ボルボV40 T4 SE(FF/6AT)【試乗記】
「ヒューマン・センタード」という考え方 2013.02.19 試乗記 ボルボV40 T4 SE(FF/6AT)……417万5000円
充実した安全装備や心地良いインテリアは、新型「ボルボV40」の大きな見どころ。しかしライバルと一番違うのは、「ヒューマン・センタード(human-centered)」という設計思想かもしれない。
“全部盛り”なら400万円コース
THE ALL-NEW「VOLVO V40」とは、どんなクルマか。以下、プレスリリースより引用。
「ボルボのラインナップにおいて最も小さな5ドア プレミアム・スポーツコンパクト」「作動速度域を50km/hまで高めた自動ブレーキ『シティ・セーフティ』を全モデルに標準装備」「『Elegance』『Eco』『Performance』の3種類が表示可能なカラー液晶メーターを搭載」「最新の1.6リッター直噴ターボエンジンは、従来型比約40%向上の燃費16.2km/リッターを達成」「世界初の『歩行者エアバッグ』をオプションで設定」
輸入元の説明によると、コンペティターは例えばベンツの新型「Aクラス」。BMWの「1シリーズ」。アウディの「A3」。アルファ・ロメオの「ジュリエッタ」。レクサスの「CT」。「プレミアム」で「スポーツ」なCセグメントのハッチバック、ということで。なお新型V40の車名、輸入元としては「Vフォーティー」と読んで、または呼んでほしいと強く希望している。「ヨンジュウ」ではなく。
グレードは2種類あって、“素”相当の「T4」が車両本体価格269万円。高いほうの「T4 SE」は309万円。歩行者エアバッグは要プラス6万円。「歩行者検知機能付き追突回避・軽減フルオートブレーキ・システム」その他からなる「セーフティ・パッケージ」は同じく20万円。
「やっぱボルボはレザーじゃないと」の場合は、SEをお選びいただいたうえでさらにプラス20万円の「レザー・パッケージ」。せっかくだから純正ナビも、の場合も同じくで、プラス20万円。広報活動のためにわざわざ来日した担当チーフデザイナーさんが強く推奨していた「パノラマ・ガラスルーフ」もやはりSEでだけ選べて、プラス18万円。
そういう次第で、高いほうを買ってほいほいオプション装備群を盛っていくと合計金額は400万円ぐらいになる。でも取りあえず、ベース価格は頑張って安くした……といっていいでしょう。あと、いまのイマなら安全パッケージの20万円ぶんはタダになる。詳しくはウェブで……ってここもウェブ上ですね。
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「S60/V60」の続編的な仕上がり
運転してみた感じは、まあいいんじゃないでしょうか。まあというか、かなり。「ボルボのクルマはパキパキに四角いカタチじゃないとイヤ!!」とか「ドンくさいくらいおっとりノッタリ走るんじゃなきゃダメ!!」とかの強いコダワリがないのであれば、オススメするにあたって心配要素はほとんどありません。というか、これだけ心配要素なしにオススメする気になるクルマはコンペティターのなかに一台もないですよ。少なくとも、そういうのに俺は乗ったことがない。
ドライビングポジションとかボディー剛性とか低速トルクとかスタビリティーとかハンドリングとか乗り心地とかオトシン対策とか、そのへんは全部、ちゃーんとしております。いまのこのテのクルマとしてすごく。
ボルボ初採用のEPSつまり電動パワステの手応えも。コンペティター各車と走り比べをされた場合にダメを出されることがゼッタイないように、という気合で作られていることがヒシヒシ伝わってまいります。
「スポーティーな走りのクルマじゃないと売れないんだから、そういうものとして土台からしっかり作る」 作ってきたね、と。そういうことでいうならVフォーティー、「S60」や「V60」の続編です。フツーに。
運転してみてイチバン驚いたのは、オールニュー度の高いクルマのしかも導入直後なのに、それっぽいイマイチ点がなかったこと。タイヤの履きこなしがまだちょっとヘタクソとか乗り心地がピシッとしてないとか、そういうのが。ポテンシャルが高いところへもってきて、新型V40、最初からすでにバッチリ仕上がり状態。導入から2年ほどたってゼッコーチョーのS60やV60の、そのいまのイイ感じの流れでまんまきている、というような。初期のグズグズ状態をすっとばして。そこは、S60やV60のときとはだいぶ、様子が違っております。
人間中心にモノゴトを考える
スルドい人ならお気づきかもですが、ウインドシールド用のウオッシャーフルードの、噴射ノズルの出っ張り。それらが、Vフォーティーの場合は3カ所あります。エンジンフード上に。ボルボ・カー・ジャパン広報のAさんは気がついて、なぜそうなのかと訪ねた相手は本国より来日のチーフデザイナー。サイモン・ラマーさん。
ラマーさん即座に答えていわく……。要約しますと、車両前方を監視しているカメラの視界を確保するため。室内リアビューミラーの付け根あたりのエリアにビューッと的確に洗浄液を飛ばしてガラスを洗うために、真ん中に1カ所増設。Aピラー+ウインドシールドの角度がかなり寝ているカタチの関係上。「仮に2カ所で済ませるとすると、位置はこのあたり(もっとずっとフロント寄り)に……」なんつって。
そうかと思うと、テールランプ。カバーの樹脂パーツの、カドあたりのところが文字通りカドみたいになっていて、それはナニか。ナゼだと思う? とラマーさん。答え:「クルマの側面を流れてきた空気が後面へ回り込んで渦になるのを防ぐためのシャープ・エッジ」。ほほー。
その他アチコチ。いまの高性能車ならやってても全然不思議はない種類のエアロ対策だけど、風洞へも入って仕事した本人に、実物を目の前にしながら(触りながら)教えてもらえたのはヨカッタですよ。デザイナーの担当ではなかったろうけど、例えば車体下面の空力対策もV40はエラい入念で(おかげでイロイロのぞきづらかった)。
ボルボといえば、のスカンジナビアンデザイン。その神髄の一部は「ヒューマン・センタード」つまり人間中心にモノゴトを考えることにあるそうで、それはV40に乗ってみるとよくわかる。クーペみたいなカタチで走るとスポーティーで……のあたりはトレンドにバッチリ沿っていて、だからほかと同じようなものとも言えて(ただしデキは非凡)、でもだからこそ、ちょっとした(?)違いがかえって目立つというか。
ひとつには、例えば後席環境。左右2席のヒップポイントをちょっとセンター寄りにすることで、いかに快適になるか。チーフデザイナー強く推奨の、パノラマのガラス屋根。それごしの景色の見えかたもよかったりして。
「ヒューマン・センタード」の仲間的な言葉として「designed around you」というのがありまして、これはまあ、ボルボのクルマ全部に共通する考えかたの標語といっていいでしょう。V40の場合も、クルマのカタチは「まずインテリアをどうするかから話し合いを始めた」そうで。触れたりイジったりするものはすべてあるべき場所に正しくあってeasy to reachでergonomically perfect、つまり人間工学的に完璧で、「でももっと重要なのは、そのなかですごして非常にステキな気分になれることです」(そこ関係の英語は「very nice place to live in」というのがメモ帳に)。V40のキャビンは「ルーミィです」ともラマーさんは言っておりました。「狭くてスポーティーでステキでしょ?」ではなくて。
(文=森慶太/写真=高橋信宏)
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