プジョー206CC S16(5MT)【試乗記】
サッサと屋根をおろして 2002.06.29 試乗記 プジョー206CC S16(5MT) ……290.0万円 電動トップをもつプジョー206CCに、2リッター直4モデルが登場! オートマ天国ニッポンにおいて、(あくまで相対的に)硬派な5スピードマニュアルのみの設定である。しかし、「CC S16」のステアリングホイールを握ったwebCG記者のココロは、いまひとつ晴れないのであった……。半年遅れ、さらに半年……
「206CC S16用の新色は『マオリ・グリーン』なんですが、ここは緑が多いんで保護色になっちゃうんですね」と言うと、プジョージャポンの広報担当者は照れ笑いした。参加した取材陣も笑った。
重苦しい梅雨空の東京から飛行機で2時間。北海道は、初夏の陽気で晴れあがっていた。まぶしい日差しが暖かい。わが国でのプジョー車販売台数を1万台の大台に乗せた立て役者「プジョー206シリーズ」。その“CC”ことクーペカブリオレの追加バージョン、「2リッター+5段MT」モデル「206CC S16」のプレス向け試乗会が開催された。
「206CC」1.6リッターモデルの日本での予約受付開始は、2001年4月25日。事前に行われた海外試乗会では2リッターモデルの評判が高かったが、数売るには絶対必要な「オートマチック」の設定が1.6リッターにしかなかったので、2リッター16バルブ搭載車は、しばらくおあずけとなった。
「その年の秋頃に導入のはずが」(広報担当)、206CCの6から12ヶ月ものバックオーダーを抱える(輸入車としては)爆発的な人気を受け、「混乱を避けるため」、2リッターMTモデルの正式輸入はさらに半年以上後にズレこんだわけだ。ちなみに、現在の1.6リッターCCのデリバリー状況は、ようやく「1から2ヶ月待ち、仕様によっては即納も」というレベルに落ち着いたという。
個人的な感想
「206CC」S16に用意されるボディカラーは、「薄緑(マオリグリーン)」「青(エーゲブルー)」「赤(ルシファーレッド)」「銀(アルミナムグレー)」「黒(ブラック)」の5色。前3者には、ブラックレザーが、後2者には、赤と黒のコンビネーションとなった革シートが組み合わされる。
全長×全幅×全高=3810×1675×1380mmのコンパクトなボディサイズは、1.6リッターモデルと変わらない。フロントバンパーのエアダムが、控えめに張り出す。タイヤサイズは「205/45R16」と、1.6の「195/55R15」から一段階アップされた。
テスト車は黒。ドアを開けると、シート中央の赤いレザーがウレシハズカシイ。意外に硬く、座面、背もたれとも、サイドサポートが頼もしい。着座位置は、ハッチバックモデルより25mm低く設定されたというが、依然として“スポーティ”の範囲ではある。低いバルクヘッドとあわせ、ドライバーの絶対的な視点はむしろ高く感じられる。
身長165cm、足短めリポーターの個人的な感想で恐縮なのだが、206シリーズのドライビングポジションは、いまひとつしっくりこない。やや後下がりな座面の角度、低いステアリングホイールの位置(106だと気にならないのだが)、アルミ製は嬉しいが、お互いの間隔が短く、すこしだけ中央にオフセットしたフットペダル類。206シリーズに乗るたびに不思議な居心地の悪さを感じ、「プジョーのデザイン部門、ちょっと頑張り過ぎちゃったかなァ」と思う。“キレイなスタイルと実用性のバランス”という、地味だけど重要なファクターに関して、かつての相棒、カロッツェリア「ピニンファリーナ」は、さりげない冴えを見せていたのだ。
新たなCTI
「ボア×ストローク=85×88mm」というロングストロークの2リッター“オールアルミ”ユニットは、137ps/6000rpmの最高出力と、19.8kgm/4100prmの最大トルクを発生する。「S16」と、スペックインフレな日本市場ではもはや当たり前になった「16バルブ」を、わざわざ名前に付けたのがよくわかる痛快なエンジンだ。「1800rpmから最大値の87%以上を発揮する」と資料には記されるが、ノッペリとした退屈さとは無縁で、回転数を示すホワイトメーターの針は、5スピードギアボックスの操作にあわせ、活発に左右に振れる。ロウで50km/h、セカンドで90km/hを軽くカバーし、1.6リッターのAT車より20kg軽い1190kgのボディは、元気に走る。最高速度204km/hはともかく、「0-100km/h=9.4秒」「0-1000km/h=30.6秒」だから……、うーん、スペック上は「目がさめるほど速い!」というわけではありませんな。まあ、街なかでは、1.8リッターの「マツダ・ロードスター」くらいと考えればいいだろう。
プジョーWRカーを駆るG.パニッツィを夢想すると、ちょっと残念なのはトラベルの大きなシフトレバーで、アルミのノブを握って操作する動線が長いので、小気味よくシフトをキメる、という感じはない。もうひとつ気になるのは、グッドイヤー「Eagle F1」を履いた足まわりで、16インチの“ヨンゴー”タイヤを少々もてあまし気味。ステアリングを切ると、前輪がネッチリと路面を掴み、一方、凹凸があるとバネ下がバタつく。206CC S16は、見かけによらずラフなドライブフィールだ。
……といった不満が生じたら、サッサと屋根をおろすにかぎる。メルセデスベンツSLKを模した、というより、1930年代の「プジョー402L タイプE4 クペ・トランスフォルマブル・エレクトリーク」に範を取ったリトラクタブルルーフは、ルーフ前端のキャッチを2カ所はずせば、トンネルコンソールのスイッチひとつで開閉できる。その間、20数秒。すると……、
眉間にしわ寄せステアリングホイールを握り、メモを取っているのが馬鹿らしくなる。明るい空と、湖のキラめき、そして森の香り。都会では、“注がれる視線”がそれらに替わる。
206CC S16は、いうまでもなく新たな「CTI」である。プジョーを一躍人気ブランドにした先代205シリーズには、走りのハッチ「GTI」、洒落気のオープン「CTI」がラインナップされた。新しいコンパクトプジョーにも、3ドアハッチの「S16」(245.0万円)と、クーペカブリオレの「CC S16」(290.0万円)が用意され、日本の輸入車マーケットにおける、ブルーライオンのメジャー化に貢献する。昨年度のプジョー車販売台数は1万2300台余。今年は、1万5000台を目指すという。
(文=webCGアオキ/写真=清水健太/2002年6月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。