マツダCX-5 20S(FF/6AT)【試乗記】
胸焼けしない「全部のせ」 2012.04.15 試乗記 マツダCX-5 20S(FF/6AT)……235万8750円
マツダの新世代技術「スカイアクティブ」を漏れなく搭載したクロスオーバーSUV「CX-5」。ガソリンモデルを連れ出し約500kmを試乗した。その実力やいかに?
スカイアクティブを生かす「i-DM」
何歳になっても、ほめられるのはうれしい。たとえ相手が機械であってもだ。「デミオ」からマツダのクルマには「i-DM(インテリジェント・ドライブ・マスター)」なる運転評価システムが搭載されるようになっていて、乗るたびに5点満点で採点してくれる。しかも「すばらしい運転です」などとメッセージまで表示されるから、何やらむずがゆくなる。
マツダの誇るエコ技術「SKYACTIV(スカイアクティブ)」を搭載した3番目のモデルとなる「CX-5」もi-DM対応だ。ドライブトレインの効率化、車体の軽量化などの技術を集めて基本性能を向上させるのがスカイアクティブなのだが、それだけでは終わらない。ドライバーの運転スキルがあってはじめて技術が生かされる。
マイナーチェンジでのモデル追加だったデミオではエンジンが刷新されていただけだが、第2弾の「アクセラ」ではさらにATにもスカイアクティブテクノロジーが採用された。第3弾となるCX-5でボディーとシャシーも新世代となり、スカイアクティブ「全部のせ」が実現したわけだ。
その実力を確かめるため、一般道と高速道路をあわせて500km弱の道のりを走ってみた。走行中はi-DMの指示に従い、高得点が出るよう心がけた。そうすれば、マツダの想定するスカイアクティブの性能がいかんなく発揮されるはずである。
i-DMのコーチング機能では、ランプの色によってリアルタイムで運転の状況が示される。乱暴な運転をすると白いゲージが表示され、急加速や急ブレーキ、雑なステアリング操作を警告する。グリーンランプが点灯すれば、やさしい運転と判断されたことになる。最近はエコ運転を促すこのような表示は珍しいものではなく、グリーンがエコを意味することが多い。しかしi-DMにはさらに上のランクがあり、ブルーランプで表される。
軽さが大きさを忘れさせる
グリーンランプを点灯させるのは、それほど難しくはない。流れに乗って走っていれば、よほどのことがなければ大丈夫。ホワイトゲージが出現するのは、意識して乱暴な操作をした時だけだ。信号が変わって急いで発進しようとしたり、無理に割り込もうとしたりすると見逃してはくれない。
東京・杉並区からしばらく一般道を走り、首都高速から常磐道にのって茨城県の牛久市まで走った。一般道では3点台だったスコアが、高速道路を流しているとどんどん上がっていく。約90kmを走り、i-DMは4.8という得点となった。高速道路では、おおむねグリーンランプが点灯していた。メーターが表示する平均燃費は、12.2km/リッターである。JC08モード燃費は16.0km/リッターなので、まあまあといったところか。
しかし、CX-5は大きくて重いクルマなのだ。「CX-7」より数字が2つも少ないのだからコンパクトなんだろうと勝手に想像していたので、実際に相対してみると堂々たる体格にたじろいだ。「ホンダCR-V」と比べても、全長、全幅、全高のすべての数値で上回っている。車重が1440kgというのはこの大きさからすれば軽く、燃費にも貢献しているのだろう。
CX-5のウリは、もちろん燃費だけではない。「ZOOM-ZOOM」を捨てたわけじゃないのだから、走りをスポイルしたんじゃ本末転倒だ。14.0という超高圧縮比の「SKYACTIV-G 1.3」直噴ガソリンエンジンは、デミオに乗った際に好印象を得ている。CX-5の2リッターエンジンでは13.0になっているが、それでも従来からすれば高圧縮だ。軽やかな回り具合は同様のフィールである。軽量ボディーと相まって、運転していると大きなSUVであることは次第に忘れていく。
燃費と走りを両立させた優等生
背の高さのわりに腰高な感じがしないのはありがたいが、乗り心地に関しては期待したほどではなかった。少なくとも、高級感を醸し出しているようには思えない。時に大きなガタイごと揺さぶられるのは、歓迎できるものではなかった。
スポーティーなのかといえば、確かにSUVにしては頑張っている。でも、手放しでほめようとまでは思わない。エンジン音が少々ガサツなのも、アクセルを踏み込む意欲をそそらない要因だ。悪くはないんだけれど、ものすごくいい、と言うのははばかられる。
東京・神田神保町のカレー屋「まんてん」の名物メニュー「全部のせ」はトンカツ、シュウマイ、コロッケ、ウインナーがのっていて、食べれば確実に胸焼けする。しかし、スカイアクティブの「全部のせ」は味が重なって濃くなるどころか、むしろ無味無臭なのだ。さまざまな指標で、水準を上回っているのは確かだ。ただ、突出しているものがないと、全体としては印象がぼやけてしまう。燃費も走りも、という目的は達成されているのだが、優等生的に見える。
牛久から南下して房総半島を縦断し、山道も含めて一般道を180kmほど走った。なんと燃費は向上して14.3km/リッターまで伸びた。i-DMスコアは、4.2である。交通量の少ない道でストレスなく走ったのがよかったようだ。ガラ空きの高速道路でのんびり走っていると、スコアは満点の5.0に達した。最後に渋滞にあって4.6まで低下したものの、燃費は15.0km/リッターという立派な数字だった。
トータルで500km弱を走り、燃費は満タン法で13.0km/リッターだった。ほめられていいと思う。文句を言ったようだが、あれもこれもと欲張って性能を押し上げたのはたいしたものなのだ。わかってはいるけど、プラスアルファを求めてしまう。そんなワガママな思いに対して、マツダはちゃんと答えを用意している。話題のクリーンディーゼルを搭載したモデルなのだが、それについては別途リポートすることにしよう。
(文=鈴木真人/写真=峰昌宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。






























