フォード・フォーカス Sport(FF/6AT)【試乗記】
真骨頂はシャシー能力 2013.03.25 試乗記 フォード・フォーカス Sport(FF/6AT)……293万円
世界各国で市場投入されてきた3代目「フォーカス」がついに日本で発売となる。久々に上陸した“欧州系フォード”の乗り味を確かめた。
やっと登場
フォードの3代目「フォーカス」が“やっと!”日本でも発売される。開発の中心となったのは従来と同じくドイツ(≒欧州フォード)なので、なんとなく欧州車オーラが強いが、フォーカスはフォードでも随一のワールドカー。この3代目もすでに120カ国以上で市場投入されており、生産拠点は世界で7カ所。日本仕様はタイランド工場製だ。
タイと聞いていまさら品質に不安を持つ人も少ないだろうが、フォーカスを見ればわずかな疑念も吹っ飛ぶだろう。ビルドクオリティーに問題があるはずもなく、樹脂成形その他も最新の日欧生産車になんら引けを取らない。
3代目フォーカスは2010年にパリサロンで世界初公開され、翌年から順次発売された。発売が一番早かった地域と比較すると、日本での発売は実に約2年も遅れたことになる。その間にフォーカスは世界No.1売り上げ(2012年上半期)も記録して、ニューモデル期の盛り上がりは、世界的にすでにピークをすぎた感あり。日本でのフォード販売台数などスズメの涙にすらおよばないことは分かるが、この“日本はカヤの外”感は少しばかり悲しい。
もっとも、3代目フォーカスの日本発売が遅れたのには理由がある。発売時期から考えて、3代目フォーカスの商品企画会議が最も活発だったのは2008〜09年あたりと推測されるが、当時のフォードジャパンは欧州系モデルから距離を置くかわりに、北米系に注力して「アメ車らしいアメ車のフォード」という戦略に傾いていた。つまり、3代目フォーカスの開発初期段階には日本発売は予定されていなかった。その後に「やっぱり日本でも……」となったわけだが、さすがに準備に時間がかかってしまった。というのが真相らしい。
といっても、フォーカスはもともと多様な規格に即時対応できる設計のグローバル商品だけに、この日本仕様に急造感があるわけではない。まあ、自慢の音声認識機能が英語のみなのは残念だが、それは開発期間には関係ない。時間があっても日本の市場規模では日本語対応は難しいだろう。日本仕様のフォーカスは当然のごとく右ハンドルだが、ウインカーレバーまでわざわざ右側に移設されている。このあたりはタイ(日本と同じ左側通行で、右ウインカーが慣習)生産だからか。まあ、日本仕様は2ペダル(=交差点でもシフトレバーをいじる必要はない)のみなので、慣れてしまえばウインカーレバーがどっちでも機能的な問題は特にないけど。
エンジンとDCTの一体感
日本に導入されるのは、タイ工場で生産されるフォーカスで最も高級かつ高性能の「Sport」というモデルである。「アクティブ・シティ・ストップ」なる赤外線センサーを使った低速限定自動ブレーキも標準装備だが、これはボルボの「シティ・セーフティ」やマツダの「SCBS」など、旧フォードグループ勢が使っているものと基本的に同じものと思われる。
トランスミッションは先代の4ATから最新鋭の6段DCT(ツインクラッチ自動MT)に大きく進化した。ただ、生粋の欧州ブランドと異なるのは、DCTと組み合わせられるのがダウンサイジング過給エンジンではなく、2リッター自然吸気エンジンであるところだ。
これを聞いて、なんとなく古くさい……と錯覚する人もいるだろうが、それは誤解。このエンジンはフォード自慢のエコブーストエンジンの“ブーストぬき”といえるもので、直噴ガソリンと吸排気両側の無段階可変バルブタイミングなど、過給機がつかないだけで技術内容は最新鋭。2リッター自然吸気で170psおよび20.6kgmと、お世辞ぬきでなかなかのハイチューンである。
考えてみれば、DCTと自然吸気エンジンとはけっこうレアな組み合わせだが、問題なし……というか、あまたある小排気量過給ユニットよりDCTとのマッチング自体は優秀だとすら思う。
DCTは、良くも悪くも駆動の断続にトルコンのような遊びが少ない。それがDCTの高効率と小気味よさにつながっているわけだが、それゆえにシフトショックともつかないギクシャク感が出やすい。小排気量過給エンジンはいかに新しくデキのいいものでも、過給ラグは皆無ではないから、そういうDCTと小排気量過給エンジンの組み合わせでは、なんとなくカキコキとせわしないフィーリングになってしまうのが宿命である。
その点、フォーカスはエンジンの素直な吹け上がりと鋭い変速が融合していて、なんとも気持ちいい。右足の動きや乗り手の意識と、実際の変速タイミングがピタリと合致するので、あまたあるダウンサイジング過給+DCTとは一線を画す一体感だ。特別にパワフルとは言えないが、さわやかな吹け上がりと加減速を思うままに操れる好パワートレインである。
期待通りのハンドリング
だが、フォーカスの真骨頂はやっぱりシャシーだ。知っている人も多いように、初代フォーカスはその走りで世のCセグメントに衝撃を与えた。「フォルクスワーゲン・ゴルフ」までが、自分たちが元祖であるリアトーションビーム・サスペンションを捨ててマルチリンクを使うようになったのも、フォーカスショックによる。
日本仕様のフォーカスはスポーツサスペンションを備えるからか、市街地などの低速では引き締まり系の乗り心地ではある。ただ、今回の試乗コースとなった伊豆スカイライン(アップダウンと高速コーナーが多い)のように大きな入力が加わる過酷なシーンほど、アシは滑らかに、路面に吸いつくように動く。
ステアリングの効きはグイグイと強力だが、リアの安定性も負けずに強固なので、先の見えないコーナーでも安心して入っていける。それでいて、さらに曲げたいときには右足を緩めるなり、ブレーキをちょこんと当てれば素直に回りこんでいく調律は、期待通りの欧州系フォード。好き者が自分の信じたままに喜々として作っているのを実感する。
とにかくハンドリングオタクなら、10人中9人が絶賛したくなるフォーカスだが、フォーカスとしては今回初の電動パワーステアリングだけは、さすがにちょっと経験不足の感は否めない。パリッとしたハンドリングに対して総じて軽すぎのきらいがあり(パワステを軽めにしがちなのはフォード伝統のクセではあるが)、なかでも特に中立付近が軽いので市街地で滑らかに走らせるには、ちょっとだけ気づかいを要する。また、切り込んでいくときの軽さのわりに、逆方向でけっこう強めに押し戻されてしまうのも要熟成点。アシがこれだけ滑らかに動くわりにコツコツとしたアタリが感じられるのは、タイヤのエコ優先度が高い(試乗車はミシュラン・プライマシーLC)せいかもしれない。
……なあんて、10人中9人にはどうでもいい重箱のスミを思わずつつきたくなるのも、フォーカスのシャシーがそれだけエンスーなデキということだ。先に170psを「特別にパワフルでもない」と書いたが、エンジン自体が絶対的にどうこうより、それはシャシー能力があまりに高度で、この程度のエンジン(?)ではまったく物足りないという意味である。
そんなフォーカスの本体価格は293万円。「意外と安くないな」というのが失礼ながら本音だったりもするが、日本でのフォーカスはハナからマニア物件だから、価格はあまり重要ではない(本当か?)。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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