レクサスLS600hL(4WD/CVT)/LS460“Fスポーツ”(FR/8AT)【海外試乗記】
衝撃、再び 2012.08.11 試乗記 レクサスLS600hL(4WD/CVT)/LS460“Fスポーツ”(FR/8AT)登場から6年を経て大幅なテコ入れが実施された、レクサスのフラッグシップセダン「LS」。その仕上がりをアメリカでの試乗会からリポートする。
変更はフルモデルチェンジ並み
テールランプの変更等を伴った2009年以来、大きいところでは今回が2度めのマイナーチェンジとなるF40系「レクサスLS」。“大きいところ”としたのは、その間も年次ごとに細かなリファイン、いわゆる「記載なき仕様変更」をちまちまと繰り返していたからで、2006年のデビュー以来で変更を受けた箇所は2500にのぼるという。
今回のマイナーチェンジは「スピンドルグリル」をまとってのファミリーフェイスへの統一が主だったところかと思いきや、さにあらず。約6000点の主要構成部品のうち、半分にあたる3000点の部品変更を伴う大掛かりなものとなった。型式認証の変更を伴わないやり方としては、ほとんど限界とも言える手の加えようである。
「スタッフにはフルモデルチェンジくらいの勢いでやってもらいましたから。市場でそんなことは言えませんが、本音はね、マイナーチェンジとしたくないところもありますわ」
……と、レクサスインターナショナルの伊勢清貴プレジデント。従来のトヨタ自動車レクサス本部に対して、より独立した組織体系を組み、レクサスにまつわるデザインや技術開発、営業等のリソースを束ねることで意思疎通と業務効率の向上を目指すこのグループは、今年稼働を始めた。
グリルばかりに目がいくが、トヨタの中では今、レクサスブランドの強化があらゆる方面から図られている。言わずもがな、世界市場でのプレゼンス向上だけでなく、日本市場の収益体質改善においてもレクサスの成功は必達事項なわけだ。
その商品的象徴でもあるLSが、あまたのライバルに対して商品力を落としていたのは確かな話。当初予定の1.5倍近くに達した予算をのんでもらったという渡辺秀樹チーフエンジニアが強調した開発目的は、乗っての静粛性やスムーズネスを再び世界一へと引き上げながら、先進デバイスの新規採用やアップデートにより安全性を世界最高水準に高めるというものだった。すなわち、代々のLSが切り開いてきたレクサスの商品コンセプトの原点をリマインドしようというわけである。
凝りに凝ったインテリア
一目瞭然で変わったことがわかるエクステリアはもとより、新しいLSはインテリアにおいてもダッシュパネルからなにからがゴッソリと改められた。
「リモートタッチ」の導入によりモニターは焦点移動の少ない位置へと押し込められ、水平基調の強まったダッシュボードに合わせるように横長の12.3インチを採用。また、前型では液晶パネルを用いたバーチャルメーター「ファイングラフィックメーター」が「LS600h」などでは標準で装備されていたが、新型ではオーソドックスな物理針に改められた。その理由は大型センターモニターによる表示情報量増加によって、物理針をグラフィックで表現する付加価値が見いだせなくなったからだという。
LSのインテリア全般のデザイン的印象は先に発売された「GS」に準拠している面もあるが、その仕立てやマテリアルやはまったくの別物。時刻補正をGPSからの電波を受信して行う中央のアナログ時計は、アルミパネルを土台として立体的な表現がなされた手の込んだ物で、左右どちらの席からみても正確に時間が把握できるよう、12ポイントの立体形状にも配慮がなされたという。
空調マネジメントもより進化し、4ゾーンのシートベンチレーターも含めての統合自動制御となる「クライメートコンシェルジュ」を採用。そのシートベンチレーションの小さな調整つまみもアルミ切削となるなど、仕立ての入念さは隅々に及ぶ。
内装照明のLED化も進んだ一方で、バニティーミラーやスポット照明に従来の電球が残された理由は、女性が化粧直し等に用いる際の色味の再現性を考慮してのもの。そのアンバー球とLEDらしいホワイト球が混在する室内照明の仲を取り持つように、センタートリムに仕込まれるのはシャンパンホワイトに調合されたLEDアンビエントライト――と、ともあれその仕様変更とそれに伴ううんちくは、この字幅ではまかない切れないほどだ。
恐ろしいほどスムーズ
新しいLSはいずれもスピンドルグリルをまといながらも、異なるフィニッシュのエクステリアが用意された。
ひとつはレギュラーライン向け、もうひとつは前型の「バージョンSZ」をさらに昇華させた位置づけの「Fスポーツ」向けとなり、後者は抑揚を強調したメッシュ仕立てのフェイシアとなるなど、その手法は先に登場したGSに倣ったものだ。ヘッドライトは標準の2プロジェクターディスチャージに加えてオプションで3プロジェクターLEDも選択可能。後者はプリクラッシュセーフティー用の近赤外線ユニットを仕込み、ターンシグナルもLEDで表示される。
試乗に供したのは「LS600hL」と「LS460“Fスポーツ”」の2グレード。両車に共通した印象は、ライドフィールに“濁り”がなくなったことだ。発売当初からの癖でもあったフロアの振動抜けの悪さはランニングチェンジでも徐々に軽減されてきたが、今回は開口部の溶接変更やスポット増し、フロアやカウルの部位補強に加えてパワートレインのマウント類を全面見直しすることで、ほぼ解消することができたという。
果たして、決して路面状況がいいとはいえないカリフォルニアのフリーウェイでも、よほどの連続入力でもない限りはそのブルブルした小さな震えは影を潜めていた。特に“Fスポーツ”は、適度に締め上げたサスと強化されたシャシーとの相性がよりはっきりと現れるのか、バネ下の無駄な動きが封じ込まれ上屋の動きがスキッと収束しているサマがよく伝わってくる。
全面的にやり直したという制振や遮音もあってかロードノイズや風切り音もしっかり抑えられており、クルージングは恐ろしく静かでスムーズ。スポーツグレードにあってライバルとは一線を画する快適性の高さに、初代LSが世界に与えた衝撃がふと頭をよぎる。
パワートレインの進化に期待
ハンドリングに関しては、従来型に対して明らかに操舵(そうだ)応答の遅れが低減し、思った通りにラインをトレースできるようになったところが大きな進化点。車重が2トンを優に超える「600h」系でも、そのマスを強く感じさせずワインディングロードをスムーズに取り回せるようになったあたりに、このマイナーチェンジの伸びしろの大きさを感じさせる。
これが車重のより軽い「460」の“Fスポーツ”ともなれば、かなりのペースを保ちながらワインディングを楽しむことも可能。これまでの「SZ」から継承するブレンボのモノブロック6ポッドブレーキは初期制動をマイルドに、踏み込むほどに強力な制動力を発揮……と、スーツに革靴でも違和感なくコントロールできるようしつけられている。実性能とは関係のないユーザビリティーへの配慮や、銘柄に応じたフィーリングへの固執が強くみてとれるようになったあたりも、ここ何年かでのレクサスの成長の足跡といえるだろう。
今回のマイナーチェンジで残念だったのは、パワートレインにまつわる大きな改良が先送りされたことだ。600h系は相変わらず強烈なパワーをシームレスに発生するも、時流的にみて、LSというキャラクターの中でのハイブリッドの役割はそれとは違うところにある。そういう意味で、個人的にマイナーチェンジの狙いがすっきりとみてとれたのは、物議を醸しそうなエクステリアの「460“Fスポーツ”」の方だった。
高級SUV等の普及により販売台数は漸減傾向。そんな中、中国をはじめとする新興国への依存度は高まるも、CO2排出量低減は必達。と言いつつ一方では500psオーバーのプレミアムグレードも商業的には必要――
Lセグメントサルーンの動向は、市場背景の複雑化もあって、過去3〜4年を振り返ってみても劇的に変わりつつある。かたや149g/kmの4気筒ディーゼル、こなた544psのV8ツインターボ。自他共に認めるセグメントの頂点、「メルセデス・ベンツSクラス」のあり方をみても、建前と本音があまりに鮮明だ。
その中でレクサスがLSで示すべき新たな価値観はなんなのか。それを見せるのはアーキテクチャーが完全に刷新される次期モデルということになるのだろう。
ともあれ今回のマイナーチェンジでは、静的にも動的にもライバルをしっかりキャッチアップしたことで、その模索のための時間的猶予を得ることができた。次のサプライズはスピンドルグリルのみならず……となることを期待するのは、ちょっと気が早いだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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