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【語ってくれた人】ワルター・マリア・デ・シルヴァ(Walter Maria de Silva)さん/フィアット、アルファ・ロメオなどを経て、1999年にフォルクスワーゲングループに属するセアトのデザイン責任者に就任。2007年2月から現職。1951年イタリア・レッコ生まれ。

フォルクスワーゲンup!【開発者インタビュー】

シンプルかつ機能的であれ 2012.09.27 試乗記 青木 禎之 <開発者インタビュー>
ワルター・マリア・デ・シルヴァさん
フォルクスワーゲンAG
グループデザイン責任者

2012年9月18日、新しいフォルクスワーゲンのボトムレンジモデル「up!(アップ!)」が、日本で華々しくデビューした。タイミングを合わせて、フォルクスワーゲングループのデザインを統括するワルダー・デ・シルヴァ氏が来日。最新のカーデザイン事情をうかがった。

小型車は使いやすさが大事

「フォルクスワーゲンup!」のデザインコンセプトは、「シンプル&クリーン」。デザイン面から見た、クルマとプロダクトの関係を探ってみると……。

――up!のデザインの狙いは、どのようなものですか?

言うまでもありませんが、up!はスモールカーであり、現代のクルマです。日常の生活にかかわるプロダクトという意味では、例えば手元にあるiPhoneなどと並ぶものといえます。今は、電話、テクノロジー素材に限らず、家具、ランプ……、あらゆるものをひっくるめて、“シンプルかつ機能的”であることを求める人が増えている。「そうした人たちに働きかけていこう!」というのが、われわれの狙いです。up!に限らず、「ゴルフ7」にも、その考えは反映されています。

――フォルクスワーゲンとアップルのデザインが比較されることを意識しますか?

アップルよりフォルクスワーゲンのほうがずっと古いんですけどね! 比較されることはイヤではありません。アップルのジョナサン・アイブ氏と私のデザインで共通するのは、すぐに「あ、あそこのデザインだ!」と気が付くことです。カーデザイナーのなかには、1年後にまったく違ったデザインを出してくる人もいます。それではお客さまが混乱してしまう。私はそうではない。自分の哲学に従ってデザインをした方が、結局は広く受け入れられるのではないかと思います。

――発表会のプレゼンテーションで、インターネットのハナシが出ましたが……?

インターネットを楽しむ人が増えたのは、大きな社会的な変化です。ただ、実際のモビリティーがインターネットに取って代わられるわけではありません。どうしてインターネットを使う人がこんなにも増えたのか? それは、「簡単」「使いやすい」からです。クルマも、特に小型車は、使いやすいことが大事。短い距離、街なかで、使いこなせる必要があります。シンプルで簡単なもの。それがひとつの発想として出てきました。

――リアビューは、スマートフォンからインスピレーションを得たと聞きます。ただ、「笑顔」をモチーフにしたフロントと比べると、ややわかりにくいのでは?

up!のリアビューは、コンビネーションランプを中心にデザインし、全体としてガラスのハッチバックになりました。どうしてああいうカタチにしたのか? デザイン面、技術的な問題、そしてコストのことを避けて通ることはできません。クルマのデザインは、見た目の美しさ、機能性を考えないといけませんが、なにしろ数が造られるものですからね。コストにも敏感でないとならないのです。

フォルクスワーゲングループの新しい生産戦略「ニュースモールファミリー」に属する「up!」。同社はグループ内のブランドやクラスを超えて、さまざまなコンポーネンツを標準化することをもくろんでいる。開発コストを抑え、競争力をアップするためだ。
フォルクスワーゲングループの新しい生産戦略「ニュースモールファミリー」に属する「up!」。同社はグループ内のブランドやクラスを超えて、さまざまなコンポーネンツを標準化することをもくろんでいる。開発コストを抑え、競争力をアップするためだ。 拡大
「生産のモジュラー化は、デザイン面ではプラスに働く」とデ・シルヴァさん。「同じプラットフォームを使って、セダン、SUV、スポーツカーと多彩な車種が生み出されます。スケールメリットが増すので、いままでコストの面で厳しかったデザイン上の挑戦が可能になるのです」
「生産のモジュラー化は、デザイン面ではプラスに働く」とデ・シルヴァさん。「同じプラットフォームを使って、セダン、SUV、スポーツカーと多彩な車種が生み出されます。スケールメリットが増すので、いままでコストの面で厳しかったデザイン上の挑戦が可能になるのです」 拡大
「up!」は若干の変更を受けて、ブラジルをはじめとする南米にもデリバリーされる予定だ。
「up!」は若干の変更を受けて、ブラジルをはじめとする南米にもデリバリーされる予定だ。 拡大
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「シンプル」はわれわれのDNA

5歳、6歳の時分からクルマの絵を描いていたというデ・シルヴァさん。実際には、どのようにデザインしているのだろうか?

――デ・シルヴァさんが手がけるデザインは、自身の内側から湧いてくるものですか? フォルクスワーゲン・ブランドにふさわしいものとして出てくるのですか? それとも、時代のトレンドを捉えようとしているのですか?

三つとも該当します。私の作品は、まさにデ・シルヴァでもあります。私は、グッドプロポーションというものを求めてきましたし、あまり複雑でないラインを好んできました。フォルクスワーゲン以前の、アルファ・ロメオやセアトでのデザインを見てもらえればわかると思います。クルマを通して、自分の感覚を伝えたいというのがまずあります。

次に、シンプルな、ということ。シンプリシティーは、フォルクスワーゲンのDNAに入っています。本来持つ「機能性」「実用性」といったものをデザインに翻訳すると、「シンプリシティー」というキーワードが出てくるのです。

三つめに、やはり「時代の要請」があります。お客さまが何を求めているかに注意を払うことも、デザイン責任者としての役目だと思います。ただ、マーケティングとデザインとのバランスは微妙なものです。お客さまの意見だけを聞きすぎると、実際にクルマが出たときには古いものになってしまう。むしろお客さまの要求を先取りすることが、デザイナーとして重要だと考えています。

――デザインをするとき、色を想定して描きますか? それともラインだけですか?

カーデザイナーのなかには、最初からコンピューターを使ってデザインする人もいます。私は昔ながらの、正面から、横から、後ろから、と描くタイプです。今では(フォルクスワーゲングループ内で)ジウジアーロと私が、そういう形でデザインする最後の二人なんじゃないかと思います。色については、それを決める専門家がいるので、その人たちに任せます。私にとって色といったら……、ブルーしかないんです!

発表イベントでは壇上で自らデザイン画を描く演出も。
発表イベントでは壇上で自らデザイン画を描く演出も。 拡大
デ・シルヴァさんは「デザイン面でビートルとゴルフは非常に重要な車種」と語る。「アイコンであり、機能的でクリーンなデザインということでも参考にします。ただ、そのまま持ってくるのではない。デザインが持つ意味を引き継ぎつつ、新しいモノを紹介していきたい」
デ・シルヴァさんは「デザイン面でビートルとゴルフは非常に重要な車種」と語る。「アイコンであり、機能的でクリーンなデザインということでも参考にします。ただ、そのまま持ってくるのではない。デザインが持つ意味を引き継ぎつつ、新しいモノを紹介していきたい」 拡大
「あまり複雑でないラインが私の好み。フォルクスワーゲン以前の、アルファ・ロメオやセアトでのデザインを見ればわかっていただけると思います」とデ・シルヴァさん。
「あまり複雑でないラインが私の好み。フォルクスワーゲン以前の、アルファ・ロメオやセアトでのデザインを見ればわかっていただけると思います」とデ・シルヴァさん。 拡大

自らスケッチすることを忘れない

フォルクスワーゲングループは、世界で1、2位を争う巨大な自動車メーカーである。デザインに関しては、12あるブランドごとにデザインセンターがあり、ブランド間の調整は四つの本部で行われる。カロッツェリアの「イタルデザイン・ジウジアーロ」も傘下に収まった。また、「ドゥカティ」もグループに加わったので、オートバイのデザインセンターもある。

――今は総勢2000人を超す大所帯をまとめる立場にあるわけですが、時に「オレに描かせろ!」と思うことはありませんか?

実はまだ、毎日スケッチしているんです! スケッチが私の言語です。というのも、デザイン部門には20カ国から来た、20の異なる言語を話す人たちがいて、そうすると私たちの共通言語は「描くこと」になるわけですね。うれしいことです。

もちろん、今の役目はデザインすることだけではありません。さまざまなデザインセンターの責任者たちをサポートし、手助けし、助言し、最終的には会社の中枢部と「どのデザインを選ぶか?」という決定もしなければいけない。市場での成功がかかっているので、非常に難しい。デリケートかつ責任ある役割です。

ただ、私はスケッチすることを忘れません。デザインのプロフェッショナルであり続けるために。毎日、デザインを良くすることを考え、デザインについて深く知るようにすれば、デザインを選択する場面において、間違いを犯す確率が減るのではないかと思います。

――カーデザインにおいて、1950年、60年代はカロッツェリア、80年代はエアロデザイン、2000年代はブランディングの時代、とまとめられるかもしれません。今は何の時代でしょう?

その分析は正しいですね。今は何の時代か? 複雑な時代だと思います。自動車メーカーにとっては厳しい時代で、生き残りをかけた競争をしています。自動車はこれからも長い年月造られ続けるわけで、私たちデザイナーも大きな責任を負っています。

市場の要求に応える。お客さまの嗜好(しこう)に合わせる。一方で、例えば生産コストを下げる努力も必要になる。クオリティーを下げることなしに。人件費を削ってはいけないし、工場の閉鎖などあってはならない。自動車業界は、なかなか難しい状況にあります。だからカーデザイナーも、かつてのように“ちょっと気まぐれ”、「カプリッチョ」のようなことは、もうできなくなっているのです。

(まとめ=青木禎之/写真=DA)

発表イベントの翌日は1日フリー。「東京の中を歩きながら、どういうクルマが走っているのか、競争相手がどんなことをしているのかを、じっくり観察したいと思います」
発表イベントの翌日は1日フリー。「東京の中を歩きながら、どういうクルマが走っているのか、競争相手がどんなことをしているのかを、じっくり観察したいと思います」 拡大
フォルクスワーゲングループのデザイントップは、日本のカーデザイナーについて、どう評価するのか? 「非常にポジティブな感覚を持っています。日本のカーデザイナーたちも成熟し、経験を積んできたので、ヨーロッパの人たちと遜色のないレベルに達しています。もちろん両者は、文化面で内に持っているものは違いますが、プロ意識という点で変わりはありません」
フォルクスワーゲングループのデザイントップは、日本のカーデザイナーについて、どう評価するのか? 「非常にポジティブな感覚を持っています。日本のカーデザイナーたちも成熟し、経験を積んできたので、ヨーロッパの人たちと遜色のないレベルに達しています。もちろん両者は、文化面で内に持っているものは違いますが、プロ意識という点で変わりはありません」 拡大
「父は私を建築家にしたいと思っていたようです。でも、私は5歳、6歳の頃からクルマの絵を描いていて……。もう父はいませんが、今の私を見てくれれば、『カーデザイナーになって良かったね』と言ってくれると思います」
「父は私を建築家にしたいと思っていたようです。でも、私は5歳、6歳の頃からクルマの絵を描いていて……。もう父はいませんが、今の私を見てくれれば、『カーデザイナーになって良かったね』と言ってくれると思います」 拡大
青木 禎之

青木 禎之

15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。

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