第247回:【Movie】実録! これがパリ式電気自動車カーシェアリングの「お作法」だ
2012.06.01 マッキナ あらモーダ!第247回:【Movie】実録! これがパリ式電気自動車カーシェアリングの「お作法」だ
無人登録ステーションにゴー!
パリのカーシェアリング「オトリブ」体験記の後編である。
専用サイトを通じて必要書類を送信するも、天候と旅程の都合でカーシェアリング専用電気自動車「ブルーカー」の試乗を諦めたことは、前回記したとおりだ。
ようやく先日、再びパリに降り立った。いよいよブルーカーに乗れる。早速カマボコ型兵舎のような無人登録ステーションに赴き、画面の女性オペレーターと会話する。1日(24時間)契約は基本料金10ユーロ+30分料金7ユーロ+以後1分ごとに0.23ユーロという3段階構成だ。
「あの〜、2月に書類を全部送って、登録したんですけど」とボクが告げたものの、「免許証を、画面横にあるスキャナーに置いてください」と言う。
あいにく強い夕日が差し込んでうまくスキャンできない。持っていたカバンで陽光を覆ったりして、なんとか送信した。
そうしている間にも、多くの人がボクの交信風景をのぞき込む。まだそれだけオトリブは珍しいのだろう。
会話をするうちに意外な落とし穴に気づいた。
「明日、何時からご利用ですか?」というのだ。
1日券は発行直後から24時間カウントする。したがって今発行してもらうと、明日乗り始めるまで無駄になるのだ。ましてや24時間以内に乗れなければ、まるまる無駄になってしまう。明日何時に乗り始めるかわからなかったため、その日は諦めることにした。
記憶力がないとつらい!
翌日、あらためて登録ステーションに赴く。ここからが動画の映像である。動画内のボクは再び免許証をスキャナーに置いているが、直後に前日どおり「あのー、2月に書類送ってるんですけど」と言ったら、今日はデータが出てきたらしく認証作業は省略。日によって指示がまちまちなのはイタリアの役所で鍛えられているから、これは苦でない。
あとは電話番号確認と、「飲酒したり、薬物を使用して運転しません」といった“宣誓作業”をお姉さんの言われるままタッチスクリーンで入力し続けた。利用のための暗証番号も自分で決めて入力する。そしてクレジットカードを差し込むと、別の取り出し口から緑色の紙製カードがひらりと出てきて、お姉さんとの交信も終わった。
直後にボクのスマートフォンのメールアドレスには、「デポジットとして50ユーロが引き落とされた」旨の連絡が入った。
紙製カードを持ってクルマのそばに立っている「ボルヌ」と呼ばれる端末に行く。暗証番号認識に関するドタバタは動画を見ていただくとして、晴れて入力に成功すると「◯番のポールのクルマを使ってください」という指示が表示された。
これら一連の「お作法」はボルヌにあるモニターで説明ビデオを見ることができる。しかし問題は、ビデオを一回観るくらいだと記憶力の乏しいボクなどは覚えてられない、ということだ。充電ポールをはじめ実際の操作部分に順番でLEDを点滅させるとか、「次はこちら」といった音声ガイドでもあれば、と思う。
「市電よ、さようなら」とは言ったけど
走行中から返却の様子は動画をご覧いただくとして、返却後の話に移ろう。
クルマを返してまもなく、ボクのスマートフォンには「ご利用は44分で、料金は9.39ユーロでした」という料金明細が入った。30分以降の料金を1分あたりで割ると、1年契約の適用料金である0.17ユーロになったが、安くなったのだからまあいいか。
前述の基本料金を合わせると、今回ボクが払った額は44分で約2000円ということになる。大まかではあるが、タクシーを同じ時間乗ったときより割安だ。
ただし自分で運転しなければならないし、タクシーと違って大きな荷物も載せにくい。またひとりでパリ市内を移動するなら、1.7ユーロの切符を買って地下鉄に乗ったほうが安い。個人的には、数日ごとに張り替えられる駅構内の美人ポスターも楽しめる。
オトリブはヴェルサイユといった20km圏前後の郊外に行くには、まあ便利だろうなと思うが、そうした地域はまだステーションが充実していない。普通の駐車場にダラダラ止めている間にも課金されるのは癪(しゃく)である。
結論としてこのオトリブ、前回の冒頭でカーシェアリングに憧れ、動画内では「市電よ、さようならだっ」と叫んでみたものの、他の公共交通機関が発達したパリではあまりメリットを見いだせない。
ただし将来、郊外のステーションが充実すればそれなりに便利だろうから、今後の展開を見守りたい。また、地下鉄駅の階段の昇り降りが困難なお年寄りやハンディキャップをもった人が乗りやすい仕様に改良されれば、さらに有効性が広がるだろう。
蛇足ながら――これまた前回のクルマ所有不要論と若干矛盾するが――不思議なものでたった1時間足らず乗っただけなのに、ブルーカーと別れるときどこか寂しくなってしまった。それどころか「次はどんな荒っぽいドライバーに操られるのだろう」と思うといたたまれなくなり、思わず「元気でな」と声をかけてしまった。
消防車の絵本『しょうぼうじどうしゃ じぷた』を呼んで育ったクルマ擬人化世代は、これだからいけない。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
パリ式EVカーシェアリング実践編(その1)
パリ式EVカーシェアリング実践編(その2)
パリ式EVカーシェアリング実践編(その3)
(撮影と編集=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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