BMWアクティブハイブリッド3 Mスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
静かに駆けぬける歓び 2012.12.20 試乗記 BMWアクティブハイブリッド3 Mスポーツ(FR/8AT)……838万4000円
BMWと聞いて期待するもの、それはやはりドライビングの歓びである。電化されて存在感を潜めたハイブリッドパワートレインがもたらす歓びとは? ロングツーリングで考えた。
シルキー改めサイレントシックス
夜の都内の渋滞を抜け、「アクティブハイブリッド3」は首都高速に入った。大人3人とその宿泊用の荷物、さらにカメラ機材を加えたそれなりの積載量で、宮城県のサーキット「スポーツランドSUGO」に向かっている。「日産GT-R」の2013年モデル試乗会に参加するため、その往復750kmほどのロングドライブにアクティブハイブリッド3を選んだのだ。
3リッター直6ターボ+モーターのパワートレインがロングドライブでどれだけ快適な走りを見せるか。それが今回の試乗のテーマだが、助手席に乗っている編集部T氏は、アクティブハイブリッド3とGT-Rという正反対の価値観を持つ2台を、筆者に暗に比べさせたがっているような気がしてならない。
アクティブハイブリッド3でまず注目すべきはその動力性能である。駆動方式は伝統のFR。トランクの床下にリチウムイオンバッテリーを搭載するが、BMW伝統の50:50の重量配分にこだわっているところがポイントだ。エンジンは今や「3シリーズ」唯一の直列6気筒となった3リッターの“ツインパワーターボ”。これをモーターがアシストし、システムのトータルで340psと45.9kgmを発生する。
1740kgの車重に対して340psというパワーがどのような走りをもたらすのかというと、「M3」のような胸のすく加速力こそないけれど、想像していたよりずっと速い。
ターボユニットならではのブーストの効いた加速や、モーター特有のゼロ発進からマックスで立ち上がる強烈なトルク、あるいは直列6気筒エンジンの鼓動――残念ながら、そういったエモーショナルなスパイスはない。もちろん回せばそれなりのエンジンサウンドがキャビンに舞い込むのだろうが、やたらと強力な低中速トルクと、シームレスに展開する加速が、ドライバーをまったくもって“ひっちゃき”にさせないのだ。
夜のハイウェイを音もなく疾走し、いつの間にか速度を高めているさまは、シルキーシックスというよりサイレントシックスといった風情。加速の瞬間芸を楽しむのではなく、高いアベレージスピードで走り続けられるドライバーには最高の相棒となるだろう。
また、エンジンの吹け上がりならぬ“吹け下がり”が面白い。エコモードで走行する際、アクセルオフでエンジンが完全に停止(コースティング)する。こういった機能は他社にも採用例があり、エコ世代の“デフォルト機能”と言えそうだが、これだけ速いクルマのエンジンがパタッと止まってしまうのは新鮮だ。
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「3シリーズの味」はどこにある?
クルマ好きにとって3シリーズの真価とは、シャシー性能にあるのではないだろうか。しかし筆者は、乗り始めにいきなりショックを味わったことを告白したい。乗り心地が思っていた以上にソフトで、「トヨタ・クラウン」を思い出してしまったくらいだ。
試乗車はスタンダードモデルと比べて車高を10mmほど低く設定し、走行状況に応じて電子制御ダンパーがダンピングレートを自動調整する「Mスポーツ」仕様だと聞いていた。しかしその乗車感はどうもつかみどころがなく、とてもフワフワするのである。
驚きを隠せないでいたら、編集部T氏が即座に「いまコンフォートモードですよ」と教えてくれた。Mスポーツの「アダプティブMサスペンション」が装着されていても標準の「ドライビング・パフォーマンス・コントロール」は機能し、「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」から乗り味を選ぶことができる。この機能はダンパーだけでなく、電動ステアリングの重さやエンジンの出力特性も統合制御することはご承知のとおりである。
もっとも、ひねくれ者の筆者はこうした可変ダンパーによる乗り心地の変更をあまり歓迎しない。なぜなら、ひとつのスプリングレートに対するダンパー側の最適解はそれほど多くないと考えているからだ。
スプリングの振幅を素早く抑えられないほどダンパーを緩めれば、その乗り心地はだらしない柔らかさになるし(筆者はこれをクラウン的と感じたのだ)、ダンパーがスプリングの伸縮よりも硬くなればクルマは跳ねてしまう。さすがに「スポーツ+」といえども、そこまで硬くはなかったが……。
3シリーズの車重や能力に合わせて選ばれたスプリングを、3シリーズらしく伸縮させる減衰力の最適解は、メーカーが「3シリーズの味」として決めるものである。それを「コンフォート」「スポーツ」……と段階を切ってしまったら本来の味が薄れてしまう。
少なくとも日本の速度域では「スポーツ+」のありがたみが見いだせず、結局のところ筆者はほとんどの道のりを「スポーツ」で運転し切ってしまった。
先進性を買うということ
トランスミッションは8段と、目が回ってしまいそうなほどの段数を誇る。しかし、実際に乗るときはドライバーは何も考える必要はない。直感で運転すればいい。わざわざ「今は5速で……」なんて数えていないで、自分が気持ち良いと思うトルクバンドまで引っ張って、シフトパドルを操作すればそれでよいのだ。
ただ、一方で複雑な気持ちもある。3シリーズらしい走りを実現するために、8段も必要だったのだろうか。燃費性能の向上のためには不可欠だったのだろうが、消費者に強いられるそれなりの出費と、8段化されなかった場合に生じるガソリン代を比較したら、素直にガソリン代を払う方が安上がりだったのでは? などという思いもあるからだ。
つまり、アクティブハイブリッド3を手に入れるということは、進んで先進性を買うことだと思うのだ。
BMWらしい素直なハンドリング、E46型3シリーズまでのオーソドックスなステアフィールから一段と洗練された、吸い付くようなコーナリング性能。恐ろしく速く、静かに加速し、停止するエンジン。こういったぜいたくに浴するためには、環境を大切にする気持ちや、まわりに配慮できる「コスト」が必要になるということなのだろう。
3シリーズはかつて、われわれの憧れとなるポジションにいた。手を伸ばせばなんとか届くぜいたく。しかしアクティブハイブリッド3は、そこから一歩抜きんでた存在だと思える。
アクティブハイブリッド3の標準型の車両価格が699万円。これにMスポーツパッケージを選ぶと745万円で、オプションてんこ盛りの取材車では838万4000円となる。これから乗りに行くR35型GT-R(875万7000円〜)とそうは変わらない、BMWでいうなら「5シリーズ」すらもカバーする立派な値段帯だ。
アクティブハイブリッド3とGT-Rを直接比較することなど、まさかないだろうと思っていたが、意外やそうでもない。比較してしまうのが今のクルマ選びの気分なのかもしれない。
(文=山田弘樹/写真=小林俊樹)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。