プジョー307スタイル(4AT)vsフォルクスワーゲン・ゴルフE(4AT)【ライバル車はコレ】
独仏ハッチ対決 2002.07.20 試乗記 プジョー307スタイル(4AT)vsフォルクスワーゲン・ゴルフE(4AT) ……217.0/219.0万円 プジョー307の廉価モデル「Style(スタイル)」の日本での販売が開始された。1.6リッターエンジン搭載、4段ATまたは5段MTが用意される。217.0万円と207.0万円。同車の発売を記念して、フォルクスワーゲン・ゴルフEとの「ライバル車はコレ」特別篇! 拡大 |
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217.0万円の戦略グレード
「プジョー307Style(スタイル)」のプレス試乗会に、「フォルクスワーゲン・ゴルフE」に乗って参加した。307スタイルは、2002年6月22日に日本での発売が開始された307シリーズのエントリーモデル。1.6リッターのツインカムエンジンを搭載。ボディは5ドアのみで、トランスミッションには4段ATほか、少数派を無視しないプジョージャポンのよき伝統(?)のおかげで、5段MTを選択することも可能だ。価格は、217.0万円と207.0万円。「ライバル、ゴルフEよりいくら安いのかしらん?」と思っていたら、ちゃんと広報資料に比較データが載っていた。
「307Styleスペック・装備比較表」と題されたページには、2リッターの307XS(5ドア)、ゴルフE、そしてフォード・フォーカス1600が記載される。307Styleは、同族307XSより32.0万円安い。
ゴルフEと比較すると、「エンジンはDOHC」「カーテンエアバッグ、アクティブシートバック、エマージェンシーブレーキアシスト、オートハザードランプといった安全装備の充実」「キーレスエントリー、オートエアコン、紫外線&熱線カットフロントガラス、アロイホイールが付き」「ATはシーケンシャルシフトが可能なティプトロニック」というのがウリだ。
もっとも、アクティブセイフティにおいて、ゴルフには4輪のブレーキを個別に制御して挙動を安定させる「ESP」や「EDS(エレクトロニック・ディファレンシャル・ロック」といった電子デバイスが搭載されることを忘れてはならない。また、フロントスクリーンは、「ティンテッドガラス(UVカット機能付き)」だ。
ゴルフEの価格は219.0万円。それより2万円安という307スタイルの値付けが、いかにも挑戦的だ。
弟分「206シリーズ」のヒットに隠れがちだった本来の中核モデル307。先代「306」も、モデル末期には、廉価版「スタイル」のシリーズ中販売比率が半分を超えたから、307スタイルにも大いに期待がかかる。プジョージャポンは、新たな戦略グレードの導入で、2002年度の販売台数1万5000台を目指す。
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「ハッチバック」以上
307スタイルのボディカラーは、銀、赤、青、紺の4色。2000年のパリサロンで披露されたコンセプトモデル「プロメテ」のイメージを上手に取り込んだ市販モデルのボディスタイルは未来指向で、魅力的だ。それまでステアリングホイールを握っていたゴルフが、にわかに古くさく見える。一世代はおろか、二世代前のデザインに感じられるほどに。
全長×全幅×全高=4210(+55)×1760(+25)×1530(+75)mm(カッコ内はゴルフ比)のボディが数値以上の大きく見えるのは、ミニバンの要素を採りれた「モノフォルム」コンセプトゆえだろう。先代より角度がついたとはいえ、依然としてAピラーがエンジンルームとキャビンを視覚的にも明確に区別するゴルフと比べて、プジョーのそれははるかに角度が寝ていて、自然にルーフラインに溶け込む。サイドのウィンドウグラフィックも、純然たる「窓」であるドイツ製コンパクトに対し、フレンチハッチでは躍動感が強調される。
室内がルーミーなのも307の強みだ。高い天井、大きなグラスエリア、明るい車内。天気のいい日にショウルームを訪ねたお客さまは、展示車に座っただけでハッピーになるだろう。306から大幅に改善されたシートは、座面が長く、形状が考えられたバックレストがやんわりと腰まわりに接する。
好き嫌いの別はあるが、インストゥルメントパネルの造形もプジョーには「デザイン」の含有率が高い。黒一色、ビジネスライクでつっけんどんなゴルフのそれは、頼もしい反面、「バカンス」や「休暇」という単語からはほど遠い。
2610mmと、2515mmのゴルフより、クラス違いといっていい307のホイールベースの長さは、正直にリアシートの広さにあらわれる。高めの座面で背筋を伸ばした姿勢を乗員に要求し、膝前空間を稼ぐフォルクスワーゲン。一方、307はシートサイズ、膝前、頭上空間とも余裕がある。センターシートにもヘッドレストが設置され、実質アームレストのスペースとなっているゴルフに対し(乗員定数は5名)、こちらは実際に大人3人が座れる。たしかにプジョー307には、「ハッチバック」に「ピープルムーバー」の血が混ざっている。
ツインカムとシングルカム
307スタイルのエンジンは、プジョーの末っ子「106 S16」と同じ、DOHC16バルブのヘッドメカニズムをもつ1.6リッターオールアルミユニット。106よりパワーはじゃっかん抑えられ、トルクが太らされた。最高出力108ps/5800rpm、最大トルク15.0kgm/4000rpm。2000rpmで最大トルクの85%を発生する実用ユニットだ。
一方のフォルクスワーゲンは、102psと15.1kgm。こちらもオールアルミ。ただし、オーバーヘッドカムは1本のSOHCだ。
高回転まで回せるツインカムが「スポーツ」の代名詞だった時代は遠く、いまはむしろ、吸排気バルブの開閉タイミングを細かく調整できることによる、燃費向上、エミッション低下に軸足が置かれる。
ゴルフEと307スタイル、どちらの1.6リッターエンジンが存在感あるかというと、それはSOHCの前者である。端的に言ってウルサイ。しかし不快かというと、スロットル操作と連動してエンジンの音が予想通りの盛り上がりを見せるので、個人的にはさほど気にならない。VWのウルサさには、確信犯的なものを感じる。「自動車してる」といったところだ。
対する307のツインカムは、シュルシュルと回転を上げ、1270kgとゴルフより20kg重いボディにもじゅうぶんなアウトプットを提供する。しかし存在感は薄い。「エンジンぶん回してカッ飛ぶフレンチハッチ」というイメージからの脱却を図っているのだろう。広い室内は、油断するとノイズがこもりやすいから、プジョーの開発陣は、遮音・防音に気を配ったに違いない。
307スタイルは、2リッターモデルに先駆けてスロットルペダルとエンジンを電気的につなげる「ドライブ・バイ・ワイヤ」を採るが、同じくバイ・ワイヤのゴルフEほどダイレクト感がないのが残念なところだ。
おとなしいスタイル
ATのシフトプログラムに関して、ゴルフEは307スタイルに、1日はおろか、2日は長がある。ドライバーの右足の力の入れ具体から、うまく意図を読みとって、シフトダウンし、アップする。
307に使われる、ルノーとの共同開発になる「AL4」型4段ATは、9つのシフトプログラムから自動的に最適なモードを選ぶ機能があるが、すくなくともリポーターのココロとは通い合わなかった。一時停車手前で、速度を落としつつ再発進するときなどに、ときどき迷うそぶりを見せるところがカワイイともいえるが、通常は「未完成」という言葉があてはまる。だから307のティプトロは、付加価値というより、積極的に使うべき装置だ。プジョーのトランスミッションは、MT乗りが多数を占める国が開発したオートマチックなのだ。
307スタイルのタイヤサイズは「195/65R15」と、2リッターモデルより1インチ(XSiより2インチ)小さい。足まわりはソフトで、前後アンチロールバーも細くなる。フランス車らしい、というとあまりにステロタイプだが、皮肉な言い方をすると、2リッターモデルの“ドイツ車っぽさ”が薄い。さすがは、本国における中心(ガソリン)グレードである。よく路面の凹凸をいなす、あたりの柔らかいサスペンションは、スタビリティを重視し、ハーシュを力づくで遮断するごとき硬質な乗り心地のゴルフとは対照的だ。
意外だったのは峠での独仏ハッチの印象で、けっして限界は高くないが、穏やかなスライドゆえ、自信をもってコーナーに飛び込めるゴルフEの方がステアリングホイールの握り甲斐があった。
一世代前のプジョーは、パッシブステアが顕著なリアサスをもち、ウデ自慢は積極的な挙動変化を楽めた反面、「トリッキー」と評されることもあった。EC統合が進むなか、不特定多数を相手にする戦略モデルとして、開発陣は「コレではイカン」と思ったのだろう。ゴルフ同様の、左右のトレーリングアームをビームで結ぶトーションビームを採用、“曲がり”での挙動はグッとおとなしくなった。ドライブフィールにも「ミニバン入った」感じだ。
結論
以前、ドイツ車系チューニングショップを取材したとき、「もう、エンジンはイジれないですね」とお店のヒトが寂しそうに言ったのが強く記憶に残っている。電子制御がエンジンだけならなんとかなったが、ブレーキ、トランスミッションと、クモの巣のように電子の網が広がるようになると、もう「ちょっと手が出せない」という。街のショップが、もっぱらエアロパーツにいくのには、利幅の大きさのほかに、そんな背景がある。
プジョー307も、メンテナンスにダイアグノーシス(電子的にクルマの状態を診断する)が不可欠で、「並行輸入でも腕利きのメカニックがいれば……という時代ではない」とプジョージャポンのサービス担当者は言う。「場合によっては、インターネットから(プログラムソフトを)落とすこともあります」(!)。
今回、フォルクスワーゲン・ゴルフEとプジョー307スタイルを乗り比べて、「どちらのクルマもそれぞれに……」と品よくまとめることもできるが、あえて波風を立てると、ゴルフEの勝ちである。走り出したとたん、よく馴染む。街なかでも高速道路でも、そして山道でも。4人家族までなら、僕はゴルフEをすすめる。いまのところ。
要素ごとに個別に比較すると、2001年デビューの307には、1997年に登場したゴルフより、ちゃんと4年分のアドバンテージがある。プジョージャポンの「ハードウェアの面からもゴルフと真っ向勝負できる」という主張は妥当である。それでも個人的に、(1.6リッターモデルに限らず)307に乗るたびにいまひとつシックリこないのは、ソフト面での熟成が足りないからではないか、と思う。エレクトロニックデバイスは、走ってこそ効果が発揮されるものだから。
皆様ご存知のように、コンピュータの進歩はドッグイヤーと称されるようにめまぐるしい。グングン進歩する。いままでも「欧州車は年ごとによくなる」といわれ、実際その通りだったのだが、電子制御の比率が上がり、ソフトウェアの重要性が増すにつれ、今後、ますます“熟成”の速度が早まるだろう。車検のためにクルマをディーラーに入れるたび、制御系が一皮剥けるようになるかもしれない。それはつまり、本国の開発陣が、輸出先の交通事情にどれだけ積極的にコミットするか、ディーラーがユーザーの声をいかに拾い上げるか。今まで以上に、メーカーの“本気度”が問われることでもある。
(文=webCGアオキ/写真=郡大二郎/2002年7月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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