スバル・フォレスターXT(4AT)【試乗記】
BOTH WORLD 2002.03.01 試乗記 スバル・フォレスターXT(4AT) ……286.0万円 2002年2月12日に登場した新型スバル・フォレスター。「“BEST of BOTH”WORLDを追求したクロスオーバーSUV」と謳われる。BOTH WORLDとは「SUV&乗用車」「オン&オフロード」「オン&オフタイム」etc……。5年ぶりのフルモデルチェンジを果たしたフォレスターに、webCG記者が“ちょい乗り”した。新環状力骨構造
「そうですか、新環状力骨構造ですか」と思ったわけである。新しいスバル・フォレスターの試乗会場には、剥き出しの車体の骨格、ホワイトボディが置かれていた。ところどころ赤や黄色やオレンジにペイントされている。
「クルマに望まれる安全性能は年々高くなる一方でして」と説明してくださったのは、スバル技術本部車体設計部の田村清春主査。「ボディを強くするには、使う鉄板を厚くし、各部を補強すればいいわけですが、そうすると車重が増える。車重が増えると衝突エネルギーも大きくなるので、ますますボディを頑丈にしないといけない。イタチごっこになる」と田村さんはニガ笑いなさる。「重くなると燃費も苦しくなる」とリポーターが合いの手を入れると、大きくうなずかれた。
ニューモデルの開発にあたって、「衝突安全性」と「軽量化」を両立することは、各自動車メーカーが共通して抱える課題である。フォレスターの場合、コンピューターシミュレーションを駆使した「ボディ構造の見直し」「ボンネットなどのアルミ化」「さらに強い高張力鋼板の使用」によって車体重量の低減が図られた。
「ココが“テーラードブランク”です」と田村さんがホワイトボディのBピラーの根本、サイドシル付近を示す。赤と黄色に塗り分けられていて、赤い部分のい板厚が2.3mm、その下の黄色い部分は1.2mmだという。2枚の鉄板は精密なレーザー溶接によってツギ合わされ、1枚のパネルとなる。「側面衝突のときにココが折れてエネルギーを吸収する」そうだ。素人考えでは1.2mmの鉄板に1.1mmの鉄板を重ねればいいと思うのだが、それでは2.3mm分の強度が出ず、より厚い板を使う必要があるので、結局、重量が嵩んでしまうという。
フォレスターは、従来、左右Bピラー間をルーフとフロアを通してつなぐ、いわば輪切り状にボディを強化、「環状力骨構造」として衝突事故に備えていたが、新型では、さらにAピラー、サイドレール、Cピラー、サイドシルを結ぶボディ側面を強くし、キャビンを包むカタチに同構造を拡大、「新環状力骨構造」とした。
120kgのダイエット
素材に関しては、エンジンフードをアルミとすることで8kgの軽量化を果たし、ルーフレールにはアルミ押し出し材が使われる。フロントパンバービーム、フロントサスペンションのロアアーム(ターボ車)、サンルーフ(オプション)のフレームもアルミ化された。
「アウディのようにアルミフレーム、アルミボディと全体にアルミ化するのはどうでしょう?」と外野の気楽さでリポーターが聞くと、「お客さまにそのぶんお金をたくさん払ってくださいとは言えませんから」と田村さんは真摯に応える。そりゃそうだ。
「ハイドロフォーム(鉄パイプに高圧の水を圧入して成形する)は有効ですか?」となけなしの専門用語を使って尋ねると、エンジニア氏の顔がパッと明るくなって、「ココがそうですねぇ」と2代目になって新たに加わったフロントのサブフレームを指さす。床下のフレームと結合されて衝突時のエネルギー吸収性能を高めるサブフレームは、複雑な曲面でカタチづくられる。ハイドロフォームは、難しい形状でも均一な厚さで鋼管を加工できるほか、スポット溶接をするための部分を張り出す必要がないのもメリットだ。ステアリングを切ったときに前輪が干渉しない。ちなみに、新しいフォレスターの最小回転半径は、トレッドの拡大とあわせ、先代より0.1m小さい5.3mとなった。
先代同様、インプレッサのコンポーネンツを活用した2代目フォレスターのボディサイズは、全長×全幅×全高=4450×1735×1585mm。初代とほとんど変わらない大きさに最新の衝突安全性能を取り込んだため、本来なら100kgほどの重量増が見込まれたところ、むしろ20kgの軽量化(ターボ車。NAモデルは30kg)に成功した。車重におけるボディそのものの占める割合は3割程度にすぎないから、今後は内装など艤装をさらに軽くするのが課題だそうだ。
加速と環境
ニューフォレスターのグレードは、2リッターボクサーターボ(220ps、31.5kgm)の「XT」と、NA(137ps、19.0kgm)「X20」に大別される。価格は、前者が219.7/229.5万円(5MT/4AT)、後者が188.0/195.9万円というリーズナブルなもの。オーディオレス、無塗装パンパーなど、装備を落とした「X」(178.5/185.0万円)も受注生産で用意される。
ターボモデル「XT」(4AT)に乗った。
ドアを開けると、ブラウンのカジュアルな内装。本革巻きのステアリングホイールも黒と茶色のコンビネーション。「フィールドパッケージ」と呼ばれるオプション内装である。
いわゆる“キープコンセプト”に徹して質的向上を図ったモデルチェンジは、インテリアにおいても顕著。愛想がなかった先代と比べ、「洒落気が出た」とでもいいましょうか。小さなディンプルが散らされたインストゥルメントパネル、メタル調センターコンソール、そしてトリコット素材をおごった天井内張など、グッと質感が上がった。
大型SUVと乗用車の中間あたり、高めの視点からくる見晴らしのよさと、四角いボディの車両感覚の掴みやすさは、初代から引き継がれたフォレスターの美点だ。
2リッター水平対向4気筒ターボは、従来より20psパワーが低いが、これは過給器のタービンを小径化してレスポンス向上を図り、中低回転域でのトルクを太らせたためで、3500rpmまでは新型の方がアウトプットは大きい。3500rpmといえば、ロウで35km/h、セカンドで60km/h、サードで90km/h付近だから、街なかではむしろ力強くドライブすることができる。実際、0-400mでは同等、100km/hまでの加速では、新しいフォレスターの方が0.2秒はやい7.0秒を記録したという。
燃料噴出量をきめ細かくコントロールできる電制スロットルの導入(ターボAT車)、信号待ちなどの停車時にギアをニュートラル状態にする「Nコントロール」、シフトスケジュールや点火タイミングを燃費に振った「Info-ECOモード」スイッチの設置などにより、「10・15モード燃費=13.0km/リッター」と、カタログ上、NAモデルと変わらない燃料消費率を実現したこともニュースだ。
「オン&オフロード」「オン&オフタイム」「フォーマル&カジュアル」といった、「“BEST of BOTH”WORLDを追求したクロスオーバーSUV」を開発のコンセプトとしたニューモデル。メーカーサイドから見ると、「軽量化&衝突安全性向上」「痛快な加速力&環境性能」といった難しいBOTHの両立にトライしたモデルといえる。
ニューフォレスター、「プロダクト」としては上手に“BOTH”のバランスがとられている、と思った。ただし、今後「商品」として成功するかは、また別のストーリーである。
(文=webCGアオキ/写真=望月浩彦/2002年2月)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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