80年の歴史に幕……
フォルクスワーゲンの「ビートル」はなぜ販売終了に?
2018.11.21
デイリーコラム
理由は単純明快
2018年1月からフォルクスワーゲン車の輸入元が展開している“See You! The Beetle”キャンペーン。新しいところでは10月23日にその第4弾として「マイスター」という名の特別仕様車が販売されているが、See you! とある通り、これは「フォルクスワーゲン・ザ・ビートル」の販売終了キャンペーンである。オフィシャルウェブサイトにも「皆さまに愛していただいたザ・ビートルは、2019年をもって日本での販売が終了になります」と明記されている。
独フォルクスワーゲンのウェブサイトを見ても、すでにモデルラインナップに名前がない(「カブリオレ」はあった)ので、日本だけの都合というわけではないようだ。
輸入元であるフォルクスワーゲン グループ ジャパンに販売終了となる理由を聞いてみると、広報部のI氏から「ザ・ビートルは2011年(日本では2012年)にデビューしました。ですので、モデルサイクルの終了ということになります」という、単純かつ明快な回答をいただいた。
「へー、そうなんだー」と納得してはいけない。後継となる新型が存在しないのである。
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きっかけは2015年
ビートルのメインマーケットは今も昔も北米だそうだが、ビートルが新世代になった1998年(当時は「ニュービートル」)には年間8万台以上販売されていたのが、2018年は9月の時点で1万1000台と、なかなかの落ち込みぶりを見せている。
日本における数字を見てみると、新型としてザ・ビートルが導入された2012年に7514台が販売され、輸入車のモデル別販売台数で10位につけた。その後は2013年に9045台、2014年に6722台が販売され、3年連続で10位となった。ところが、2015年に4123台に激減。その後も2016年が4199台、2017年が4426台と、大幅な反発の兆しはない。販売ランキングはそれぞれ18位、18位、19位となっている(単独車種で4000台以上は十分立派だが)。
こうした状況を招いた原因として、例のディーゼルゲート騒動の影響に加えて、ザ・ビートルのモデルライフが進んで古くなったこともあるだろう。しかし一番大きかったのは、同じリバイバルカーのライバルであるMINIに「5ドア」が追加されたことではないだろうか。MINIの5ドアが日本に導入されたのが2014年10月。翌2015年にMINIは、前年から2500台近いプラスとなる2万1640台を販売。2016年、2017年には「フォルクスワーゲン・ゴルフ」を抑えてランキング1位となっている。MINIの場合は「クロスオーバー」や「クラブマン」なども全部含めた数字なので単純に比較することに意味はないが、ザ・ビートルのたどった下降線と相関関係があるのは間違いないように思う。言うまでもないが、3ドアより5ドアの方が便利である。MINIはグローバルでも2015年に、2014年比で12%増となる33万8466台を販売(当時の年間記録)しているので、世界的にも似た潮流があったと想像する。
ビートルのボディーはいじりづらい
ザ・ビートルもMINIも同じだが、リバイバルカーは、古いものに似ていないと意味がない。アイコン的な部分が共通でなければ、ユーザーにソッポを向かれてしまう。
極論してしまうと、MINIの場合はそのアイコンがフロントマスクだ。丸いヘッドランプとフロントグリルの配置によって、少なくとも前から見た場合にはどんなボディータイプでもMINIに見せることができる。だから5ドアが不自然ではないし、ユーザーが喜んで受け入れたのは数字が示すとおりである。現行のMINIクロスオーバーなどはもはやヘッドランプが丸くもないが、MINIファミリーであることはひと目で分かる。だからMINIに似たクルマ(軽自動車とか)がつくりやすいというのは余談である。
ビートルの場合は、ボディーの造形そのものがアイコンだ。大きな前後フェンダーや丸みを帯びたルーフなどがすべてそろってこそビートルに見えるデザインとなっている。そのため、ボディーを延ばして5ドアボディーをつくるのは難しかったのではないだろうか。
とはいえ、日米だけで年間1万5000台以上が売れるのであれば、そのまま継続してもいいのでは? とも思えるが、ご存じの通りザ・ビートルは、フォルクスワーゲンのモジュラー戦略プラットフォームのMQBではなく、1世代前の「ゴルフ6」と同じコンポーネンツを採用している。そのため、アダプティブクルーズコントロールなどの先進運転支援システムが用意されないし、現行の「ゴルフ」や「ポロ」といったMQBモデルとは別の生産ラインが必要となるので、微妙な販売台数の割には高コストでもある。将来の電動化車両生産に向けた工場設備のアップデートなどとはかりにかけた結果、「ここらでご苦労さん!」ということになったと思われる。
ちなみに、2012年に次世代プラットフォームとしてMQBが発表されたときには、採用予定車種としてビートルの名も挙げられていたのだが、I氏によれば、MQB化したビートルを開発しないことについて、独フォルクスワーゲンは明確な見解を示していないそうだ。
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「Good Bye!」ではなく「See You!」
ところで、今回のキャンペーンは「Good Bye!」(さようなら)ではなく「See You!」(またね)である。別れ際のあいさつであることに変わりはないが、ニュアンスは大きく異なる。
その点について、I氏のコメントをご紹介したい。
「電気自動車専用モジュールのMEBは、バッテリーを床下に配置して後輪を駆動する形式になることから、空冷時代のビートルと同じレイアウトになります。これにより、世界中で愛されたビートル。その車形は、フォルクスワーゲンだけでなく、クルマの永遠のデザインアイコンでもありますので、お客さまの声により、『I.D.BUZZ』(2022年生産開始予定)のように復活する可能性もないとは言えないでしょうね」
実はI氏は、長年にわたって空冷ビートルを愛車としている、自動車メディア周辺では名物男として愛されている人物である。その氏のコメントだけに、いささか大げさな表現が含まれているが、ともかく将来世代での復活が否定されなかったことは喜ばしい。とはいえ、しばらくお目にかかれなくなるのは確かなので、エンジンの付いた“クルマの永遠のデザインアイコン”を手にしたい方はお早めに。
(文=藤沢 勝/写真=フォルクスワーゲン、BMW/編集=藤沢 勝)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。