プジョー206CC(4AT)【試乗記】
『屋根開きを言い訳にしない』 2001.05.30 試乗記 プジョー206CC(4AT) ……275.0万円 プジョー車の2000年度年間売り上げ台数を1万台超に押し上げた立て役者、206シリーズ。ライオンマークの人気モデルに、電動ハードトップを備えた「CC」ことクーペカブリオレが加わった。自動車ジャーナリスト、森 慶太が報告する。
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これがベスト?
たとえ写真でだろうとこの姿を目にしたら、クルマ好きは誰でも思うはずだ。すなわち、「あ、これは人気出るゾ」と。ハイご名答。メデタイことにというべきか、はたまた残念なことにというべきか。日本市場に割りあてられた今年ぶん700台のプジョー206CCは、プレス関係者向け試乗会をやる前の時点で、すでにほとんど全数行き先が決まっちゃっていた。
シロート考えではもっといっぱい入れたほうがいいのにと思うが、これだって必死に確保した数字らしい。実際、アジア圏の他のマーケットからは「どうして日本だけ(あんなにたくさん) ……」というボヤキが出ているという。来年ぶんを狙うか、さもなくば僅かなチャンスに賭けてキャンセル待ちか。
クルマの印象は、全体としては「まずまず〜けっこう」ヨカッタ。206 のいわば“持病”として、右ハンの運転環境がツラいことになっているのはとうに分かっていたので(つまりいまさらビックリもしなかったので)、むしろ嬉しい驚きばかりが目立ったかたちだった。日本で買うことができる206として、ひょっとしてこれはベストでは?……とすら思ったほどだ。
「電動格納式ハードトップ」は使える
まず、ほかの206 で気に障る、あの使えそうで使えない後席空間(天井がアタマの上で下がってきている)がない。もちろんCCにも後席はあるけれど、ハッキリ“荷物置き場”と割り切ったモノになっている。日本の206は、もともと実用車として買われていないので、大いにスッキリした印象だ。普通の206 よりさらに低く、かつ強く倒れ込んだ、しかもヨリ太いAピラーが気にならないといえばウソになるが、これだったらまずまず気持ちよいパーソナルカーの室内だ。普通の206で運転席から後ろを振り返った際の、あの安っぽくザツな眺めもないし、外からの眺めだって普通のモデルよりずっとイイ。
その一方、屋根を畳んでいない場合は荷室容量が普通の206よりもはるかにデカい。ナンと410リッターもある(普通の206 は245リッター)。つまり、非常に実用的なパーソナルカーでもある、ということだ。
なお、バリオルーフいや「電動格納式ハードトップ」は使える。開口部面積が小さいためか、開けた際の快適さと実用性は、「4座カブリオレ」よりも「よくできたロードスター」に近く、高速道路で追い越し車線の流れに乗る程度の速度までだったら、気持ち良くオープンでイケる。
一方、閉じた際の快適さと実用性はよくできたロードスターをカルく上まわる水準にある。簡単にいって、CC(クーペカブリオレ)の名前通り、屋根アリのクーペとみなせる。
ハイウェイを巡行していれば、オープンでも「小雨プラス」程度(ワイパー間欠モードで済むぐらいか、ちょっとキツめまで)の雨までだったら、乗員2人と室内は濡れない。で、料金所にアプローチ。順番待ちが1台でもあれば、ATのクリープで(より正確には10km/h以下で) ゆっくり走りながらウィーンとハードトップを閉めてやって、自分がおカネを払うまでには2箇所の手動ロックも完了。便利。快適。
強い商品力
屋根開きプジョーということで、306 カブリオレ同様ハンドルはちょっと重ための味つけ。で、それ以外はほかの206とほぼ同じように走る。念入りな補強が実って、いわゆるボディ剛性はかなりちゃんとしている。
アシのセッティングも、導入当初の206とはいささか違ってビシッとしたものに“戻って”いる。サーキットで爆走でもしないかぎり、プジョーの走りを期待して裏切られることはまずない。
同じパワートレインのXSと較べて120kg ほど重たくなっている分、快活さは後退したが、それも特に気にならない。というか、右ハンの運転環境がイビツなので、特に峠などではコワくてトバす気にならない(でも日本の顧客からはペダル類の左オフセット以外は不満が出てないらしい……不思議)。ただし、グレード相応に張り込んだつくりのシートのデキがイイのはかなり救いだ。
同じ形式の屋根をもつメルセデスベンツSLKあたりと較べると、高速巡行やコーナリングは明らかにCCのほうがコワくない。乗り心地もイイ。よりフラットで。あるいは、306 カブリオレと較べてはるかにトバせる。つまり206CC、運転環境はイビツだがシャシーの能力は高い、ということだ。屋根開きであることを言い訳にしない、という意味ではかなり高得点。
で、お値段はSLKの安いヤツ(SLK230コンプレッサー:480.0万円)の半額強。あるいは、新型ソアラ(600.0万円)の半額足らず。でもってあのルックス。乗ってみて、あらためて「商品力は強いナ」と思ったしだいだ。
(文=森 慶太/写真=荒川正幸/2001年5月)
