BMWアクティブハイブリッド3 Mスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
シルキーハイブリッド! 2012.11.01 試乗記 BMWアクティブハイブリッド3 Mスポーツ(FR/8AT)……838万4000円
「BMWアクティブハイブリッド3」は、3シリーズセダンで唯一、直6エンジンを積むモデルでもある。“絹のような”とたたえられた感触は、電化されたパワーユニットにも受け継がれているのだろうか?
今や「3シリーズセダン」だけで30種類
「BMW 3シリーズセダン」は多士済々。ガソリンターボ(2種)にディーゼルターボ、加えて今回試乗したハイブリッドを取りそろえる。日本で同一モデルにガソリン、ディーゼル、ハイブリッドをラインナップするのは、BMWの「3シリーズ」と「5シリーズ」のみ。また、3シリーズはガソリンだとMTモデルや4WDモデルも選ぶことができる。さらに、どのモデルにも「スタンダード」「スポーツ」「モダン」「ラグジュアリー」「Mスポーツ」という5種類のトリムレベルが設定される。なんと日本仕様の3シリーズセダンだけで30種類もの仕様が存在するのだ。メルセデスもびっくりの拡大戦略。これだけあれば、だれにでもぴったりの、いやある程度金のあるだれにでもぴったりの仕様が見つかるはずだ。
「アクティブハイブリッド3」は、シリーズ中唯一、直6エンジンを積むモデル。BMWといえば、その緻密な回転フィーリングから“シルキーシックス”と呼ばれた直6自然吸気エンジンのイメージが強かったが、高効率にあらずんばクルマにあらずという世知辛い21世紀を生き抜くため、いつの間にか、これまで直6エンジンを載せていたモデルの多くに直4ターボエンジンを搭載する。
寂しいといえば寂しいが、これまでよく残してくれたと言うべきだろう。アクティブハイブリッド3の直6エンジンは、自然吸気ではなくターボ付き。さらにモーターを積む一番ぜいたくなモデルだ。先代に「335i」という3リッター直6ターボエンジンを積むモデルがあったが(今でも旧世代を売るクーペ、カブリオレに残る)、それに代わるトップ・オブ・3シリーズ。
それにしても、新型3シリーズはヘッドランプユニットが中央のフロントグリルへ向けて攻め入り、一方でモデルチェンジのたびに横へ伸びていたキドニーグリルと、とうとう出くわした。若い人は知らないかもしれないけれど、キドニーグリルって昔は縦長で、サイズも笹川会長が持ってた火の用心の拍子木くらいのものだったんだから。若い人は笹川会長がわからないか。新型を初めて見た時には結構ギョッとしたが、街でちらほら見かけるようになった今では見慣れ、気に入り、いつの間にかカッコいいと思っていた先代が古くさく見えてくるから不思議だ。
試乗車はアグレッシブなスタイルを身にまとう「Mスポーツ」仕様。前後バンパーやアルミホイールが専用品となっており、さらに試乗車には車高が10mm下がるオプションの「アダプティブMサスペンション」が装着されていた。Mスポーツはスタンダードモデルと比べて46万円高いが、インテリアにも専用のスポーツシートなどがおごられる。コストパフォーマンスが魅力の320iあたりだと話は変わってくるが、アクティブハイブリッド3の場合、いける人はいったほうがいいと思う。スタンダードの699万円に対してMスポ745万円。
直6でしか成し得ない味わい
最高出力306ps/5800rpm、最大トルク40.8kgm/1200-5000rpmを発生する3リッター直6ターボエンジンに、54psおよび21.4kgmのモーターを追加。結果、システムとして340psおよび45.9kgmという、このサイズのボディーに積むには結構とんでもないスペックとなっている。
JC08モード燃費は16.5km/リッター。悪くはないが、2リッター直4ターボの「320i」が16.6〜16.4km/リッター(AT仕様。MT仕様だと16.0km/リッターに下がる)、馬力違いの「328i」が15.2km/リッター、ディーゼルターボの「320d」は19.4km/リッターと、“普通の”3シリーズの燃費もいいので、ハイブリッドの燃費が飛び抜けて良いわけではない。燃費も気にかけつつ、どれだけパワーアップできるかに挑んだハイブリッドと言える。
実際、とんでもなくパワフルなクルマだ。他の3シリーズ同様、「ECO PRO(エコプロ)」「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ・プラス」の4つから選べる走行モードを、まずは景気付けに「スポーツ・プラス」にして新東名へ飛び込んだ。0-100km/h加速5.3秒という公称データは控えめなんじゃないかと思える加速。本線への合流後、あっという間に100km/hに。この先は想像だが、どこまでいってもスピードはペースを落とさずぐんぐん伸びていく……んじゃないだろうか。しかも、その間、ボディーがしっかりしているおかげか、ダイレクト感に優れながらも変速ショックがとても小さい8段ATのおかげか、控えめなエンジン音のおかげか、多分その全部のおかげだろうが、大仰なことをやっている感覚はなく、平和なフル加速だ……と思う。
ちなみに、0-100km/h加速5.3秒がピンとこない方のために少し説明すると、2秒台はバケモノ。「ブガッティ・ヴェイロン」はここ。「日産GT-R」もそう。3秒台はいわゆるスーパースポーツ。「フェラーリ458イタリア」など。2WDの限界値もこのあたりか。4秒台は一級品のスポーツカー。「ポルシェ911」などはここ。ここまでが特別な世界で、カタギの世界で速いとされるのが5秒台。アクティブハイブリッド3の5.3秒は、だからセダンとしては最速の部類と言える。もののたとえとして、「ポルシェ・ボクスター」は5.8秒だから信号グランプリを受けて立ってもいいけれど、「ボクスターS」は5.1秒だから、オーディオでもいじってるふりしてやりすごそう。
試乗前、見事なカタログスペックに畏敬の念を抱きつつ、直6といってもターボだろ? しかもエンジンとATの間にモーター挟んでんだろ? 速いんだろうけど、フィーリングはきっとかつての直6NAのほうが素晴らしいはず……などと斜に構えていたが、乗ってみると、さすがはBMW。胸のすく、心地良いエンジンのフィーリングに関して妥協することは、自分たちの死を意味することをよく理解している。ターボだろうが、ハイブリッドだろうが、直6でしか成し得ない精緻な感じを存分に味わわせてくれる。
“気持ちよいエンジン”を生かすシステム
車内はデザインも品質も非ハイブリッドモデルとなんら変わるところがない。カーナビを表示するセンターモニターの右3分の1を使ってエンジン、モーター、バッテリーのエネルギーフローを表示することができるが、それを表示しなければ同乗者はハイブリッドだと気づかないのではないだろうか。ドライバーは知らずに乗ったとしてもスタートすればすぐに気づく。バッテリー容量が一定以上ならスタートと同時にエンジンが始動することはなく、モーターのみで動き出すからだ。条件がそろえば、モーターのみで75km/hにまで達し、最長で4km走行することができる。
通常は発進後ほどなくエンジンがかかり、以降エンジンを中心に必要に応じてモーターがアシストするベストミックス走行となる。コースティング時にはエンジンは止まる。特にエコプロモード時は高速道路でも積極的に止まった。アクセルを踏んだ時の再始動に遅れはなく、スムーズ。
当然だが、ハイブリッドだから駆動用バッテリーを積んでいる。トランクの底板をめくるとそこにリチウムイオンバッテリーが見える。このため、トランク容量は非ハイブリッドモデルより90リッター少ない390リッターにとどまるが、形状もスクエアで、一般的には十分だろう。トランク以外にはハイブリッド化によってスペースが犠牲になっている部分はない。バッテリー自体のスペックや重量は明らかになっていない。車重は1740kgと非ハイブリッドモデルよりも約200kg重いが、そもそもエンジンが異なるので、ハイブリッドユニットの追加でどれくらい重くなっているのかはわからない。とにかくパワフル、トルキーなので、どういう場面でも重さを感じなかった。
かつて、BMWはハイブリッドシステムをGM、メルセデス・ベンツと3社連合で共同開発したり、メルセデス・ベンツとの2社連合で開発したりして、自社のSUVにも載せていた。その姿からは、手っ取り早く重いクルマの燃費を稼ぐための緊急措置であるかのような消極性を感じた。けれど、独自開発したアクティブハイブリッドは、エンジンとATの間にモーターを挟むシンプルな1モーター2クラッチ式を採用することで、彼らの虎の子である気持ちよいエンジンを生かしつつハイブリッド化できる。「7」にも「5」にも「3」にも積極的に採用するあたり、初めて彼らが納得したハイブリッドシステムができたということなのではないだろうか。アレルギーを持つ人にも薦められるハイブリッドだと思った。
(文=塩見智/写真=小林俊樹)
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塩見 智
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