レクサスHS250h“バージョンL”(FF/CVT)【試乗記】
次の一歩が見てみたい 2013.03.24 試乗記 レクサスHS250h“バージョンL”(FF/CVT)……586万2300円
マイナーチェンジが施された「レクサスHS250h」に試乗。デビューから3年半を経た“ハイブリッド・セダン”は、どのように進化したのか? その価値についても考えた。
他車にはない華がある
「レクサスHS250h」が、クルマ好きが熱狂するタイプのクルマでないことは、皆さんご存じの通り。「急(せ)き立てられるような熱いクルマは好きではない」、もしくは「卒業した」、あるいは「熱いクルマを別に持っている」という人を対象にしたのがHSだ、多分。
車名のHSはハーモニアス・セダンの略。ちなみに、「IS」はインテリジェント・スポーツの、「GS」はグランドツーリング・セダンの、「CT」はクリエイティブ・ツーリングの、「RX」はラディアント(輝く)・クロスオーバーの略だそう。「LS」は何の略か見つけられなかったが、レクサスのセダンということだろう。
HSは、2009年の発売以来3年半がたった今年の初めに、マイナーチェンジした。主眼はスピンドルグリルのレクサス顔を得たことだ。これで、レクサス顔をもたないのはISのみということになった。次期ISの姿はもう明らかになっていて、大きなスピンドルグリルが備わるようだから、間もなくスピンドル勢ぞろいということになる。
唐突だが、HSのインテリアで気に入った部分がふたつある。ひとつは「バージョンL」だと選べるバンブー素材。ステアリングホイールやセンターコンソール、ドアにあるパワーウィンドウのスイッチ周辺に竹を曲げたパーツを選ぶことができる。特に機能的に優れているというわけではないけれど、触感がいいし、見た目もきれいで、ほかで見ない。何より日本的だ。バンブーとオフホワイトのレザーシートの組み合わせによって、高価格だが高圧的ではない、健康的なインテリアに仕上がっている。
もうひとつもレクサスのオリジナルであるリモートタッチ。カーナビ、オーディオ、エアコンなどを操作する際のインターフェイスだ。モニター画面のカーソルを動かして操作するのがPC的であり、直感的操作を可能とする。ドイツ車のダイヤル式もよいが、それらをまねるのを避けながら、機能的なものをよくぞこしらえたという感じだ。
存在感増すハイブリッド・セダン
それにしても、トヨタのハイブリッド・セダンが増えた。レクサスHS250hをはじめ、基本コンポーネンツを共用する「トヨタSAI」があるし、同じFFセダンの「カムリハイブリッド」がある。そしてFRの「クラウンハイブリッド」もある。
クラウンハイブリッドは従来3.5リッターのV6エンジンにモーターを付与したタイプだったが、新型は2.5リッターの直4エンジンに切り替わった。これで2.4〜2.5リッターの直4エンジンを積むハイブリッド・セダンが4車種。300万〜500万円と価格帯にそれなりの幅はあるが、売れ筋はだいたい350万〜450万円前後だろう。もはやハイブリッドは特別なものではなく、トヨタ車、レクサス車の代名詞ということか。
「4車種中、HSを積極的に選ぶ理由はどこにあるかな?」ということを考えてみた。まず、HSとSAIはどちらも2.4リッターの2AZ-FXEエンジンを積むので、同じシステム出力(190ps)を発生するが、燃費が異なる。HSが20.6km/リッターなのに対し、SAIは21.0km/リッター。誤差の範囲とも言えるが、価格が高いHSのほうが劣るのは釈然としない。
これに対して、カムリは2.5リッターの2AR-FXEエンジンを積み、205psで23.4km/リッター。クラウンは2.5リッターの2AR-FSEエンジン(2AR-FXEに直噴、ポート噴射を切り替えるD-4S技術を盛り込んだエンジン。縦置き)を積み、220psで23.2km/リッター。つまり、HS、SAIよりもカムリ、クラウンのほうが、力強い上に燃費がよい。世代の違いといえばそうなのだろうが、この点、HSとSAI、特に値の張るHSはいささかつらいというのが正直なところだ。
走りに問題があるわけではない。冒頭に書いたように“急き立てられるようなもの”を求めなければ、HSは力強さはもちろん、乗り心地や静粛性においても不満はない。過不足なくよく走る。今回は高速道路を中心に167km走って燃費は15.8km/リッターだった。高速道路が中心の走行であれば、同価格、あるいは同クラスのセダンにこれくらい走るモデルがあるかもしれないが、HSは渋滞を含む街中を中心に走ってもこの程度の燃費をたたき出すという点が異なる。回生したエネルギーを直接走りに使うことができるハイブリッドならではの芸当だ。
突出しない優等生
トヨタが誇る「THS(トヨタ・ハイブリッド・システム)」。細かい進化を繰り返しながらも、世代としては2世代目の「THS II」が現行モデルに搭載される。レクサスに搭載される場合は「LHD(レクサス・ハイブリッド・ドライブ)」と呼ばれるこのシステムは、トヨタを販売世界一に押し上げた、いくつかの理由のうちの、大きなひとつであることは間違いない。
1997年末に初代「プリウス」に載って登場したTHSは、すぐに搭載車が爆発的に売れたわけではない。(LHDを含む)THS搭載車の国内累計販売台数が100万台を突破したのは2010年7月で、登場から13年を要したが、200万台に達したのは12年10月。わずか2年で倍増した。搭載車種が増えたのと、ここ数年で急激に高まったユーザーの燃費志向や、エコカー減税などの官製インセンティブなどがハイブリッド車を強力に後押しした。
商売である以上、これだけ売れたものはだれがなんと言おうと正しい。従来のファン・トゥ・ドライブの尺度を当てはめれば大したことないのかもしれないが、静かなまま発進したり、停止前にエンジンが止まったり、短距離ながらEVとして走ったり、とにかく燃費がよかったり、新しい楽しさを提供してくれる。ハイブリッド車はエンジンのみで走るクルマの燃費ターゲットであり続けただけでも存在意義がある。
ただ、願わくば、そろそろハイブリッドによる恩恵を異なるかたちでも見せてほしくなった。走りの気持ちよさにつながるハイブリッドでもよいし、さらなる燃費性能の追求でもよい。もちろん、同等の性能をより安価で販売することでもいい。わがままだということはわかる。こんなに売れているシステムとそれを搭載したクルマに注文するのは間違いかもしれないが、THSがすごいことに慣れてしまった。
思えば話は随分遠くへきてしまったが、HSに問題はない。けれど、SAIでもなく、カムリハイブリッドでもクラウンハイブリッドでもなくHSを選ぶ積極的な理由を見つけにくかった。ただ、気に入ったという人に止める理由もない。期待するものを間違えなければ、じっくり付き合うのに適したクルマだと思う。
(文=塩見智/写真=田村弥)

塩見 智
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。




































