的に3.8リッター(102×78mm)まで排気量アップできるが、ボア100mmのまま排気量3.6リッターを得るためには、76.4mmのストロークはそのまま。つまり、コンロッドそのものを延長することはできない。
ではどうやったのか? その秘密はピストンの設計にある。新設計された鍛造ピストンは、ジャケットの高さを低くして24グラム軽量化するとともに、ピストンピンに新しい高強度素材を採用して細く設計。上端まで詰めることで、2.2mmを稼ぎだした。ちなみに、コンロッドレシオはこれでもやっと1.70だが。
その他の改良点として、ポルシェご自慢のバルブコントロール技術「バリオカム」が、スプロケットの作動角を従来の25度から45度に拡大。さらに、これまでのオン/オフ2段切り替えに対して、連続可変制御されるようになった。ほかに、6段MTは5、6速のギア比を低くクロースさせたり、フロントに6ポットキャリパーを奢ったブレーキの強化、空力特性の改善など、微細な項目のリファインも施されている。
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驚異のブレーキ
FISCOで催された試乗会では、GT3のワンメイクレースカーである「カップカー」も用意され、JGTC(GT選手権)で活躍中の岡田秀樹選手が“タクシードライバー”を勤める同乗走行も体験できた。数年前に911ターボで走って以来、FISCOはおろかサーキットそのものを走っていない筆者にとって、GT3はまったく“猫に小判”だったかもしれないが、それなりに楽しかった。
同時に、現行911カレラ系列や「ボクスター」シリーズも用意されており、「カレラ4S」と「カレラ4カブリオレ」も、合わせてコースで試乗した。
まず、現役レーシングドライバーの横に乗せてもらった。助手席の印象は、加速感そのものは大したことなく、スムーズに速度が引き上げられていくだけ。一方、サーキットで実感できたのは、ブレーキの強大さである。
300km/hほどに達すると思われる(隣からではメーターの淵に針が隠れて見えないゾーンにまで達していた)ホームストレートの終わりで、約100mの間に6速から2速までシフトダウンする腕も見事だが、それにしてもよくフェードせずに減速できると感心した。レース仕様とはいえ、さすがポルシェである。
コーナリング中の横Gは思ったほどではなかったが、ホールドのいいシートにベルトで括りつけられているせいもあるだろう。予想を裏切られたのは、乗り心地がいいことだ。一種の浮遊感覚とでもいおうか、前後&横Gの連続に較べると、上下Gなど無に等しく感じられた。
それにしても、レーサーの腕前はスゴイものだと感心した。ムダのないライン取りに加え、減速→コーナリング→加速の連携はスムーズ至極。だから、急激なG変化がなく、「ターンインしたな」と体で感じられるのは、ヘアピンやシケインなどのタイトコーナーくらいのものだ。たとえば、前後Gと横Gの関係だけで、感覚をもとにコースを再現したら、加速減速の直線区間を結ぶコーナーは2速で走っている時だけ、といった感じである。それにしても、貴重な体験だった。
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200kg軽い感じ
さて、“ノーマル”GT3のハンドルを握る番がきた。
走り出すと、エンジンパワーよりもボディの身軽なことが印象的だ。加速Gが瞬発的に高まることなく、Gが長く持続すると航空機の離陸時のような感覚になるからだろうか。911カレラクーペ(6MT)より車重は40kg軽いが、体感的には200kgほど軽く感じる。
そしてもちろん、速いクルマである。先に乗った名人の真似はとてもできない。「何度か練習を積めば近づけるかな?」というのはせいぜい3速までで、それ以上のギアポジションでは、とてもリミットまでまわせない。ホームストレートでも、200km/hに達したあたりで6速に入れてしまう。減速は200mカンバンのはるか手前から開始した。ちょっと情けないが、まぁ、年寄りの冷や水にならないうちに……。
GT3は、アンダー&オーバーステアを電子制御でニュートラルに制御する「PSM」(ポルシェスタビリティーマネージメント)が装備されない。だから、スロットルのオン/オフでオーバーステア体勢をつくり出すことができる。自分でも「何とかなりそう」な2速でのコーナリング、100Rを抜けた後のヘアピンで、意図的にリアを振りだしてみた。
こういったシチュエーションでは、ハイパワーと強大なリアトラクションの恩恵を味わうことができる。スロットルを踏み込むことで、オーバーから容易にアンダーステアに引き戻すことができるのだ。
さらに、オプションで装着されていた「PCCB」にも驚いた。10数名のジャーナリストが、代わるがわるサーキットを攻めているのに、カップカーと同様、煙も匂いもしない。もちろん、制動力は素晴らしい。
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夢みる余地
4駆+PSMを備えるカレラ4や4Sは、GT3に較べてハッキリ重いけれども安定している。最近は、クルマのほとんどがFF(前輪駆動)主流だから、操舵輪に駆動力が加わる方が安心感がある。駆動力が操舵を助けるし、当然のことながら直進性もいい。
もし、GT3の4WD版「GT4」なる仕様が出現したとすると、911のスペシャルモデルの魅力はさらに増すのではないか? サーキットを走るには軽いに越したことはなく、GT3の存在価値もそこにあるのだが、ウェット路面まで考慮すればGT4の方が有利だ。操縦感覚の違いによる「面白いか面白くないか」の観点からも、前述の通り、むしろ前輪にトラクションがかかった方が、安心でイイかもしれない。911はもともとリアが重いから、プロップシャフトを通してフロントにトルクを運んでも、当然、重量配分は有利。そのうえ、アンダー&オーバーステア特性の変化は減少する。
コンマ何秒を競うレースの世界では、“速さの絶対値”が問題になる。しかし、運転を楽しむスポーツカーの場合は、安心してコントロールを楽しめる方がいい。だから、商品企画としてもアリだ。GT3より高値で販売できるし、ポルシェの限定車ならすぐ完売するだろう。
現実にはGT4なんて(まだ?)存在しないが、そこまで想像が膨らむほど、911という車の魅力は尽きない。サーキットを走ることがすくない筆者には、GT3の真の実力を引き出せない事情もあり、カレラ4Sで充分と思った。しかしGT4なら、夢みる余地がある。
(文=笹目二朗/写真=清水健太/2003年8月)

笹目 二朗
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