ボルボV60 T4 R-DESIGN ポールスター・パフォーマンス・パッケージ装着車【試乗記】
よりパワフルに、思いのままに 2013.03.29 試乗記 ボルボV60 T4 R-DESIGN ポールスター・パフォーマンス・パッケージ装着車(FF/6AT)……525万円
ボルボの定番エンジンである1.6リッター4気筒ターボに、メーカー公認のチューニングプログラム「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」が登場。サーキットでの相棒がひとさじ加えたことで、高効率のダウンサイジングエンジンはどう変わったのか?
走りにメリハリが利く
「ボルボV60 T4 R-DESIGN ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」という車は、名前の通り、V60の主流である直噴4気筒1.6リッターターボ車に、ボルボのモータースポーツ活動の公式パートナーであるポールスター・レーシングがファインチューンを施した“+20psエンジン”を搭載したモデルである。
パワーはもとよりトルクの増強はほぼ全域に及ぶ。1600-5000rpmまでの領域において24.5kgmを発生していた特性は、29.1kgm/2000-4250rpmにアップされる。これはコンピューターチューンゆえ、ロムの書き換え作業は全国のボルボ正規販売店で行え、プログラムのインストール後も車両の新車保証は継続して適用される。同製品はすでに販売されているT4エンジン(型式B4164)搭載車(「V40」「S60」「V60」「V70」各2013年モデル)に導入可能で費用は20万円。
数字の上では、1600-5000rpmの間の広範囲で発生していたトルクが、2000-4250rpmと有効バンドが限られるように見えるかもしれないが、実際にはそんな感覚は皆無。普通にゆっくりスロットルを開けていってもこれまで通り、2000rpm以下のユルユル回る領域でも、低速トルクが不足することなく遅滞なく加速する。
今まではトルクカーブの山の部分を24.5kgmで無理やりフラットに切り取ってしまったような特性であったが、ポールスターのチューンはそのままもう少し上までターボの過給圧を開放し、29.1kgmに引き上げている。裾野(すその)はそのままで、かさ上げしたカーブだから、バンドが狭くなったことでトルクカーブの丘はより盛り上がりを感じるようになった。今まではどこから踏んでも同じようなG感覚が続いたが、今度は2000-4000rpmを保つように回転を維持して走れば、よりメリハリの利いたスポーティーな走りが可能だ。
それには6段ツインクラッチのギアトロニックATが強い味方となる。トルコンのようなロスやシフトショックがなく、スッスッと間髪いれず加減速を期待できるコレは本当にドライバーの意思をそのまま忠実に反映してくれる。スポーティーかどうかはクルマ自体のもつ特性をいうのではなく、操るドライバーの意思にどれだけ忠実に反応するかどうかにかかっている。もしクルマ自体が過剰な速さにしつけられているとしたら、それは余計なお節介でしかない。
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最初からこの仕様にしてほしい
ドライバーの意思に忠実という意味では、一般市街地の実用域もまた走りやすく燃費にも留意できなければならない。この場合2000rpm以下の低速域が犠牲になっているわけではなく、今までと同じトルクが確保された上で、2000rpm以上のところがかさ上げされた結果、表記上あたかも1500rpmあたりのトルクが減ったかに想像してしまうけどそうではない。
Dレンジのままスロットル開度一定で待っていても、シフトアップしないからといってトルクが低くなったからではなく、増強されたトルク特性とシフトアップのタイミングが少し上に移動しただけで、もちろんマニュアルシフトすれば同じ速度で今まで通りのギア選択が可能である。
またそこより上の回転域では余剰トルクにより、今までより低い回転でも上のギアが使えることになる。だから意識的にマニュアルシフトしてやれば、より経済的な運転も可能。よってトルク増強は結果として燃費にも貢献する。
試乗会場近辺の山道や急坂での感想としては、コーナー手前の減速で回転が落ちてしまっても、シフトダウンさせずにそのまま同じギアポジションのまま次の加速が行えたり、勾配がきつくなってきて今までならシフトダウンが起きていた坂でもそのまま登ってしまったり、全体に一回りパワフルになった印象と感じられた。個人的な意見としては、T4エンジン全部を最初からこの仕様にしてしまって、20万円の追加も見送ってもらいたいところだ。
いろんなアプローチの仕方があっていい
1540kgの重量や4.6mの大柄なボディーに対して、一昔前ならば1.6リッターエンジンはいかにも力不足に思われたけれども、現代の技術をもってすれば今では誰も疑問をはさむ余地はない。パワーを必要とするならば200psが余裕をもって応え、好燃費を欲するならば小排気量が応える、という図式は欧米車の流行にもなっている。
ハイブリッドや電気に頼る日本車は、この分野におけるエンジン技術で後れを取っているように見えるかもしれないが、「ランエボ」や「インプレッサ」の例をだすまでもなく、需要さえあればいつでも対応できると静観しているようだ。また「マーチ」の例など見ると、あるていど大きな排気量でトルクを賄いエンジンは回さないで、トランスミッションの効率化により速度や燃費を稼ぐ方法もある。
どちらが賢いのか択一を迫るものではなく、いろいろな考えがあってこそ技術革新につながる。同じ課題に対してもアプローチの方法が異なる、国民性の違いとはおもしろいものだとも言えるだろう。
となると方式や流儀で選ぶのではなく、その車固有の個性ともいえる個体の魅力が一番大事な要素でもある。いたずらに排気量を誇示しないエンジンの高度な内容や動力性能だけでなく、ギラギラした光り物に頼ることなく清楚(せいそ)にして高貴な品格を醸すスカンジナビア・デザイン、それらによる内外装に身を包んだボルボV60 T4 R-DESIGNポールスター・パフォーマンス・パッケージという車は、間違いなく魅力的な個体だ。
(文=笹目二朗/写真=河野敦樹)
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笹目 二朗
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