ジャガーXKR-Sクーペ(FR/6AT)【試乗記】
スーパーカーの領域へ 2012.04.30 試乗記 ジャガーXKR-Sクーペ(FR/6AT)……1759万9000円
見るからに武闘派ないでたちの、ジャガー史上最強の公道マシン「XKR-Sクーペ」。ノーズ下に550psを湛(たた)える、その振る舞いはいかに?
下っ腹に響く“目覚め”
ボンネットフード前端のスリット、ロワースポイラー、左右フロントフェンダー部のインテーク、リアにまわるとウイングにディフューザー。「ジャガーXKR-Sクーペ」の外観はレーシーとやりすぎのぎりぎりのセンにある。自分も、「やりすぎ」だと感じたひとりだ。ジャガーはこんな武闘派の領域には立ち入らず、優雅に上品に、午後の紅茶を味わうように愛(め)でるスポーツカーであればいいのではないか、と。
ただし、90分間の試乗を終えて考えを改めた。ジャガーは変化、進化している。それなのにいつまでも「ジャガー=雅(みやび)なブランド」だと思い込んでいるのは、日本人は今でもちょんまげを結っていると信じ込んでいるようなものだ。
もちろんジャガーならではの変わらぬ魅力もあるけれど、ジャガーのダイナミックレンジは確実に広がっている。
ヘッドレストに「R-S」ロゴが刻まれた専用のパフォーマンスシートに腰掛けて5リッターのV8スーパーチャージド・ユニットを始動、「ボム!」という下っ腹に響く音とともに550psが目覚める。
走りだしが軽い、と感じたのは、最高出力/最大トルクが「XKR」の510ps/63.7kgmから550ps/69.3kgmへと増量されつつ、しかも1810kgの車重は据え置きだからだろうと思っていた。けれども、どうやらそれだけではない。XKR-Sクーペ専用チューンを施したパフォーマンスアクティブエキゾーストの排気音が、軽快に走っているように感じさせるのだ。
ほれぼれするエキゾーストサウンド
アクセルペダルを軽く踏めばホロホロと軽やかに、もうちょい踏むとバリバリと力強く、さらに思いきり踏みつければカーンという乾いた音が空に突き抜ける。この音色の変化を味わうためにアクセルペダルを踏んだり離したりしたくなるほど、エキゾーストサウンドは魅力的だ。
音だけでなくレスポンスも敏感で、エンジン回転が低い状態でアクセルペダルを操作したときのピックアップもいい。おそらく6ATのセッティングもどんぴしゃなのだろう、アクセルペダルの微妙なオン・オフを丁寧に拾ってくれる。
一般道での試乗だったので全開にできるのはほんの一瞬であるけれど、音とレスポンスのおかげで、パーシャルスロットルでもいいモンを操っているという実感を手に入れることができる。
「JaguarDriveコントロール」をダイナミックモードにセットすると、レスポンスはさらにシャープになり、6ATのシフトスピードも速くなる。変速時のショックもそれなりに大きくなるけれど、頭の中が白くなって体温も上がってしまうので、シフトショックなんて些細(ささい)な問題に思えてしまう。
と、ついエンジンにばかり目が行ってしまうけれど、XKR-Sクーペがその真骨頂を見せるのは、やはり道が曲がってからだ。道が曲がりくねるにつれ、スピードが上がるにつれ、どんどん車体が軽く、小さくなっていくかのような錯覚に陥る。
スーパースポーツの文法に添った仕上がり
きっちりと路面からのインフォメーションを伝えるステアリングホイールを切ると、切ったぶんだけノーズが向きを変える。550psの大パワー車であるのに、コーナリングフォームに大味なところがないのは特筆モノ。「えいやっ!」とあてずっぽうにステアリングホイールを切るのではなく、次のコーナーへの進入ルートを先読みしながら、丁寧に操作をしたくなる。
ダンパーとスプリングに専用のセッティングを施し、10mm車高を引き下げるなどして最適化を図ったというけれど、その効果は確実に表れている。
大パワーに対するブレーキの効きは十分で、かっちりとしたペダルのフィールも好印象。試乗コースの舗装状態がよかったことは差し引く必要はあるけれど、前255/35ZR20、後295/30ZR20というデカくて薄っぺらいタイヤを履く割には乗り心地も悪くない。
総じて、速くて洗練されているという、コンテンポラリーなスーパーカーの流れにのったクルマに仕上がっている。
ジャガーは特に日本市場にあっては、「ジャガーだから多少のユルさに目をツブろう」という、特別なポジションにあった。ただし、XKR-Sクーペに乗ると、ドイツ勢に真っ向から勝負を挑もうとしていることがよくわかる。「XJ」や「XF」など、デザインにおけるチャレンジにばかり目が向いてしまうけれど、ジャガーはパフォーマンスにおいても新しいステージへ踏み出しているのだ。
(文=サトータケシ/写真=小林俊樹)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
NEW
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。 -
NEW
ついにハードウエアの更新も実現 進化した「スバルアップグレードサービス」の特徴を探る
2026.3.5デイリーコラムスバルが車両の機能や性能の向上を目的とした「スバルアップグレードサービス」の第3弾を開始する。初めてハードウエアの更新も組み込まれた最新サービスの特徴や内容を、スバル車に乗る玉川ニコがオーナー目線で解説する。 -
NEW
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く
2026.3.5マッキナ あらモーダ!2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。 -
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.3.4試乗記メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。 -
始まりはジウジアーロデザイン、終着点は広島ベンツ? 二転三転した日本版「ルーチェ」の道のり
2026.3.4デイリーコラムフェラーリ初の電気自動車が「ルーチェ」と名乗ることが発表された。それはそれで楽しみな新型車だが、日本のファンにとってルーチェといえばマツダに決まっている。デザインが二転三転した孤高のフラッグシップモデルのストーリーをお届けする。 -
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す
2026.3.3エディターから一言電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。





























