アウディS6(4WD/7AT)/S7スポーツバック(4WD/7AT)【海外試乗記】
欲張りなスポーツモデル 2012.05.22 試乗記 アウディS6(4WD/7AT)/S7スポーツバック(4WD/7AT)ミドル級のアウディに、スポーティーな新型が登場。その見どころを、本国ドイツで開かれた試乗会からリポートする。
タダでは数字は減らさない
アウディのスポーティーモデル「Sシリーズ」に、二つのニューモデル、「S6」と「S7スポーツバック」が加わった。
なお、S6にはこれまで同様、セダンに加えてワゴンボディーの「アバント」も用意される。
いずれも、ダウンサイジングコンセプトで先鞭(せんべん)をつけたフォルクスワーゲングループのモデルにふさわしく、これまでの5.2リッターV10エンジンに代えて、新開発の4リッターV8ツインターボエンジンを搭載。S6は2011年にフルモデルチェンジした新型「A6」、S7スポーツバックは2009年デビューの「A7スポーツバック」をベースとして、スポーティーな「Sシリーズ」に仕上げられている。
もっとも、ライバルメーカーを見渡せば、トップレンジのスポーティーモデルからベーシックなエントリーグレードまでダウンサイジングコンセプトが盛ん。「ここはひとつ“元祖”として、一歩先を行っておかなければなるまい」とアウディのルパート・シュタートラー会長が言ったかどうかは知らないが、新たなテクノロジーが採用されることになった。
「シリンダーオンデマンドシステム(=気筒休止機構)」が、それだ。
先ごろデビューした新型のベントレー用V8と基本を同じくするこのエンジンは、負荷が小さいときに8気筒のうちの4気筒を休止させ、燃料消費を極限まで少なくする工夫が施されている。
気筒休止というアイデア自体は、決して目新しいものではない。ただし、アウディのそれは最新のテクノロジーによって一段と洗練され、4気筒モードでも8気筒モードと変わらない快適性を確保している点が特筆される。
快適に燃費を稼ぐ
ここでそのメカニズムを簡単に説明しよう。
3速以上のギアで、軽めの負荷で走行しているなど、「4気筒モードにする条件がそろった」とエンジン・コントロール・ユニット(ECU)が判断すると、カムシャフト近くに置かれた電磁ソレノイドが作動。ここから押し出されたピンがカムシャフト上に置かれたネジ状の溝にかみ込むと、カムがカムシャフトの軸方向にスライドし、カムに押し下げられることの無くなった吸排気バルブはいずれも閉じたままとなる。この動作にあわせて燃料噴射と点火を停止することで、8気筒のうちの4気筒が休止状態に入る。
休止した4気筒の作動を再開させるには、これと反対の制御を行う。実は、カムシャフト上にはバルブの作動を休止させるための“溝”とは逆方向にネジを切ったもうひとつの“溝”、そしてこれに対応する電磁ソレノイドが用意されている。再開させるときは、こちら側の電磁ソレノイドからピンを押し出すと、カムは先ほどと逆方向に移動。めでたく吸排気バルブは上下動を再開するという仕組みになっている。
カムを左右に動かす機構は、8気筒のうち、2、3、5、8番の4気筒分にのみ装着されているが、これらはピストンの上下動にあわせて順次作動し、8気筒モードから4気筒モード、もしくは4気筒モードから8気筒モードへの切り替えを、わずか1/100秒から4/100秒で終える。
もっとも、8気筒モードから4気筒モードに遷移すれば、振動やノイズレベルが増大することは避けられない。そこでS6ならびにS7スポーツバックでは、これらを抑制する二つのテクノロジーがあわせて採用されることになった。
一つは、エンジンの振動を電子的に打ち消すアクティブエンジンマウント。これは、エンジンマウントの内部にオーディオ用スピーカーのボイスコイルを内蔵したものと考えればわかりやすい。このエンジンマウントは25〜250Hzの周波数帯で最大1mmのストロークを生み出すことが可能で、エンジンと逆位相の振動を発生して不快なバイブレーションがボディーに伝わるのを防ぐ。
もう一つは、アクティブノイズコントロール。こちらも、同種のシステムは以前から存在しているが、アウディの場合はキャビンの天井部に4つのマイクを設置し、これにより検出されたノイズと逆位相の“音”をオーディオ用スピーカーから流すことで室内のエンジンノイズを打ち消している。
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マナーは“ひとクラス上”
これらのシステムのおかげで、S6およびS7スポーツバックのキャビンは、8気筒モードから4気筒モードに切り替わっても、ほとんど気づかないほどの静粛性が保たれる。いや、そうと知らされなければ、この変化に感づくパッセンジャーはまずいないだろう。かくいう筆者も、メーターパネル内に気筒休止機構の動作を知らせるインジケーターを確認したことで、ようやくその違いに気付いたほどである。
ここまでのリポートで想像できるとおり、S6とS7スポーツバックは従来のスポーティーモデルとは別次元の静粛さ、そしてバイブレーションの少なさを実現している。エンジンを始動させてもキャビンは平穏なまま。そこから、作動が一層滑らかになったSトロニックでDレンジを選び、ミュンヘン空港近くの道を走り始めても、ひとクラス上のラグジュアリーサルーン並みの上品なマナーを示す。
とはいえ、ボディーの前後に取り付けられた“S”のバッジはだてではない。スロットルを深々と踏み込めば、最新のSモデルは猛然と加速を始め、アウトバーンの速度無制限区間ではスピードメーターの針はやすやすと200km/h以上の領域に達した(他のドイツ製高性能車同様、最高速度はスピードリミッターの作動により250km/hに制限される)。
その状況でもエキゾーストのノイズレベルは最小限に抑えられ、荒々しいバイブレーションが伝わることもない。しかも、フルタイム4WDシステムのクワトロが装備されているので、安心してステアリングを握っていられる。
“S”の名に恥じないハイパフォーマンスを、ラグジュアリーサルーン並みに洗練された世界で実現し、環境性能にも抜かりなく配慮する。
アウディの目指すスポーティーモデルの新しいあり方が、これではっきりしたような気がする。
S6ならびにS7スポーツバックの日本導入は、今秋の見通し。価格は未発表ながら、1200万円オーバーだった先代と同等か、それをやや上回るレベルと予想される。
(文=大谷達也/写真=アウディジャパン)
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大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。