スバル・フォレスター2.0i-S EyeSight(4WD/CVT)/2.0XT EyeSight(4WD/CVT)【試乗記】
マジメなエンジニアリング 2013.01.18 試乗記 スバル・フォレスター2.0i-S EyeSight(4WD/CVT)/2.0XT EyeSight(4WD/CVT)……325万1850円/300万3000円
4代目となったスバルのSUV「フォレスター」をオフロードコースで試乗した。
スバルの“歴史”という財産
初代はワゴンでもSUVでもない、いわゆるクロスオーバーモデルのはしりだった「フォレスター」。ほかのどのクルマにも似てなくて、スキー場や海辺の駐車場で見るとカッコよかった。その後、一番たくさん買ってくれるアメリカ市場さまの言うことを聞いていたらどんどんサイズがアップして、4代目の新型で、ついに典型的なSUVとなった。いや、ちょっと初代のコンセプトとサイズの絶妙さを懐かしく思っただけで、SUVじゃダメというわけではない。新型フォレスターは現行スバル車の中では最もハンサムだと思う。
フォレスターは、「インプレッサ」がベース。インプレッサも世代を重ねるたびに大きくなっているから、フォレスターも大きくなるのだ。新型も先代より少しだけ大きくなった。ただし、依然としてライバルの「三菱アウトランダー」「マツダCX-5」「トヨタRAV4」「トヨタ・ヴァンガード」よりも少し小さめ。正確に言うと、全長が少し長く全幅がかなり狭い。近いのは「日産エクストレイル」だ。このクラスの国産SUVは同時にグローバルカーであることが多く、フォレスターも世界戦略車のイメージが強いが、意外にも全長が長く全幅が狭い、日本の路上に合ったカタチをしている。
当然、水平対向エンジンを縦置きしたシンメトリカルなパワートレインを採用する4WD車だ。廉価版のFWD(前輪駆動)を設けないところが潔い(あとから出さないでね)。スバルの皆さんは新車が出るたびに百瀬晋六さんのお墓参りに行ってもいいくらいだ(ちゃんと顕彰していらっしゃるだろうが)。スバルが盛んに「シンメトリカルAWD」とPRするように、FWDしかなかった「スバル1000」の時代から、水平対向エンジンとトランスミッションを縦置きしてきたため、1972年の4WD商品化に際し、トランスミッションからそのまま後ろにプロップシャフトをまっすぐ伸ばすだけでリアアクスルにつなげることができた。
百瀬さん――かの「スバル360」も設計された方――が、スバル初のFWD車である「1000」を縦置きレイアウトとしたのは、将来の4WD化を考慮していたわけではなく、パッケージに優れるからだというが、このレイアウトがなければ、シンメトリカルAWDも「BRZ」もなかったかもしれない。独自路線を貫くには苦労もあるだろうが、歴史という、あとから金で買えない財産によって、システムにまで興味のない人からも「スバル(の4WD)はどこか違う」というイメージを獲得できている。
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オフロードコースを試乗
販売好調の新型フォレスター。今回の試乗コースにはオフロードが用意されていた。山あり谷あり急斜面ありのグラベル周回路。そこをターボ付きの「XT」で走るのは非常に楽しい体験だった。まず、フォレスターの4WDシステムは、前後輪の差動を吸収するために湿式多板クラッチが組み込まれるアクティブトルクスプリット式を採用する。
通常は前輪により多くのトルクを配分するFWD的性格のシステムとされ、後輪により多くのトルクを配分し、一般的に上級のシステムとされるVTD式に比べ「スポーティーではない」「回頭性がよくない」などとされる。が、同じクラスのほとんどのSUVのように普段はFWDで走り、前輪がスリップして初めて後輪にもトルクが配分されるオンデマンド式ではなく、常時40%ほどのトルクが後ろにもかかっているので、常にトラクション不足を感じることはない。グラベルのタイトコーナーでもグイグイ曲がってくれた。たぶんタイヤのグリップにはまだ余裕があったはずだが、コースがとにかく狭いので、先に自分の限界がきた。
機械的なデフロック状態にはできないが、その代わり、トラクションを失った車輪のみに電光石火の速さでブレーキをかける「X-MODE」というのがあり、40km/h以下で使えるので、モーグル路面で、対角の2輪が完全に浮いてしまった状態でもクルマが進めなくなることはなかった。最低地上高は220mm。本格的なクロスカントリービークルではないから道なき道を……というわけにはいかないだろうが、文化的なカタチをしたクルマの中では相当の悪路走破性をもつほうだ。
そういえば、先代のフォレスターには、アクティブトルクスプリット式ではなく、VTD式が一部グレードに設定されていた。今も「レガシィ」はグレードによってアクティブトルクスプリット式とVTD式を使い分けている。このため、フォレスターの4WDシステムが後退してしまったのでは? と心配する声もあるにはある。確かに曲がりくねったオンロードをタイヤが鳴くようなペースで走り回る時にはRWD(後輪駆動)車のように挙動するVTD式のほうが楽しいかもしれない。が、それ以外ではアクティブトルクスプリット式に不満をもつ場面はないはずだ。80年代ならいざ知らず、電子制御で4輪それぞれをクルマがコントロールする現代では、あまり気にしなくていいと思う。
すべてをまかなうクルマ
フォレスターは上級グレードのXTにスバルが誇る新世代2リッター水平対向4気筒直噴ターボのDIT(ダイレクト・インジェクション・ターボの略)を積む。近頃、世界的に2リッターの4気筒直噴ターボが流行中だ。最新の技術を用いると、かなり大きなクルマでも痛痒(つうよう)なく動かせ、それでいて自然吸気のV6エンジンよりも効率が劇的に高いので、次々にV6エンジンを淘汰(とうた)している。DITは最高出力280ps/5700rpm、最大トルク35.7kgm/2000-5600rpmを発生するが、このスペックは、「キャデラックATS」などに積まれるGMのエコテックエンジンと並んで、世の2リッター4気筒直噴ターボエンジンの中でもかなりパワフルな部類に入る。燃費を下げないで“これ以上”を望むなら、もうディーゼルターボエンジンしか思いつかない。エンジニア氏は「ディーゼルもやっています。われわれが納得できる仕上がりまであと一歩」と言っていたからいつかは出るのだろう。
数値だけでなく実際に乗ってもこのエンジンを積むフォレスターはパワフルだ。回せば5000rpm過ぎまでスムーズに回るが、そんなに回さなくても低回転から十分にトルクが出てくる。なので、CVTとも相性がいい。日常的な走行ではタコメーターの針は1800-3000rpmあたりをうろちょろしていて、あとはCVTがスピードを調整してくれる。文字通り連続的にギア比が変化するCVTは速度と回転数がリンクしないため、リズミカルに小気味よいペースで走りたい時にドライバーが気分を盛り上げにくいという難点があるが、フォレスターのターボ車には「S#モード」というのがあって、選ぶとエンジンがスポーティーな特性となり、CVTもわざわざ疑似的な8段ギアを設定してくれる。ならば最初からデュアルクラッチ・トランスミッションを積んでくれ! と言いたいが、ないものはしょうがない。
本来、勝手気ままで不正確な人間なんかにエンジン回転数をコントロールさせないで効率を求めるのがCVTの最大の長所なのだが、クルマ好きにとっては効率よりも大切な瞬間がある(それも度々)というのをスバルは知っている。パドルを操作して回転数をコントロールしながら走るのはやっぱり楽しい。
本来、クルマは欲張って何もかも得ようとすると、結局何も得られない中途半端な仕上がりになってしまいがちだが、フォレスターはマジメなエンジニアリングと電子制御を駆使した結果、オンロードもオフロードも、スポーティーもユーティリティーも、燃費もパワーも高い次元で両立する機能的クロスオーバー車として成立している。CVTでもいいのなら、1台ですべてをまかなうクルマとしてかなりオススメ。
(文=塩見智/写真=高橋信宏)
