スバルXVハイブリッド 開発者インタビュー
“スバルらしさ”を犠牲にしない 2013.06.03 試乗記 富士重工業スバル技術本部
HEV研究実験部 HEV研究実験第二課 課長
行木 稔(ゆうき みのる)さん
燃費はもちろん、ブランドの独自性も重視して開発したという「XVハイブリッド」。スバルはこのハイブリッドシステムを、今後どのように育てていこうとしているのか。開発者に話を聞いた。
追及したのはクルマ全体の完成度
正直な話、燃費でトップに立つのが難しいことはわかっていました。そこで、クルマ全体のクオリティーでトップに立てるハイブリッド車を開発しようと思いました。
これは、「スバルらしいハイブリッド車とはどんなモデルか?」という問いに対する回答。答えてくださったのは、スバルのハイブリッドシステムの開発初期から携わってきた行木稔さんである。「燃費をトップにするのは難しい」とおっしゃるあたり、率直な方だ。
――では、クルマ全体のクオリティーで一番というのは、具体的にはどのような仕上がりを目指したのでしょうか。
その質問にお答えするには、スバルのハイブリッドの歴史を振り返るのがよさそうですね。もちろんわれわれも、かなり以前にハイブリッドの開発を始めていました。ただし、ご存じの通りスバルは、水平対向エンジンを縦に置くという独特のレイアウトを採っています。すると専用部品が必要になって、コストが高くなってしまったのです。
――重心が低くて回転バランスに優れる水平対向エンジンを軸に、そこから左右対称の四駆システムを構築するというレイアウト、これは譲れないというわけですね。
おっしゃる通りで、スバルの特徴は“走り”にありますから、そこは譲れない。でもコスト高では売れませんから、スバルのハイブリッド車開発はハードルが高かったのです。ところが時代が少し変わり、ハイブリッド用の“つるし”の部品が割高ではなく供給されるようになりました。もちろん独自のパワートレインなので、例えばモーターはスバルが設計しています。でもバッテリーは「ホンダ・インサイト」用が使えるなど、性能とコストのバランスがとれるようになってきました。
――ハイブリッドシステムを市販するめどがついた、ということですね。そこでスバルのファンは、「なぜ『レガシィ』ではないのだろう?」という疑問を抱くと思います。
ここで、燃費では一番になれないならトータルで一番のクルマにしよう、という話になります。パフォーマンス、快適性、楽しさ、あらゆる面でハイブリッド車がそのモデルのトップグレードである、という構成にしたかったのです。ところが、レガシィには300psのDITエンジンがあり、「フォレスター」も280psのターボがしっかりとトップグレードの座を守っています。
でもターボモデルのない「XV」なら、ハイブリッドがトップグレードになれる。そこでスバル初のハイブリッド車として白羽の矢が立ちました。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
走りのよさこそ身上
――ということは、今後はスバル車のトップグレードは、ターボモデルではなくハイブリッドモデルということになるのでしょうか。
すぐにすべてのモデルのトップグレードがハイブリッドになるかどうかは、まずお客さまのXVハイブリッドへの反応を見てからということになるでしょう。ただし、グレード構成の新しい提案であるとは思っています。
――動力性能の話からさせていただくと、登り勾配でモーターがエンジンをアシストする時は、トルクに厚みが出てしかもレスポンスが鋭い、高性能ターボエンジンのような感覚を味わうことができました。
モーターをアドオンしているので、パフォーマンスは向上します。ただし、常にモーターでアシストするわけにはいきません。例えば平坦路でずっとモーターでアシストを続けると、登り坂に入った時に電力がなくなってアシストできない、という事態になってしまいます。車速や勾配、電池残量によってモーターの出力をどうするか、というチューニングには細心の注意を払いました。
――ハイブリッドの仕組みも独特ですね。
はい、他社の多くはトルクコンバーターを外して、そこにモーターを入れていますが、スバルはトルクコンバーターを残しています。なぜかというと、コロラドやロッキー、シアトルなど、登坂路が続く高地のお客さまがスバルにはたくさんいらっしゃるからです。トルコンをなくすと、トルコンが増幅していたトルクをモーターが担当しなければいけなくなる。すると電気エネルギーを多く使ってしまうので、うまくいかないんですね。
なるほど、燃費だけでなく、トータルでクルマの性能を考えたハイブリッドシステム、というものの姿が見えてきた。
――JC08モード燃費が20.0km/リッターだと公表されました。正直、新型ハイブリッド車としてはモノ足りないという意見も出るでしょう。ここで、ドライバビリティーや使い勝手を犠牲にすれば、もう少し燃費は上がったのでしょうか。
そうですね。加減速の滑らかさやリニアリティーを犠牲にすれば、もう少し上がったはずです。でもそれは、スバルのハイブリッド車ではないと思います。
拡大 |
|
|
拡大 |
ハイブリッドはこれからが本番
――動力性能だけでなく、乗り心地を含めた快適性でも、ノーマル仕様より大人っぽくなった印象を受けました。
すみません、サスペンションは専門ではないもので(苦笑)。当然、一生懸命に開発したとは聞いていますが、ここでは私が担当したパワートレイン系の快適性アップに話を絞らせてください。
――これは失礼しました。まず、パワートレインは静かだと思います。
アイドリングストップの状態だけでなく、走行中にもエンジンを切り離すので何も対策をしないと車内の音の変化が大きくなってしまうんですね。そこで、エンジンが掛かっている状態での静粛性アップに努めました。
エンジンのノイズでまず気になったのは、動弁系。ロッカーアームの力の方向にズレがあると、機械的に擦れてカチャカチャいうのです。そこで、カムシャフトのプロフィールを改めました。
この話を聞いただけでも、ノーマルモデルにモーターをポンと付けたわけではないことがわかる。
――手間がかかっているんですね。
エンジンカバーの裏には吸音材を貼りましたし、CVTのプーリーの「ヒューン」という音を減らすためにトランスミッションの上にもカバーを加えました。インバーターの「キーン」という音も気になったので、冷却システムの空気ダクトの内部にも吸音材を貼っています。ダクトを通じて音が車内に侵入していたもので。あとはブロワーのファンの音も気になったので、助手席のグローブボックスの下にカバーを付けています。
細かいところにいたるまで、念入りに造り込んだ行木さんのお話を聞いていると、「ハイブリッド仕様をトップグレードにする」という意気込みがひしひしと伝わってくる。
――スバルは昨年、アメリカの自動車会社別の販売台数で初めてトップ10に入りました。こうした、独自の路線が認められたということでしょうか。
そうだといいのですが(笑)。今後、カリフォルニアのZEV法に対応するためには、ピュアEVやプラグインハイブリッドの開発が必須となります。将来を考えると、今回のハイブリッド車のラインナップを横方向に増やすことと、ピュアEVとプラグインハイブリッドの開発を進めることを同時にやっていく必要があります。
――行木さんの部署は大忙しですね。
はい、大変です(笑)。
(インタビューとまとめ=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。






























