ボルボV40 T5 R-DESIGN(FF/6AT)【試乗記】
北欧のエンターティナー 2013.04.23 試乗記 ボルボV40 T5 R-DESIGN(FF/6AT)……456万5000円
発売以来、人気を集めるボルボ「V40」に追加されたスポーティーモデル「V40 T5 R-DESIGN」を箱根のワインディングロードで試乗した。
意外とお得な「R-DESIGN」
「『ボルボ850』を導入したとき以来の人気です!」と、ボルボの古参スタッフが興奮気味に語るのが、同社の新しい5ドアハッチ「V40」だ。2013年2月19日に販売を開始して、わずか5週間で3100台もの受注を得る好調ぶり。「V40はカッコいいですものね」と納得し、「乗っても楽しいし……」と言葉をつなぐ。
商品の魅力はもとより、ベーシックグレード「T4」が269万円からという、戦略的な値付けも功を奏している。従来のボルボユーザーに加え、「メルセデス・ベンツAクラス」や「トヨタ・プリウス」と比較するような人が、販売店に足を運んでいるという。ただし、「6月までの在庫はすでに完売してしまって……」と、同社スタッフはうれしい悲鳴をあげる。
そんな“タマ不足”を、若干とも補えるかもしれないのが、「V40のスポーティネスを磨き上げた」とうたわれるボルボ「V40 T5 R-DESIGN」である。最高出力213psの2リッター5気筒ターボを積んだ「40シリーズ」のホッテストバージョン。399万円。「V40 T4 SE」の309万円と比較すると、ずいぶんお高いようだが、本革シートやナビゲーションシステム、18インチホイールなどが標準装備されることを考慮すると、「意外とオトク」というのが、ボルボの主張である。
プレス試乗会の日は、あいにくの雨。箱根の緑をバックに、T5 R-DESIGN専用色の「レーベルブルー」がよく映える。「シルク・メタル」と名付けられたマットなシルバーで縁取りされたグリルメッシュ、同じくシルク・メタルにペイントされたドアミラーが、時折強まる雨に濡(ぬ)れそぼつ。リアにまわれば、専用ディフューザーとデュアルタイプのテールパイプがスポーティー。18インチの大径アルミホイールが足もとを固める。そこに巻かれるのは、225/45の、太く薄いミシュラン・パイロットスポーツだ。
スペシャル感あふれる室内
ドアを開けて、V40 T5 R-DESIGNの運転席へ。室内は、ブラック基調にアルミのアクセントが配される、“文法通りのスポーティー”でまとめられる。具体的には、足元にはアルミのスポーツペダル。インストゥルメントパネル、ドアの内張には専用のアルミニウムパネルがおごられ、ステアリングホイールの一部やシフトレバーまわりに、シルバーの加飾。
レザーシートは、座面・背もたれ左右端の部分に細かい穴が穿(うが)たれた、パーフォレーテッド仕様となる。シートはじめ、ステアリングホイール、ハンドブレーキグリップ、シフトブーツに、ステッチが施されるのも、オーナーにはうれしいところ。
さらに蘊蓄(うんちく)を語りたい向きには、「フリーフローティングセンタースタック」と呼ばれるセンターコンソールの一工夫がある。パネル端の、鮮やかなブルーのストライプは、レースカーのボディーを縦断するカタチで入れられた「レースストライプ」をイメージしたもの。パネル表面に処理された同心円状の凹凸は、高級腕時計の裏面に施されることが多い波状の加工「コート・ド・ジュネーブ(ジュネーブ・ウエーブ)」からインスパイアされたもの。スペシャル感を演出するのも、大変なのだ。もっとも、シートのバックレストに「R-DESIGN」とロゴが刺しゅうされているので、細かいことを言わなくても、乗っているクルマが「ちょっと特別なグレード」であることは、すぐわかるわけですが。
エンジンをかけて、天下の険へ。V40 T5 R-DESIGNを特徴付けるのは、タイヤ一転がりで感じられるスポーティーさ。電動パワステを用いたハンドルは重めで(パワーアシストの度合いは変更可能)、足は固められている。クルマ全体が、締まった印象だ。高まる期待!
ちなみに、液晶ディスプレイであるメーターパネルは、背景の色を、3色のテーマカラーから選ぶことができる。通常は青で、気分を盛り上げたいときは赤に、といった使い方も可能だ。雨の中興奮すると危ないので、今回はブルーのままにしておいた。
スムーズな回転フィールの5気筒
スポーティーな装い以上に、V40 T5 R-DESIGNを特別な存在にするのが、フロントに横置きされた2リッターターボである。直列5気筒という珍しいレイアウトを採るそれは、213ps/6000rpmの最高出力と、30.6kgm/2700-5000rpmの最大トルクを発生する。先に発売された4気筒のスペシャル版「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」は、200psと29.1kgmと、アウトプットでT5に肉薄する。
T5 R-DESIGNの長所は、ライブリィな4気筒に対し、よりスムーズな回転フィールを持つ5気筒。そして、0.4リッタープラスの、2リッターという排気量の余裕である。6段ATと組み合わされ、1540kgのボディーをして、軽々と山道を駆け上がらせる。
「D」レンジのままでも何ら不満ないパフォーマンスだが、シフターを「S」に移すと、途端にシフトプログラムが変更され、エンジン回転数が跳ね上がる。速度と回転計を兼ねたメインメーター横のパワーゲージでは、アクセル開度に合わせて、赤い指針が派手に上下する。かつては慎重居士だった北欧メーカーが、ずいぶんエンターティナーになったものである。
完全ウェットの登り坂では、ときに前輪が空転して“ハイパワーFF車の悲しさ”を感じさせるが、それもひとつの派手なパフォーマンス!? 気になったのは、シートのホールド性が低く、特に上体が左右に滑ること。T5 R-DESIGNのステージは、カーブの続く山道ではなく、ハイウェイにこそあるのだろう。
スプリングもアンチロールバーも強化された足まわりは、日常的に使うには少々硬すぎるし、5.7mという最小回転半径が気になる人がいるかもしれない。それでも、よりスポーティーなV40を渇望する人には、T5 R-DESIGNは、楽しみな選択肢には違いない。語るべきことの多い、スペシャルモデルである。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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