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第147回:「ニュー」が「ザ」になった理由 「ザ・ビートル」のデザイナーにインタビュー

2012.05.18 エディターから一言 金子 浩久
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第147回:「ニュー」が「ザ」になった理由「ザ・ビートル」のデザイナー、クリス・レスマナ氏に聞く

小さな違いは大きな違い。ノーズとルーフがすらっと伸びて、がぜんハンサムになった新型「ザ・ビートル」の造形に込めた思いを、来日したフォルクスワーゲンのエクステリアデザイナー、クリス・レスマナ氏に聞いた。

「セルフサンプリング」のデザイン

「ニュービートル」の新型だから、「ニュー・ニュービートル」とでも呼ばれるのかと思ったら、「ザ・ビートル」だった。

「ニュー」が真横から見て分度器が走っているようなファニールックだったのに対して、「ザ」はもう少しオトナというかマジメ路線。真横から見るとずいぶんと違っている。窓が平べったくなり、屋根も平らになった。
でも、前から見ると、違いは小さい。ヘッドライトユニットの中にLEDが付けまつげのように並んでいるのが、最近の女性のメークのようだ。

メディア試乗会が行われた横浜の街中を走っていても、違いに気付いた人には振り向かれた。
「MINI」しかり、「チンクエチェント」しかり。「ニュー」と「ザ」のビートルもまた、はるか昔に生産が終了したオリジナルのデザインイメージをよみがえらせた現代車である。

エリック・クラプトンが「いとしのレイラ」を、再結成されたイーグルスが「ホテル・カリフォルニア」を21世紀になって新たに録音するように、MINIもチンクエチェントも「ニュー」も「ザ」も、デザインをセルフサンプリングしている。

ミュージシャンが自分の曲を自分でサンプリングするように、ヨーロッパの自動車メーカーは、自動車史に輝かしい功績を残した自社の「名車」のデザインをサンプリングしている。「セルフサンプリングデザイン」なのである。新興国のメーカーは逆立ちしてもできない。

もはやロックが反抗と既成秩序破壊のための音楽ではなくなってビッグビジネスとなったように、MINIはミニサイズではなくなり、チンクエチェントとビートルはボディーの反対側にエンジンをマウントしている。一緒なのは名前だけだ。

「ザ・ビートル」とレスマナ氏。
「ザ・ビートル」とレスマナ氏。 拡大
LEDがまるで付けまつ毛のよう。
LEDがまるで付けまつ毛のよう。 拡大
旧型と比べて、窓が平べったくなり、屋根も平らになった。
旧型と比べて、窓が平べったくなり、屋根も平らになった。 拡大
新旧ビートルのそろい踏み。
新旧ビートルのそろい踏み。 拡大
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「必然的に違うものになった」

そうしたクルマの造形を行うのに、果たしてデザイナーは何を創造のモチベーションとするものなのだろうか? まったく新しいクルマ、例えば新型「ゴルフ」などをデザインするのはチャレンジングだとは思うが、ザ・ビートルは初代のビートルというワクから大きくはみ出すことは誰にも求められてはいないのである。

ザ・ビートルをデザインしたフォルクスワーゲンのデザイナー、クリス・レスマナ氏は僕の質問にしばらく考えた後に答えた。
「モチベーションは変わらない。新しいビートルをデザインできるのはとても大きなチャレンジだった。自分なりに、4つの特徴を盛り込んだ」

聞きようによっては気分を害しかねない質問だったが、レスマナ氏は真摯(しんし)に言葉を重ねた。クラシックカー好きのインダストリアルデザイナーを父に持つレスマナ氏は42歳のインドネシア人。カーデザイナーを目指してヨーロッパに渡り、ドイツのプフォルツハイム造形大学を卒業してフォルクスワーゲンに入社。エクステリアデザインチームに所属し、「コンセプトD」「フェートン」「up!」などのプロジェクトに携わった。

「4つの特徴というのは、よりオリジナルのイメージに近くなるように、Aピラーの角度を立てたこと。ルーフのカーブの曲率を緩めたこと。ボンネットを延ばしたこと。前後フェンダーの張り出しを強調したことだ」

たしかにその通りのカタチに仕上がっているが、デザイナーならではのエゴ、例えば「オレでなければ引けなかった」線なり面はなかったのだろうか?

「時代によってクルマのデザインに求められるものは変化してくるものだけれども、ビートルのアイコンは生き続けていると思う。そこに新しい解釈を加えたから、必然的にニュービートルとは違ったものになった」

あくまでも優等生なのだ。

クリス・レスマナ氏
1969年インドネシア・バンドン生まれ。93年から97年に独プフォルツハイム造形大学でトランスポーテーションデザインを専攻。在学中、アウディとフォルクスワーゲン(VW)で複数の実習を経た後、VWが卒業制作のスポンサーになる。97年にVW入社後、エクステリアデザインチームに属しながら、「コンセプトD」「フェートン」「up!(Concept Frankfurt '07)」などのプロジェクトに携わってきた。
クリス・レスマナ氏
1969年インドネシア・バンドン生まれ。93年から97年に独プフォルツハイム造形大学でトランスポーテーションデザインを専攻。在学中、アウディとフォルクスワーゲン(VW)で複数の実習を経た後、VWが卒業制作のスポンサーになる。97年にVW入社後、エクステリアデザインチームに属しながら、「コンセプトD」「フェートン」「up!(Concept Frankfurt '07)」などのプロジェクトに携わってきた。 拡大
「ザ・ビートルには4つの特徴を盛り込んだ」とレスマナ氏。
「ザ・ビートルには4つの特徴を盛り込んだ」とレスマナ氏。 拡大

オリジナルをモダンに再現

ザ・ビートルを運転した感じは、「ボディーの大きなゴルフ」だ。

「外から見えるところはザ・ビートル専用にデザインしたものだけだが、外から見えないところのほとんどは『ゴルフ』と『ジェッタ』(日本未導入)のものを共用している」

運転してそう感じるのは至極もっともなわけである。予想と違っていたのは、屋根をフラットに近づけたのにもかかわらず、ドライバーの頭上には十分以上の空間が残されていたところだ。おそらく、屋根の曲率が緩められたのは後席の頭上空間の狭さを改善するためなのだろう。

メーターパネル中央の速度計が大きいことは理解できるが、その右の燃料残量計が異様なまでに大きい。他の機能を併せ持っていないのにもかかわらず、練馬大根の切り口(!)ぐらいの直径があるのだ。おまけに、ご丁寧に満タンから空までを22にも区切った目盛りまで振ってある。こんなに大きくて、超アナログな燃料残量計なんてゴルフにもジェッタにも装着されていなかったはずだ。

いったい、どのクルマのものを流用しているのだろうか? 会場に戻ってから、レスマナ氏に尋ねてみた。

「ザ・ビートルのためだけにデザインしたものだ。流用ではない」

なんで、また?

「オリジナルをモダンに再現するためサ」

さっきのマジメな受け答えの際には見せなかった得意満面の笑みだ。

速度とエンジン回転と燃料残量だけを大きな3つのアナログメーターにして、その他の情報は速度計内にデジタル表示させている。
ザ・ビートルのデザインは、エクステリアだけでなくインテリアにも現代とオリジナルの融合を図ろうとするデザイナーの意志が貫かれていた。

(文=金子浩久/写真=峰昌宏)

→「ザ・ビートル」の試乗記はこちら

中身は「ゴルフ」などとの共用だが、見えるところは「ザ・ビートル」専用にこだわった。
中身は「ゴルフ」などとの共用だが、見えるところは「ザ・ビートル」専用にこだわった。 拡大
室内のヘッドルームは十分。
室内のヘッドルームは十分。 拡大
中央に速度計、左に回転計、右には燃料残量計を配置。(写真=金子浩久)
中央に速度計、左に回転計、右には燃料残量計を配置。(写真=金子浩久) 拡大
金子 浩久

金子 浩久

『10年10万キロストーリー4』
(金子浩久著)
1台のクルマに、10年もしくは10万キロ以上乗ってきたオーナーを、金子浩久が取材。クルマとヒトの生活を、丁寧に紙の上に載せていきます。『NAVI』人気連載の単行本化! →二玄社書店で買うアマゾンで買う

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