ボルボS60 2.4(5AT)【試乗記】
鵺(ぬえ)を相手に 2001.08.31 試乗記 ボルボS60 2.4(5AT) ……425.0万円 “ワゴンのボルボ”というわが国でのイメージを覆すかもしれない、スタイリッシュな新型サルーン「S60」。ベーシックな2.4リッター自然吸気ユニット搭載モデルに、長野県は車山高原でwebCG記者が乗った。ベーシックS60、395.0万円
マッキントッシュのノート型パソコン、ブルーベリーのiBookがあまりに重い(3kg)のでシャープの「MURAMASA」(1.3kg)にしようと思ったら、「マックからシャープはまずいでしょう。せめてIBMにしないと」と知人の某IT企業社長(社員4名/32歳)に言われた。“液晶のシャープ”でなにがイカンのかとノドまで出かかったが、結局、いまだに大きなハマグリのようなラップトップを背負っている。肩が凝る。
中身に大差がなければイメージ勝負になるのはクルマも同じで、世の自動車メーカーは、日々、「コストダウン」と「環境」と「ブランドイメージ」相手に奮闘している。わが国におけるボルボは、(今のところ)最もブランドコントロールに成功したメイクといえる。全ラインナップ中、エステート(ワゴン)ボディが8割を越えていたのも、日本人がいかにブランドを重視し、イメージに弱いかの表われだろう。街ですれ違った「850エステート」や「V70」の空荷と見えるラゲッジルームには、“豊かな生活”というイメージ(とオーナーの自意識)が詰め込まれていたわけである。
ところが、2001年7月26日までのボルボ車販売状況の集計で、V70のサルーン版たる「S60」が、1231台で堂々の3位入賞!! これは、世間でセダンに乗ることがカッコよくなったから、ではもちろんなく、S60それ自体がスタイリッシュだから……。前行く銀色のS60の、美しいカットのテイルランプを眺めながら、そんなことを考えていた。
2001年7月30日、長野県は上田を基点に、ボルボS60 2.4のプレス向け試乗会が開かれた。2.4は、S60のベーシックグレードで、過給機をもたない自然吸気2.4リッター直5ユニット(170ps、23.5kgm)を搭載する。395.0万円也。
イラつかない
S60のデザインオリジンは、1990年発表のボルボECC(環境コンセプトカー)に求めることができる。ボディサイドの、ショルダーの盛り上がりが力強い。ピーター・ホルバリー配下のゲイザ・ロクシーの手になる流麗なサルーンは、ルーフからテイルランプに繋がるラインを浮き出すことにより、実際以上にCピラーの角度を寝かせて見せる。だから、後席乗員のヘッドクリアランスはしっかり確保される。ニューモデルでは「モダン&スポーティ」を謳いながら、やっぱりボルボは堅実なメーカーなのだ。
テスト車は、30.0万円のセットオプション「ベーシックパッケージ」を装備するため、タンの革内装が奢られる。有害なクロムを使わない植物性物質だけを使ってなめされたのがジマン。「手袋をしたまま操作できる」といわれた、大きなダイヤルやスイッチが並ぶインパネまわりは、かつての機能的だが武骨なものから、ボルボいうところの“スウェディッシュテイスト”に上手に昇華された。大柄で平板だったシートは、適度なサイズの立体的なつくりに変わり、太いリムのステアリングホイールを握ると、ドライバーは走る前からリラックスできる。クリーンで暖かな、せき立てられることのない室内だ。
夏休みで、試乗会でときどき訪れるときよりクルマの多いビーナスラインを行く。S60の2.4リッター5シリンダーユニットは、「CVVT」と呼ばれる連続可変バルブタイミング機構を得て、170ps/5900rpmの最高出力と23.5kgm/4500rpmの最大トルクを発生する。ストレート5のフィールはけっして悪くないが、積極的に回したくなるタイプではない。そのぶん、実用域では声高に自己を主張することがなく、穏やかにパワーを紡ぎ出す。
ターボモデルと異なり、2.4はトランスミッションにシーケンシャルシフト用のゲートをもたないが、まるで気にならない。なぜなら、トバそうという気にならないから。ハンドリングの片鱗を垣間見ようと、カーブの手前で前が空くとペースを上げてみる。ファミリーサルーンよりスポーツカーに近い「ホイールベース:トレッド比」をもつというボルボの新世代モデルは、しかしいささかも落ちつきを失わず、言い換えるとやや大味で、ドライバーは「まあ、いいか」と手綱を緩めてしまう。観光のクルマの列の最後尾につくことがあっても、まるでイラつかない自分がいた。
スペックとヒエラルヒー
2001年上半期の日本輸入車市場において、フォルクスワーゲン(3万2170台)、メルセデスベンツ(2万6766台)、BMW(1万8021台)にはだいぶ水を開けられているが、ボルボは8345台で、7156台のオペルを抑えて4番手につけている。同社は、全ラインナップ中、2000年度は16%にすぎなかったセダン&クーペの割合を、2001年3月からデリバリーが開始されたS60シリーズ好調の余勢をかって、25%に拡大する皮算用をたてている。販売台数増大とともに、ワゴン一辺倒から脱したいのだ。
「まるでジャンル違いですが、ミニバン全盛の日本で、セダンの勝算はあるんでしょうか?」と意地の悪い質問をボルボ関係者にすると、「S60は、“走ります”から」と明快な答が返ってきた。“キビキビと機敏に動く”のがスポーティと旧弊な定義をすると、高速巡航が得意なS60はむしろ「GT(グランドツアラー)」と言いたいところだが、大切なのはイメージである。「4ドアクーペ」とボルボカーズが呼ぶS60の、ベーシックな「2.4」のホイールは標準で15インチ。「購入される大抵のお客さまが選ばれます」というベーシックパッケージでは16インチが装着され、さらにオプションで17インチホイールまで用意される。いまもむかしも、イメージをつくるのはルックスである。
プレスリリースには、いわゆるプレミアムブランド他社とのエントリーモデル比較が記載される。ボルボS60 2.4は、170psで395.0万円。他社モデルを単純に価格とパワーでみると、メルセデスベンツC180が129psで390.0万円、BMW318iが118psで368.0万円、アウディA4が130psで362.0万円。さらに「パワー・トゥ・ウェイトレシオ」で較べると、ボルボの8.76kg/psに対し、順に11.4、11.6、11.3。「圧倒的にボルボの勝ちィ〜」ということだが、皮肉な言い方をすれば、クルマヒエラルヒーにおいて、……そんなものがあるかどうかは別にして、「スペックに言及しないほどエライ」という暗黙の了解がある。フォード傘下のPAG(Premier Automotive Group)の一員、ボルボの本当の敵は、いうまでもなく「ブランドイメージ」という鵺(ぬえ)のような相手である。
(文=webCGアオキ/写真=郡大二郎/動画=難波ケンジ/2001年8月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
日産エルグランド プロトタイプ(4WD)【試乗記】 2026.5.18 「日産エルグランド」の新型が間もなく登場。前回のフルモデルチェンジからは実に16年が経過しており、待ちくたびれたファンは半端なレベルの進化では納得してくれないことだろう。日産のテストコースで乗ったプロトタイプの印象をリポートする。
-
ホンダCR-V e:HEV RS(FF)【試乗記】 2026.5.16 「ホンダCR-V」のエントリーモデルとして位置づけられる「e:HEV RS」のFWD車に試乗。ライバルとして北米市場で激しい販売競争を繰り広げる「トヨタRAV4」との比較を交えながら、世界規模でホンダの屋台骨を支えるグローバルベストセラーSUVの実力に迫る。
-
ドゥカティ・ハイパーモタードV2 SP(6MT)【海外試乗記】 2026.5.15 刺激的な走りを追求した「ドゥカティ・ハイパーモタード」の2気筒モデルがフルモデルチェンジ。まったく新しい「ハイパーモタードV2」が登場した。エンジンもフレームも刷新されたニューモデルでドゥカティが追求した走る喜びとは? 伊モデナから報告する。
-
アストンマーティンDBX S(4WD/9AT) 2026.5.13 英国の老舗、アストンマーティンのハイパフォーマンスSUV「DBX」がさらに進化。名前も新たに「DBX S」となって登場した。シャシーを煮詰め、最高出力を727PSに高めるなどの手が加えられたその走りを、クローズドコースで確かめた。
-
マセラティMCプーラ チェロ(MR/8AT)【試乗記】 2026.5.12 イタリアの名門が放つ、ミドシップのオープンスポーツ「マセラティMCプーラ チェロ」。スーパーカーの走りとグランドツアラーのゆとり、そしてぜいたくなオープンエアドライブを同時に楽しめる一台からは、マセラティがクルマに込める哲学が、確かに感じられた。
-
NEW
DS N°4エトワール ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.5.20試乗記DSオートモビルから「DS N°4」が登場。そのいでたちは前衛的でありながらきらびやかであり、さすが「パリのアバンギャルド」を自任するブランドというほかない。あいにくの空模様ではあったものの、350km余りをドライブした。 -
NEW
第113回:ホンダデザインにささぐ鎮魂歌(後編) ―「Honda 0」と「アフィーラ」の断捨離で見えてくる未来―
2026.5.20カーデザイン曼荼羅「Honda 0」の計画縮小と「アフィーラ」の開発中止で、すっかりネガティブな印象がついてしまったホンダデザイン。彼らの未来に再生の曙光はあるのか? というか、そもそもホンダ車のデザインって本当に迷走しているの? カーデザインの専門家と考えた。 -
NEW
「北京モーターショー2026」で実感 中国車の進化のスピードは想像のはるか上をいっていた
2026.5.20デイリーコラム今や世界最大の自動車市場である中国だが、すでに開発拠点としても世界でも有数の地位に達している。「北京モーターショー2026」で見た数々のテクノロジーは、今後は自動車の進化の中心が中国になると思わせるほどのレベルだった。現地からのリポートをお届けする。 -
運転がうまくなるために、最も意識すべきことは?
2026.5.19あの多田哲哉のクルマQ&A車両開発者であるとともに、トヨタ社内でトップクラスの運転資格を所有していた多田哲哉さん。運転がうまくなるには、どんなことに気をつけるべきなのか、「プロダクトとドライビングをよく知る人」としての意見を聞いてみた。 -
アルファ・ロメオ・トナーレ イブリダ ヴェローチェ(FF/7AT)【試乗記】
2026.5.19試乗記2026年3月に大幅改良モデルが発表され、ほどなくメディア試乗会も開催された「アルファ・ロメオ・トナーレ」。今回はこれをあらためて借り出し、一般道から高速道路まで“普通に”走らせてみた。進化を遂げたアルファの中核SUVの仕上がりやいかに? -
日産エルグランド プロトタイプ(4WD)【試乗記】
2026.5.18試乗記「日産エルグランド」の新型が間もなく登場。前回のフルモデルチェンジからは実に16年が経過しており、待ちくたびれたファンは半端なレベルの進化では納得してくれないことだろう。日産のテストコースで乗ったプロトタイプの印象をリポートする。
































