第171回:厳しい状況でこそ真価が問われる?
スバルSUVシリーズの雪上走行イベントをリポート
2013.03.05
エディターから一言
第171回:厳しい状況でこそ真価が問われる? スバルSUVシリーズの雪上走行イベントをリポート
スバルが、自慢の「シンメトリカルAWD」の実力を伝えるべく、2012年から開催している一般向け雪上試乗会「SUBARU SUV Snow Meeting」。2013年3月2日、3日の2日間にわたって開催された、群馬県は川場スキー場での試乗会の模様をリポートしよう。
4WDの実力を試すにはむしろ好都合?
「おかげさまで、全部で12のメディアから取材予約をいただいていたのですが、開始の時間に間に合ったのは、こちらにいる6社さんのみです……」
ブリーフィング会場となったセンターハウスのレストランに、スバル広報Yさんの残念そうな声が響く。遅れてしまった人を責めているわけではない。窓の外が猛吹雪なのだ。
スバルが、自慢のSUVシリーズの実力を知ってもらおうと開催している、一般向けの雪上試乗イベント「SUBARU SUV Snow Meeting」。北海道、福島に続く、今冬最後の開催地となったのがここ、群馬の川場スキー場だ。
ところが、イベントが開催される3月2日と3日のうち、取材日である3月2日の川場村は大寒波に見舞われてしまったのだ。
「メディア向けの試乗枠も用意しているので、取材にきませんか?」という広報からのお誘いに、「ぜひに」と即答したはいいが、どうにもイヤな予感がしたリポーターは、クルマではなく公共交通機関で会場に行こうと判断。結果的にはそれが大正解だった。
雪道が苦手な私のこと、もしクルマで強行軍を敢行していたら、今頃JAFのお世話になっていたに違いない。
しかし、こうした悪天候でこそ力を発揮するのがスバルの4WDというもの。それに、このような状況下でもスキーを楽しむ人、そして試乗会の申し込みをする猛者はいる。かくして雪上試乗会は、吹雪の合間を縫って開催されることとなった。
ちなみに、今回準備されていたクルマは新型「フォレスター」「アウトバック」「インプレッサXV」の3車種。コースは数百メートルほどの雪上スラロームで、雪上走行を気軽に楽しみつつ、4WDやVDCの効果も体感できるというものだ。また、悪路走破用の新機能「X-MODE」を備えたフォレスターには、スラロームとは別に登坂路コースも準備。下り坂でヒルディセントコントロールを試せるようになっている。
私たちはX-MODEの機能を体感すべく、フォレスターでスラロームと登坂路の両方を走る予定となっていた。
試乗内容とスケジュールの説明を終え、試乗会場である屋外駐車場へと向かう。一時より風は落ち着いていたが、雪の粒はまだまだ大きめ。歩いていると、さらさらの積雪と時折顔をのぞかせる氷に足を取られる。
千葉県生まれの千葉県育ちと、あまり雪に縁のない人生を送ってきた雪道ビギナーの私は、「スタックして恥かいたりしないかしら?」と、いささか尻込みしてしまった。
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X-MODEは安心のための新技術
まずは、雪道でのパイロンスラロームでX-MODEの機能を試す。
その前に、簡単なX-MODEの説明をば。
この機能は、ボタン一つでエンジン、トランスミッション、4WD、VDCの制御を、オフロード向けに切り替えるというもの。本格クロカンなどに見られるモードセレクト機能とは違い、路面状況に応じて「SNOW」や「MUD」などの走行モードを選ぶ必要はナシ。スイッチを押すだけのカンタン操作と、臨戦態勢のVDCがもたらす反応速度の速さが自慢だ。
コース案内を兼ね、まずはインストラクターのドライブでコースイン。後席からその運転を観察するが、あまりにうますぎて参考にならない。コツを伺ったら、「アクセル開度は一定に」とのことだった。
クルマがスタート地点に戻り、いよいよリポーターの試乗がスタート。うわさのX-MODEの効き具合を探るため、最初はX-MODEオフでコースを走ってみた。
感想は……ふつうに走れますね。
車体のおなかがこすれるほど深く積もった雪の中を、フォレスターはぐいぐい走っていく。もちろん横滑りはするのだが、ちゃんとVDCが介入するので、パイロンを蹴とばしたり、コース上で横向きに停車、なんて羽目にはならない。せわしなく右に左にハンドルを切っていれば、私のようなビギナーでも立ち往生せずにスラロームをクリアできる。それどころか、分不相応にも「ちょっとオイタしてやろうか」と思ってしまうくらい、雪道でのフォレスターの運転は楽しかった。
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そうして雪を蹴散らす楽しさを味わった後は、X-MODEオンで挙動の違いをチェック。先ほどと同じようにアクセルを踏んで最初に気付くのは、クルマがあまり前に進まないことだ。スロットルコントロールが介入して、スロットル開度を抑えているのが分かる。言わずもがなだが、積雪路や凍結路では雑なペダルワークは厳禁。ダメな運転を、クルマの方が先回りして予防してくれているわけだ。
スラロームに入ってからも、クルマの挙動が先ほどとは打って変わって穏やか。VDCの制御がより早い段階で介入するので、浅い角度のうちに横滑りが収まる。修正のためのハンドル操作も、先ほどよりずっと小さくて済む。ダイナミックな走りではないが、これなら安心して雪道を走ることができる。
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幅広い車種に設定してほしい
続いて、登坂路コースでX-MODEに付属するヒルディセントコントロールを試すことになった。
既にご存じの方も多いと思うが、ヒルディセントコントロールとは、アクセルやブレーキなどの操作なしに、下り坂でクルマが一定速度を保って走ってくれる機能のこと。通常、坂道では放っておくとクルマは勝手に加速してしまう。そこでドライバーがブレーキを踏んで速度を抑えるわけだが、傾斜が急だったり凍結していたりすると、これが結構怖い作業になる。フォレスターのヒルディセントコントロールは、ドライバーの代わりにこの操作をやってくれる優れものなのだ。
早速、川場スキー場のタワーパーキングへと上るスロープでこれを試す。天候が良ければ、ゲレンデに続く積雪路を使う予定だったのだが、視界が悪すぎて急きょ変更となったのだ。
ちなみに路面はアスファルト。除雪はされているが、ところどころ凍結していたり、タイヤで踏み固められた雪(というか氷)が張りついていたりで、歩いて上るのもはばかられるようなコンディションだ。
いささか怖いので、X-MODEはオンでスロープに侵入。スタッドレスタイヤを履いたフォレスターはするすると危なげなく上っていく。「さすがはX-MODE」と感心していると、助手席のインストラクターから「うち(スバル)の4WD車なら、スタッドレスを履いていればX-MODE無しでもこのくらい大丈夫ですよ」と言われてしまった。
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「試してほしいのは、むしろ下り坂です」という言葉に従い、駐車場内でUターン。踊り場であらためてX-MODEをオンにして、アクセルをゆっくり踏む。坂に入り、歩く速さくらいの車速がついたあたりで足を離すと、フォレスターはその速度をキープしたままゆっくりと坂を下り続けている。車速はメーター読みで7km/hくらい。
「アクセルやブレーキで速度を操作すると、あらためてその速度を保つように機能しますよ」
そう促され、再びアクセルオン。20km/hを超えると機能がオフになってしまうので、おっかなびっくり15km/hまで速度を上げ、またペダルを離してみた。やはりフォレスターは、その速度をキープして坂を下り続ける。ブレーキを踏んで元の速度に戻しても同じ。スロープが終わり、路面状況や傾斜角が変わっても、フォレスターはしれっとその速度を維持し続けていた。あっぱれ。
聞けばこのX-MODE、ドライブトレインに特別な機構を追加しているわけではなく、既存の制御技術を応用し、発展させたものとのこと。フォレスターに限らず、雪国で広く親しまれているスバル車のことだし、オプションでもいいから幅広い車種で選べるようになればいいと思った。
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4WDは決してぜいたく装備ではない
試乗を終え、昼食のためにセンターハウスに戻ってみると、試乗受付の机にはいつの間にか結構な列が。あまりの悪天候で、スキーを楽しめる状況ではなくなってしまったのだ。そこで時間を持て余した方が、雪上試乗に興味を示したらしい。
冒頭で紹介した通り、試乗車にはフォレスター、アウトバック、インプレッサXVの3車種が用意されていたのだが、中でも人気を博していたのが、フォレスターとインプレッサXVの2台。インプレッサXVには新機能のX-MODEはついていないのだが、それでも退屈そうにしているアウトバックをしり目に、引っ張りダコの状態だった。
また今回のイベントでは、ラリードライバーの鎌田卓麻選手によるプロドライバー同乗試乗も実施。試乗を終えて待合所に戻ってきた方に話を聞くと、「やっぱりスバルの四駆はすごい」「プロドライバーの運転はすごい」と興奮気味に話す人がいる一方で、「X-MODEのボタンって、押し間違えません?」と冷静に機能性を吟味する人、さらには「『スズキ・エスクード』はカム式LSDなんですけど、フォレスターは電子制御かビスカスなんですよね。オフロードだとやっぱり……」と本格的なクロカン談義を始める人までいて、まさに十人十色だった。
なお、今回のイベントでは、最後に鎌田選手によるゲレンデを専有してのスペシャルデモランも予定されていたのだが、こちらは残念ながら中止となってしまった。理由はやはり雪の影響。天候がますます悪化して、それどころではなくなってしまったのだ。
取材を終え、駅へと向かうシャトルバスを待っていると、吹雪の中を来場者が一斉に帰っていくところに出くわした。当たり前だが、やはりスタッドレスタイヤを履いた4WD車の比率が高い。聞いたところによると、スキー場へ向かう道の入り口には、一時「この先は4WDじゃないと上れません」と検問が設けられていたらしい。私を川場スキー場から上毛高原駅へ運んでくれたのも、「ハイエース」の4WD車だった。
東京に住んでいると忘れがちだが、日本の道路事情を俯瞰(ふかん)すれば、4WDは必須の技術なのだ。
「なにを大げさな……」とおっしゃる方は、国土交通省のホームページをご覧あれ。日本の国土の半分以上は豪雪地帯に指定され、総人口の15%以上がそこで暮らしている。自動車が交通インフラとして、その隅々までをカバーするためには、まだまだ4WD技術の進化は欠かせないのだ。
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イベントに招待してくれたスバルの皆さまに感謝しつつ、そんなことも実感した今回の取材だった。
(webCG 堀田)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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