フォルクスワーゲン・パサートW8【試乗記】
加速感とエンジン音がハーモナイズされる 2003.01.01 試乗記 フォルクスワーゲン・パサートW8 Kazuo's FAST! Impressionの第5回は、「国民車」を意味する社名をもつフォルクスワーゲンが放つプレミアムモデル、「パサートW8」。その名の通り、W8型というユニークなエンジンを搭載する野心作はどうなのか? 清水和夫が、スイスはジュネーブで試乗した。 会員コンテンツ「Contributions」より再録。
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「打倒メルセデス!」
フォルクスワーゲンが、とてもユニークな8気筒エンジンを開発した。プロペラ機に使われる航空機エンジンのように、クランクシャフトを中心に複数のバンクがある8シリンダーだ。かつてのゴルフVR6、現ボーラに搭載される狭角15度のV6ユニットから2気筒を切り落としたV4を、72度のバンク角で合体させたのだ!!
「V」型がふたつあるので「W」型となるわけだが、こんなエンジンをクルマに使おうとは、近年、世界中の誰も考えなかった。聞くところによるとVWグループの総帥、フェルディナント・ピエヒ博士のアイディアだそうだ。さすがは、F.ポルシェ博士の孫である。
私はW8エンジンを搭載したニューモデル、「パサートW8」に乗りたくて、さっそくプレス試乗会が開かれるスイスはジュネーブに飛んだ。パサートW8は、2001年のジュネーブショーで発表された。8シリンダーながら、パサートのエンジンルームにすっぽりと収まってしまうコンパクトさがオドロキであった。
ところで、最近VWは、高級車マーケットに進出することに懸命になっている。イギリスの伝統的なメイク「ベントレー」やイタリアの高級スポーツカーの名門(であった)「ブガッティ」を買収するなど、「打倒メルセデスベンツ!」を意識した、大胆な挑戦を始めた。というのも、一方のメルセデスが、AクラスやMCCスマートをつくり、小型車の世界に入り込もうとしているからだ。
これはVWにとって面白くない。もともとは、「小型車のVW、高級車のメルセデス」といった棲み分けができていた。いってみればメルセデスとVWは、竹馬の友だ。それがグローバル化という大きな波にさらされ、「お互いのテリトリーを尊重する」といった悠長なことが許されなくなった。いまや両者は、お互いのなわばりを浸食しあう好敵手となったのである。
力強く、静か
メルセデスを「ぎゃふん」と言わせるには、まず高級なエンジンが必要だ。VWグループの一員であるアウディにはV8がある。しかしプレミアムメーカーの一員になるべく、アッパー市場に新規参入するフォルクスワーゲンには、もっとコンパクトで先進的な8気筒が求められた。その意味でも、今回のW8には重要な意味があるのだ。
W型エンジンは、パサートに積まれるだけではない。V型4気筒を2つつなげるとW8に、V6のまま結合するとW12気筒になり、これは今後現われるDセグメントのラグジュアリカー「D1」に搭載される予定である。さらにW8を縦に連ねてW16としたユニットは、将来「ブガッティ」の名を冠したモデルに用いられるはず。つまり、パサートのW8は、新しいモジュラーエンジンシリーズ構築の第一歩を意味するわけだ。
パサートの4リッターW8は、275ps/6000rpmの最高出力と、37.7kgm/2,750rpmの最大トルクを発生する。スペックは控えめであるが、実車の最高速度は、リミッターが作動する250km/hを楽に達成するであろう。
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W8と4モーション
パサートW8の試乗コースは、ジュネーブからアルプスに至る山岳路が用意された。CセグメントのパサートがW8を搭載したことで、「かなり高級車に変身した」というのが、第一印象である。バランサーシャフトが効いているのだろう、アイドル振動が見事なまでに静かだ。アイドルストップ機構がついているのかと思ったほど。DOHCヘッドのバルブを駆動する「ローラーロッカーフィンガー」も低振動を狙って開発されたという。
走り出すと、非常にスムーズに加速する。低速トルク重視のエンジンというわけではないので、低い回転域で特にトルキーとは感じない。けれども、タコメーターの針が3500rpmを超えたあたりから、すこし違ったフィールとなる。パワーは回転の上昇とともにリニアに高まる。加速感とエンジンサウンドがハーモナイズされ、心地よい音が耳に届くようになる。
W8ユニットは、イグニッションの点火順序がフェラーリのV8と同じである。さらにエグゾーストパイプの集合方法もこだわっており、スポーティな味が重視されたようだ。実際、スムーズに吹き上がる感覚は、スポーティユニットとしての資質十分。VWが狙うプレミアムカーのコンセプトは、メルセデス流「伝統的な高級車」というより、もうすこしBMW寄りなのかもしれない。
6段MTもしくはティプトロニック付き5段ATを介してW8のパワーとトルクを受けとめるのが、「4モーション」と呼ばれるアウディ「クワトロ」ゆずりの4WDシステムだ。これは、トルセン式のセンターデフを用いたフルタイム四駆で、通常は前後50:50にトルクを分配する。安定した高速走行を実現するといった機能面のみならず、パサートの「プレミアム度」向上にも一役かっている。「トラクション4」と呼ばれる4輪駆動機構を搭載したジャガー・タイプXと同じ手法である。フォルクスワーゲンは、W型エンジンと4モーションで、プレミアムセグメントへの扉を押し開けようとしているのだ。
(文=清水和夫/写真=フォルクスワーゲン グループ ジャパン/2001年7月26日)

清水 和夫
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