フォルクスワーゲン・ゴルフGTX(5AT)【ブリーフテスト】
フォルクスワーゲン・ゴルフGTX(5AT) 2002.08.31 試乗記 ……340.0万円 総合評価……★★★ターボラグジュアリー
ゴルフIVデビュー以来、「GTI」は機関的差異、つまり“韋駄天”バージョンを意味するグレード名ではなく、スポーティな装い、言い換えると「トリムレベル」を表す言葉となった。だから、同じ1.8リッターターボモデルでも、内装が変更されると名称が変わる。
「GTX」は、レカロ社製レザーシートが奢られたゴルフの最豪華版。「オートエアコン」「レインセンサー付きワイパー」「自動防眩ルームミラー」、さらには「ナビゲーションシステム」標準装備と至れり尽くせり。「GTI」との価格差は41.0万円だから……と悩むヒトより、お金持ちの“買い物グルマ”として設定された、ハズだ。かつてのルノー「バカラ」のように。「GTI」よりひとまわり小さく厚いタイヤで優雅に走るターボラグジュアリー。
なお、2002年モデルから、ゴルフターボモデルのオートマチックトランスミッションが4段から5段(シーケンシャルモード付き)にステップアップ。スペック上も高級(スポーティ)ハッチに。が、コンピューターがまだ5ATを使いこなせてない印象で。ゴー、ストップを繰り返す都市部だと、頻繁になったシフトが気になる場面も。むしろユーザーが恩恵を被るのは、当局の不当な規制から脱したドアミラーの大型化。ゴルフシリーズ全車、横幅が5cm伸びた。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
初代ゴルフのデビューは1974年。「ハッチバック」という車型を大衆車のスタンダードにした。デザインを手がけたのは、いわずとしれたジウジアーロ。
4代目となる現行モデルは、1997年に登場した。本国では、3/5ドア、ワゴン、そしてカブリオレがラインナップに載る。エンジンラインナップも豊富で、1.4リッター直4から2.3リッターV5、2.8リッターV6、さらに5種類もの出力バリエーションをもつ1.9リッターディーゼルがカタログに載るが、日本に入るのは直4モデルのみ。ゴルフIVは、フルモデルチェンジ翌年の98年から販売が開始された。
いわゆる2002年モデルのゴルフは、全グレード、サイドミラーが大きくなった。ターボモデルに5段ATが奢られたのもニュース。
(グレード概要)
わが国での5ドアハッチのラインナップは、下からE(1.6リッターSOHC/4AT=219.0万円)、CLi(2リッターSOHC/4AT=249.0万円)、GLi(同/4AT=270.0万円)、GTI(1.8リッターDOHCターボ・インタークーラー付き/5MT=289.0万円、同/5AT=299.0万円)、GTX(同/5AT=340.0万円)の5種類。
「GTX」は、「GTI」をベースに、レカロ製レザーシートが用いられる豪華版。装備も充実。タイヤサイズはコンフォートを重視し、GTIの「205/55R16」から「195/65R15」に変更された。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
つや消し黒が支配する室内。標準装備のナビゲーションシステムのディスプレイまわりには、控えめにブラックウッドパネルが使われる。スポーティを前面に押し出した「GTI」と異なり、ラグジュアリー寄りの「GTX」には、フロントセンターアームレストが用意される。小物入れにもなる。シートに合わせて革製だ。
速度計と回転計に挟まれた「マルチファンクションインジケーター」には、ステアリングコラムから右側に生えたワイパーレバー先端のボタンを押すことで「瞬間燃費」「平均燃費」「走行距離」「運転時間」「外気温度」を順に表示することができる。地球環境を考えたドライビングに寄与するほか、渋滞時の時間つぶしにもいい。
(前席)……★★★
革巻きステアリングホイールは、チルト(上下)テレスコピック(前後)が可能。GTXの目玉、ブラックレザーのレカロシートは、手動でスライドでき、運転・助手席とも座面横のレバーを上下させるラチェット式のハイトコントロールおよびダイヤル式のランバーサポートが備わる。好みのドライビングポジションを取りやすい。背もたれの、大仰に張り出したサイドサポートがスポーティ。張りの強いレザーにクッションが詰め込まれ、乗員の体重が軽いと弾かれる感じ。革の質感はほどほど。上級グレードらしく、シートヒーター付きだ。
(後席)……★★★
前席同様、RECAROの革シート。座面は短めだが、膝前、頭上とも実用的なスペースが確保され、足先は前席の下に入れられる。左右の3点式シートベルトは、取り付け位置を上下できる。従来通り、ヘッドレストは2つなので、ゴルフのリアシートは実質ふたり用。センターには、小物入れにもなる大きなアームレストが備わる。
(荷室)……★★★
330リッターの容量(ISO法)をもつラゲッジルーム。床面最大幅100cm、奥行き82cm、パーセルシェルフまでの高さ50cm。リアシートは、ダブルフォールディングが可能で、その場合、140cmまで奥行きが延びる。12Vのアクセサリー電源ソケットあり。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
1750rpmというオートマ車の常用域から最大トルクを発生する、フラットな特性をほこるパワーソース。5バルブの1.8リッターユニットのアウトプットを、過給器がやんわり底上げする。MTモデルだと少々もっさりしたフィールだが、トルクコンバーターをもつATと組み合わされると、穏やかで力持ちな美点が強調される。ただし、注目の5段ATからは、期待されたほどのスムーズさは感じられなかった。出足のよさと狙ったギア比が採られたが、速度が細かく変化する都心では、シフトアップを迷ったり、頻繁に変わるギアが気になることも。今後、プログラムの熟成が進められるのだろう。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
街乗りでは、ゴルフ一族に共通する生真面目な硬さをみせる。走行距離2000kmに達しないまっさらな新車ということもありましょうが……。一方、ハイスピードクルージングは得意。スロットルペダルに軽く足を載せているだけで、あたかも新幹線のように(?)スタビリティ高く疾走する。山道では、落ち着いた身のこなしを見せる。フラットなターボエンジンを積むせいもあり、ドライバーがエキサイトすることはない。「GTX」はタイヤサイズが「GTI」よりワンサイズ落とされ、ブレーキディスクも小さくなるが、それが気になる際は、自分の“走り”を反省した方がいい。
(写真=清水健太)
【テストデータ】
報告者:webCG青木禎之
テスト日:2002年7月26から30日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2002年型
テスト車の走行距離:1757km
タイヤ:(前)195/65R15 91V/(後)同じ(いずれもMichelin Pilot Primacy)
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(6):山岳路(2)テスト距離:349.7km
使用燃料:61.2リッター
参考燃費:5.7km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。