フォルクスワーゲン・ザ・ビートル1.2TSI デザイン(FF/6MT)【海外試乗記】
カワイイからスポーティーへ 2012.03.28 試乗記 フォルクスワーゲン・ザ・ビートル1.2TSI デザイン(FF/6MT)個性的なデザインで注目を集めた「ニュービートル」のデビューから13年、新型「ザ・ビートル」が間もなく日本に上陸する。初代「ビートル」の精神を継承したという新型に試乗した。
「ニュービートル」の後継ではない?
2011年12月の東京モーターショーで発表された通り、2012年4月中旬より日本での先行受注が始まる「フォルクスワーゲン・ザ・ビートル」は、1.2リッターTSIエンジンと7段DSGを組み合わせた仕様となる。ニッポン上陸に先がけて、ポルトガルはリスボンでその1.2リッター仕様に乗る機会を得た。
その印象を報告する前に、いま一度、ザ・ビートルというモデルについておさらいをしておきたい。
フォルクスワーゲンとしては、新型「ザ・ビートル」を1998年デビューの「ニュービートル」と切り離してとらえてほしいようだ。プレスカンファレンスの場で、あるいはプレス資料においても、あちこちでオリジナルの初代「ビートル」を再解釈したとアピールしているのだ。
世界中でデザイン旋風を巻き起こしたニュービートルではあるけれど、特にヨーロッパにおいては「クルマらしさに欠ける」という部分で評価がわかれたそうだ。そこでザ・ビートルはニュービートルの後継というよりも、実用車の代名詞だったオリジナル・ビートル(タイプ1)のスピリットを継承した存在であるとうたっているのだ。
「いやいや、そうは言ってもザ・ビートルは『ゴルフVI』ベースであるからして、『ゴルフIV』をベースにしたニュービートルのモデルチェンジ版ではないか」と、クルマ好きのみなさんは言うだろう。それはまったくもって正しい。自分だってそう思っていた。けれども、いざ太陽光の下で見て、触って、乗ってみると、確かにニュービートルとは別路線を狙っていることが伝わってきたのである。
両者の違いは、まず真横から眺めてみるとよ〜くわかる。
外も中も、よりクルマっぽい
ニュービートルは、フロントとリアのフェンダーの半円、そしてルーフの半円と、3つの半円を反復させるという、クルマっぽくないデザイン的特徴を持っていた。それがザ・ビートルでは、フロントのオーバーハングが長くなり、ルーフ(屋根)のラインも前方から後方にすっと伸びている。ありていに言えば、よりクルマらしいフォルムになった。
クールジャパンのカワイイ目線で見ると、普通になっちゃって残念という気もする。けれども運転席に座った瞬間、そりゃそうだよな、と感じる。ニュービートルで眼前に広がっていた、ネコが踊れるくらいのダッシュボードの広大なスペースがなくなっていたからだ。クルマの常識がしみついている人間にとって、あのスペースは何か落ち着かない感じがしたものだった。カッコいいデザイン住宅の、階段裏のだだっ広いデッドスペースがもったいないと思うのと似ている。
内外装とも、ザ・ビートルのデザインはクルマらしくなったのだ。
ニュービートルとのデザイン上の比較をしたので、サイズについても比較しておく。カッコ内がニュービートルとの比較で、全長が4278mm(+152mm)、全幅が1808mm(+84mm)、全高が1486mm(+12mm)。
低くなったように見えるのに、実は全高が高くなっているのが意外だ。前トレッド1578mm(+63mm)、後トレッド1544mm(+49mm)、ホイールベース2537mm(+22mm)と、全体に長くワイドになっているから、相対的に低くなったように見えるのだろう。
といったところまで確認して、シフトレバーのそばにあるスターターボタンを押して1.2リッターTSIユニットを始動する。日本に入ってくるのは7段DSGだが、試乗したのは6段MT。だから日本仕様とは異なるけれど、ターボチャージャー付き4気筒エンジンをダイレクトに味わうにはマニュアルトランスミッションが好都合だった。
まず、アイドリングでクラッチをつないだぐらいの、極低回転域からグッと前に出るトルク感がいい。スペックを見ると1500-4100rpmで最大トルク17.8kgmを発生するとなっている。走り始めてすぐに、その守備範囲の広さ、柔軟さが体感できる。
そして、海辺のワインディングロードにステージを移すと、ただの実用エンジン以上の魅力があることがわかってくる。
ペリエみたいに辛口、爽快
回転を上げるにつれキュイーンと一点に収束していくような回転フィールは、非常に気持ちがいい。その時の音とレスポンスもシャープだ。正直、こんなにスポーティーな手ざわりのエンジンをザ・ビートルに組み合わせてくるとは意外だった。
同時に、ヨーロッパへ導入されている1.4リッターのTSIエンジン搭載モデルにも試乗することができたけれど、1.2リッターで力不足を感じることはなかった。むしろ、ペリエのように爽やかで透き通った回転感覚は、1.2リッターのほうが好ましいと感じたぐらい。
あとはこのエンジンと7段DSGの組み合わせがどうかということになるけれど、現行「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の出来栄えから察するに、問題はないと思われる。1.2リッターエンジンは、総じて好印象だ。ちなみに、すでに発表されている日本の10・15モード燃費は17.0km/リッターを上回る。
足まわりもエンジンと同じで、ペリエみたいにちょっぴり辛口の爽やかフィーリング。なので、クルマ全体に統一感がある。スポーティーになったのは見かけだけじゃないのだ。
カツンカツンと地面を蹴る市街地からその片りんを見せるけれど、ワインディングロードでスピードを上げると、ステアリングホイールの操作にダイレクトに反応する小気味よさが際だつ。見ても乗っても、かわいいクルマから凜(りん)としたクルマへ変身を遂げたのだ。
オマケはないけど、それでも楽しい
短時間ながら後席の居住性を確認してみると、特に頭上スペースが広がったように感じられた。実際、ルーフラインが伸びたことで後席のヘッドクリアランスは10mm増しているという。また、トランクスペースが広がったこともニュース。ニュービートルの容量209リッターから310リッターへと大幅に拡大されたのだ。家族4名での自動車旅行なら、難なくこなせそう。
ここでひとつ、残念なお知らせ。
期待していたギターメーカーのフェンダー製(パナソニックとの共同事業)サウンドシステムは、特別なアンプが必要となるため、日本への導入が見送られたという。実際に音を聴いてみると、素人耳にはクセのないクリアな音質だった。ま、オーディオにしろエンジンやグレードにしろ、これからバリエーションが増える可能性は大いにあるのだろう。
こういうクルマだからオマケがあるのはうれしいし、オマケの楽しさがあるのは間違いない。それを承知のうえであえて書けば、オマケの力に頼らなくてもいい運転の楽しさを、ザ・ビートルは手に入れている。
最後に、日本に入ってくる仕様についてふれたい。エンジンとトランスミッションについては、冒頭で触れたように1.2リッターTSI+7段DSG。そしてザ・ビートルには、装備の異なる以下の3グレードが存在する。まずベーシックな「ビートル」。ダッシュボードなど、インテリアの一部をボディー同色とした「デザイン」。そして17インチのアルミホイールや赤く塗られたブレーキキャリパー、ブラックに塗られたドアミラーなどを備える「スポーツ」。
この中で、まずは「デザイン」のレザーパッケージ(303万円)モデルから導入が始まる。明るく楽しい気分にさせる「デザイン」グレードから導入するというのは、クルマのキャラクターに合っている。
98年に登場したニュービートルは、「眺める」「語る」「和む」「触る」などなど、クルマを楽しむ方法はいくつもあるということを教えてくれた。そしてザ・ビートルには、そこに「操る」「使う」などが加わった。ザ・ビートルが持つ“ファン”の総和は、確実に増している。
(文=サトータケシ/写真=フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。