フォルクスワーゲン・パサートオールトラック(4WD/6AT)【試乗記】
道具に徹したジャーマンワゴン 2012.06.21 試乗記 フォルクスワーゲン・パサートオールトラック(4WD/6AT)……494万円
地上高を30mm高め、足まわりを4WDシステムで固めた万能の「パサート」が登場。“道を選ばぬワゴン”が最良の面を見せるのは、いったいどんな道?
「ゴルフGTI」の強心臓を搭載
「フォルクスワーゲン・パサートオールトラック」は、つまり背の高い「パサートヴァリアント」だ。スバルが「レガシィグランドワゴン」で先鞭(せんべん)を付けたジャンルで、「SUVでは大げさだけど、ツーリングワゴンじゃワイルドさが足りないね」という顧客向けに、ツーリングワゴンにアウトドア風味を利かせたクルマである。
パサートオールトラックのデビューは、2011年の東京モーターショー(覚えている?)。全長、全幅は通常のヴァリアントと同じながら、車高が1560mmと30mm高くなり、ロードクリアランスが135mmから165mmになった(取扱説明書によれば、アクスル下のクリアランスは120mmとある)。凹凸が激しい地形での機動性が増したわけだ。
エンジンは、「ゴルフGTI」に使われる2.0TSIこと2リッター直4ターボ(211ps)が搭載される。国内で販売されるパサートは、体躯(たいく)に似合わぬ1.4リッターターボ(122ps)だけだから、オールトラックには、ラフロード向けの強心臓が与えられたことになる。トランスミッションは、1.4リッターモデルより1段少ない、ツインクラッチ式6段AT「DSG」が組み合わされる。
目玉は、4MOTIONシステムが搭載されたこと。つまりパサートオールトラックは、前輪駆動を基本に、必要に応じて後輪に駆動力を伝える受動的な4WDモデルなのだ。いまのところSUV以外で四輪駆動のワーゲンは、「ゴルフR」を除けばラインナップされていないから、アウトドア派にはうれしい選択肢の登場だ。価格は494万円となる。
安全装備に抜かりなし
鬼才ワルター・デ・シルヴァの息がかかったフロントフェイスは、角張ったヘッドランプ、バンパー、シンプルなグリルと、端正だけれど生真面目な感じ。ストレート基調のキャラクターラインが走る、フォルム全体も硬質な印象だ。
フォルクスワーゲン・パサートは、輸入車市場のなかで、“地味ハデ”ならぬ“地味ジミ”な存在最右翼だと思うが、オールトラックもその例に漏れない。専用バンパー、アンダーボディープロテクション、ホイールハウス・エクステンションなどでクロスオーバー風の演出が施されるが、愛想笑いはしない。足元には1.4リッターモデルより、1インチもしくは2インチ大きな18インチのホイールが装着される。多くの個体は、225/45のオールシーズンやスタッドレスタイヤを履くことになろう。
無愛想なのは室内も同じ。暗めの専用ウッドパネル、アルミ調ペダル、そして黒いレザーシートで無機質にキメる。さすがに「せっかくのヨンクモデルなのに……」とフォルクスワーゲンのマーケティング担当者が思ったか、ドアシルプレートとセンターコンソール(灰皿のふたの位置)には「ALLTRACK」の文字が入る。黒とシルバーの室内があまりに事務的だと感じる人は、ブラウン内装を選ぶこともできる。ただオールトラックの用途を考えると、汚れやすいかもしれない。
実質500万円台のクルマだけあって装備は充実している。例えば、長距離ドライブでありがたいアダプティブクルーズコントロール「ACC」を標準で装備。これは、レーダーを照射して前方のクルマとの間隔を調整し、自動的に加減速してくれるデバイスだ。駐車時に便利なパークディスタンスコントロールも標準装備。
安全面では、約5km/hから30km/hまでで走行している時に、前方約10mまでの車両や静止している障害物(歩行者や小型の障害物を除く)を感知して、必要ならブレーキをかけるプリクラッシュブレーキシステム「Front Assist」を搭載。前席ダブルエアバッグに加え、前後席ともサイドエアバッグが備わり、さらにカーテンエアバッグが頭部を守る。転ぶ前のつえ、ドライバー疲労検知システムも最初から付いてくる。パサートのトップグレードだけあってほぼフル装備状態だ。オプションの大物は、ナビゲーションシステムと電動スライディングルーフといったところか。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ドイツ的なストイックさに好感
やや硬めのシートに座って走り始める。パサートオールトラックのエンジンは、ゴルフGTIと同じだが、250kg以上重いウェイトに考慮して、ギアボックスとファイナルは変更された。1速と2速はやや低めにして出足を稼ぎ、速度が乗った3速から上は、ややハイギアードに振って燃費を稼ぐ設定だ。
2.0TSIは、過給器付きエンジンらしく1700rpmから28.6kgmの最大トルクを得られるが、211psの最高出力は5300rpmから6200rpmの間で発生する。回すと、フォルクスワーゲンらしく、ライブリーにエンジン音を高める。十二分な動力性能だが、GTIと異なり“目がさめるような”速さは感じられない。
気になったのが乗り心地の硬さ。市街地はもとより、本来得意なはずの高速クルージングでも時に“ナマな”突き上げを見せ、運転者に「車高を上げたサスペンションをうまく手なずけていない」との感想を抱かせた。撮影機材ではなくアウトドア用品を満載して車重が増すと幾分か改善するのかもしれないが、今後のチューニングに期待したい。
……といった重箱の隅的な不満はともかく、今回、肝心な機能を試す機会に恵まれなかった。パサートオールトラックには、シフターまわりに「OFF ROAD」ボタンが設けられる。オンにすると、アクセルペダルの反応特性やシフトプログラム、EDS(エレクトロニック・ディファレンシャルロック・システム)などを統合制御して、グリップが不安定なラフロード走行時の発進、加速、減速をサポートしてくれる。急な下り坂で一定の速度を維持するヒルディセントアシスト機能も含まれる。実際に使うかどうかは別にして、SUV並みの装備が頼もしい。
堅物めいたパサートオールトラックからは、いまひとつウキウキした楽しいアウトドアライフを想像しにくいきらいはあるが、その分(!?)、道具に徹した潔さがある。かつてのポルシェが持っていた“チュートニック”なストイックさが感じられて、個人的には好き。旧型の「パサートV6 4MOTION」オーナーに限らず、ちょっと高級かつ実用的なヨンクワゴンを探している方は、チェックしてみてもいいんじゃないでしょうか。
(文=青木禎之/写真=小林俊樹)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。