第289回:2人乗りEV「ルノー・トゥイジー」とフィレンツェと臓物料理!?
2013.03.29 マッキナ あらモーダ!第289回:2人乗りEV「ルノー・トゥイジー」とフィレンツェと臓物料理!?
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早いもので1年
ルノーが2人乗りEV「Twizy(トゥイジー)」をスペインのバリャドリッド工場で生産を開始してから、早いもので1年が過ぎた。先日開催されたジュネーブショーでは、それを祝うディスプレイは特に展開されなかった。それでも、忙しいプレスデイのさなか、トゥイジーのシートに次々と座っている人がみられたのは、多くの人にとってそのコンセプトがいまだに新鮮であるためだろう。
ボクが会ったルノーの担当者は「イスラエルでも導入が始まっています」と誇らしげに教えてくれた。一部メディアによると、たしかに同国のクファール・サバ市がカーシェアリング用に検討しているほか、テルアビブ市でも導入を検討しているらしい。
トゥイジーといえば、ボクが住むイタリア・シエナでは、2012年4月、近所のピザ店オーナー、サルヴァトーレさんが早速購入した。「ほぼ即納だった」という。ボクは即座に、ピザの配達用に購入したのかと想像したが、実際には店から片道15kmのところにある自宅との往復用だった。
シエナの歴史的市街は、他の多くのイタリア旧市街同様、一般車は進入が制限されていて、ドライバーは城壁の外の駐車場に止めて歩く必要がある。許可証を取得して入っても、台数が限られた指定の四輪車スペースを毎日探して止めなければならない。
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対して、サルヴァトーレさんが購入したトゥイジー「アーバン」仕様は、小型二輪車扱いなので、旧市街に入れる。したがって家からピザ店まで、ドア・ツー・ドアで通えるというわけだ。
参考までにトゥイジーには小型二輪車扱いの「アーバン」仕様とは別に、原付扱いの「アーバン45」も用意されている。ただし、こちらは最高速度が45km/hに制限されている。
サルヴァトーレさんのトゥイジーへの思い入れは強く、購入直後にホームセンターでビニールを買い、“サイドウィンドウ”を自作した。続いて、出力センターに頼んであった店名入りのカッティングシートを、ドア下面に貼り付けた。
しかし、黙っていても彼のトゥイジーは注目度抜群だ。街行くほぼすべての人が目をとめる。さらにサルヴァトーレさんが窯の熱で暑くなる店内を避け、軒先に椅子を出して座っていると、多くの通行人からトゥイジーについて質問される。競合他店が多いピッツェリアにとって、アイキャッチ効果は抜群である。
古い街では難しい理由
トゥイジーは、従来の500cc級ディーゼルエンジンを搭載したイタリアやフランス製マイクロカーと比べ、静音性、クオリティー、安全性とも格段に優れている。
価格も魅力的だ。マイクロカーは量産効果が上がらず1万から1万2000ユーロ(約120万〜144万円)してしまうのに対して、トゥイジーはバッテリーレンタル料が月50ユーロ(約6000円)があるものの、6990ユーロ(約84万円)から買える。
しかし、個人的にはサルヴァトーレさん以後、シエナでトゥイジーを買った人と出会っていない。街で見かけても、ディーラーのクルマだったりする。
背景には、古い街ならではの理由があるのは、明白だった。
サルヴァトーレさんの場合、日本でいう1階に店舗があって、家庭用220V電源を延長コードでスルスルと引っぱってくれば簡単に充電できる、という恵まれた環境にある。
しかし旧市街の住居に関していえば、集合住宅が基本だ。まず管理人や管理組合を説得する苦労がある。CATVを引く交渉を始めたものの、あまりの手続きの面倒くささに断念したボクは、よくわかる。
そのうえ、もし建物内に駐車スペースがあっても、築年数百年の建築物の場合、技術的に配線が難しい場合もある。
もしわが家の集合住宅で「充電用に配線したい」といった場合を考えてみた。イタリアの旧公社系電力会社「エネル」が推奨している「本人確認用認証カードで作動する急速充電ポール」を設置すればベストなのだろう。ただし、工事は受益者、つまりボク負担だし、管理人の許可が降りるのは、とてつもない時間を要するにちがいない。
簡単に220Vのアウトレットを分岐した場合は、「ボクの留守中に他人が勝手につないで、日曜大工の電動ノコギリとかに使ってしまうかも」という心配が生じる。
公共の充電ネットワークも、まだ充実していない。前述のエネルは、公共充電ポールを月25ユーロ(約3000円)でいくらでも使えるプランを用意している。2013年1月には、エネルと石油会社「エニ」社が共同で、全国のガソリンスタンドに充電ステーションを設置する計画を発表した。
それでも、イタリアの充電ポール数は、2012年の時点で1350本だ。日本では日産自動車がEV「リーフ」のウェブページ上で示しているものだけでも、普通&急速を合わせた充電ステーションは4200カ所もある。イタリアは、はるかに少ない。
EUの目標の一環として、イタリアは2020年まで12万5000本の充電ポールを設置しなくてはならないが、行方は不透明である。
駐車場争奪戦が激しいイタリアゆえ、「EVでないクルマが充電用スペースに置いてしまう」といった問題も、ローマなどでは深刻になっているようだ。また、将来充電ポールがさらに普及した場合、その維持管理も、日本のようにはうまくいかないだろう。それは、以前本欄でも紹介したフランス・パリのEVカーシェアリング「オトリブ」で使われている充電ポール「ボルヌ」でも、使えないものに当たったりするのだから、想像できる。
フィレンツェの場合
「やれやれ」と思っていた先日、フィレンツェに行く機会があった。するとどうだ。この街では、かなり頻繁にトゥイジーを見かける。シエナと同じ古都なのに、この違いは?
背景を調べてみると、市の姿勢があった。2009年に市長に当選したマッテオ・レンツィは、旧市街の恒久的歩行者専用ゾーンを積極拡大すると同時に、充電ポールの設置を推進したり、ルノーと共同でゼロ・エミッションのイベントを開いたりしている。
フィレンツェには、すでに134の充電ポールが設置されている。多くは、市が30%の株式を所有する公共照明運営企業「シルフィ」が運営しているもので、現時点で利用は無料だ。歩行者ゾーンを拡充するいっぽうで、ゼロエミッションカーに進入可能エリアと、チャージ場所を確保するこの政策は、おおむね市民に好評である。
日本同様イタリアでも、メーカー系、電力会社系、自治体系とさまざまな充電ポール設置計画があるが、イタリアの場合は自治体主導のものが強くなりそうだ。19世紀中盤以前の小国分立時代を彷彿(ほうふつ)とさせるが、他の政策を見ていても、これこそがイタリアの得意とするやり方である。
これこそ21世紀のクルマ像?
ちなみにウェブサイト『ベストセリング・カーズ』によると、2012年の発売から8カ月に欧州で販売されたトゥイジーの数は7460台で、イタリアはドイツ、フランスに次ぐ第3位(1378台)である。思ったよりも成績がよい。
この分野に他メーカーもどんどん加わってもらい、市場全体を活発にしてほしいものだ。ジュネーブショーでトヨタが公開した三輪EV「i-ROAD」は、トゥイジーの良きライバルとなろう。
ふと気がつけば、フィレンツェの名所のひとつ、サン・ロレンツォ教会裏にあるメルカート(市場)のそばにも、トゥイジーがたたずんでいた。フィレンツェのメルカートといえば、「トリッパ」「ランプレドット」といった牛の臓物料理屋台である。若干観光スポットと化したものの、昔ながらの旧市街情緒にあふれている。
ヨーロッパでトゥイジーのような都市型EVは、従来一般車の進入が禁止されていた、そうしたエリアにまでアクセスを容易にする。もちろん、その恩恵を受ける人の中に、お年寄りや体の不自由な人も含まれることは、言うまでもない。
米国や日本における郊外型ファミリーレストランやDIYセンターの巨大看板を見ればわかるように、今日社会における風景の多くは、19世紀末の自動車発明とともに作られた“スピードを出しているクルマの中にいても判別しやすい”風景である。
もちろんそれ自体は20世紀を代表するカルチャーだ。だが、都市型EVは、より人間サイズの生活に回帰するという、21世紀型生活スタイルを開く鍵となる可能性を秘めている気がするのである。
最後に再びフィレンツェの市場内の食堂に話を戻せば、ボクが食べている間にも給仕のお姉ちゃんをはじめ、店員さんがバシバシ話しかけてくる。やがて食べ終わる頃には、彼ら全員が家族であることが判明した。そして帰りには、おばあちゃんまで出てきて見送ってくれた。ハンバーガーショップやファミレスでは、到底あり得ないコミュニケーションである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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