メルセデス・ベンツG63 AMG(4WD/7AT)【試乗記】
進化は続くよどこまでも 2012.12.12 試乗記 メルセデス・ベンツG63 AMG(4WD/7AT)……1780万円
そろそろ引退か? と思われながらリニューアルを繰り返してきたメルセデスの「Gクラス」。いかつい顔つきになった「G63 AMG」では、いよいよ544psのパワーを得るに至った。その底力は?
名車はつらいよ
メルセデス・ベンツの「Gクラス」は1979年に登場し、何度か仕様を変更しながら、見た目をほとんど変えることなく生産を継続してきた。
つい先日、カリフォルニアにあるメルセデス・ベンツのデザインスタジオが、ロサンゼルスオートショーに「2025年のハイウェイパトロールカー」と称し、未来のGクラスを提案した。フューチャリスティックでとてもカッコいいのだが、これではまたファンから現行Gクラスの生産継続を願う嘆願書でも出そうだ。メルセデスはこうして過去に何度か“モデルチェンジしちゃおうかな光線”を出してきたが、いつも市場が許してくれない。
例えば、本来なら「GLクラス」が軌道に乗ったらGクラスはディスコンになるはずだったが、それもファンに許してもらえなかった。「ポルシェ928」が「911」に取って代わることができなかったように、「オースチン・メトロ」では「ミニ」の代わりにならなかったように、あまりに好評で、あまりに長く愛されるモデルを生み出してしまうと、モデルチェンジはとてつもなく難しくなってしまう。フォルクスワーゲンだって「ゴルフ」という類いまれなる名車をつくって初めて、「タイプ1(ビートル)」をやめることができた。
メルセデス・ベンツGクラスもそういうモデルだ。どんなに進化しても、いや逆に進化してしまったら怒られてしまう。そういうモデルをもつメーカーは、さっき例を挙げたように数えるほどしかなく、メーカーにとっては光栄なことに違いない。けれど、進化する他のクルマに古い設計のクルマで対抗しなくてはならないのだから、つくるほうは楽ではないはずだ。想像だが、「ポルシェ930ターボ」にばっちりのエアコン、ABS、ESP、エアバッグ、そしてカーナビを備え、「日産GT-R」と販売競争をしなくてはならないようなものか。
ともあれ、メルセデスはこのほどGクラスを中身だけ進化させ、もう少し販売することを決めた。
「本音」がつくりあげた形
新しいGクラスは、5.5リッターV8エンジンを積む「G550」、そのエンジンをツインターボ化した「G63 AMG」、6リッターV12ツインターボを積む「G65 AMG」の3モデルをラインナップする。
今回試乗したG63 AMGは、最高出力544ps/5500rpm、最大トルク77.5kgm/2000-5000rpmを発生するエンジンに、トルコン式7段ATを組み合わせる。車重は2580kgだ。新しいレンジローバーが大幅に減量したため、もしかすると一番重い乗用車かもしれない。
最大トルクが77.5kgmあったらどんなに重いクルマでも速く走らせられるが、トルクが太いということはゆっくり粘り強く走らせられるということでもあり、Gクラスの場合、むしろそっちのほうが感動するはずだ。実際、すいた道路でフル加速させると驚くし、スカッとするが、多分こいつの楽しみ方はこうではないということも容易に想像できる。今回は試す機会がなかったが、おそらくローレンジに入れ、デフをロックし、歩くような速度で岩場を越えるとき、より感動するのではないだろうか。
とはいえ、そういった本格的なオフロードへ足を踏み入れるには、ありすぎるパワーを受け止めるタイヤは太すぎるし、オンロード寄り過ぎるし、それをカバーするフェンダーは邪魔になる。だいたい本来このクルマのウエストラインにある出っ張りはキャラクターラインではなく、サイドバンパーなのだから、それよりフェンダーがはみ出しているのはおかしい。そういう意味で、近頃のGクラスは、現代人の矛盾した、しかし本音ベースの要求に応える仕様になっている。
だいたいこういう理屈をこねるやつはたいてい金がなく、金がある人は「ゲレンデってまだ新車で買えるんだ。カッコイイじゃん!」と言ってポンと買う。チャラチャラしてていいから、アッチに入りたかった……。
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メルセデスの意地が詰まっている
駆動方式はもちろん4WDだが、登場当初のパートタイム式とは異なり、センターデフをもつフルタイム4WDとなっている。メルセデスは昔からすべてに長(た)けている分、ともすると特定の得意分野のイメージがつきにくいが、4WDに関してもわりと古くから取り組んでいて、現在は大きく分けて3つ、細かく分けて5つの4WDシステムをモデルに応じて使い分ける。
すべてフルタイム4WDで、ひとつはこれから出る小型セダン「CLA」など向けのエンジン横置き用のオンデマンドタイプ、もうひとつがエンジン縦置き用でトランスミッションからトランスファーが出ているタイプ、そしてGクラス専用のトランスミッションとセンターデフが離れた超保守的なオフロードタイプだ。
Gクラスの4WDシステムはセンターデフロックはもちろん、リアデフも、さらにフロントデフまでロックすることができる。3つともロックすると、4輪がまったく同じ回転数で回る。曲がりゃしないが、駆動力は一番という状態だ。電子制御でこれに近い状態をつくるクルマはあるが、メカニカルにロック可能なデフを3つ備えるクルマは少ない。この仕組みが必要なのは極限状態からの脱出意外に考えられず、具体的にどんな状況か想像もつかない。少なくともこれが必要な状況は日本の公道にはない。使うかどうかはともかく、備わっていることが重要なのだ。
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昔のデザインをそのまま使う分、コンパクトなほど喜ばれるクロスカントリービークルとしての成り立ちはどうしようもなく、Gクラスの車内は狭い。しかも身を乗り出しての直接目視がしやすいようにというクロカンの文法通り、左右シートが外寄りに設置されているため、よく肘を打つ。でもそれさえ気をつければ、後席は3人が快適に過ごせるし、ラゲッジルームも床は高いが、形状はスクエアで、容量も十分と、それなりのユーティリティー性能を備える。
今やドア開閉時にまるで金庫を開閉するような感触と音を楽しめるのは、メルセデスでもGクラスだけ。矛盾もあるが、エンジニアリングでクラシックなクロカンと、モダンなSUVを両立させているのは事実だ。もひとつ上の「G65 AMG」なんて、バカでかい12気筒エンジンを靴べらでも使ったか、狭いエンジンベイに無理やり収めている。顧客が望めば、それが正しいかどうかは問わず、意地でも実現させる。Gクラスにはメルセデスの意地が詰まっているような気がする。冷静に考えれば「ML」や「GL」のほうが明らかに乗りやすいが、オーナーはその意地に金を出すのだろう。
(文=塩見智/写真=小林俊樹)

塩見 智
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