アウディR8クーペ 5.2FSIクワトロ(4WD/7AT)
素性のいいリアルスポーツ 2013.06.11 試乗記 マイナーチェンジでデュアルクラッチ式セミATを得た「アウディR8」。その進化の度合いを、5.2リッターV10モデルで試した。進化のキモはトランスミッション
資本的な関係はあれども、異なるメーカーが共通のソリューションを用いて開発したという意味で、「アウディR8」と「ランボルギーニ・ガヤルド」は「トヨタ86」と「スバルBRZ」みたいなものかもしれない。
R8とガヤルドは、共通のアルミのスペースフレームを用い、共通のV10エンジン(R8にはV8もある)を積み、4輪を駆動する(ガヤルドには2WDもある)。ドイツ製の精緻なメカニズムを色っぽいイタリアのブランドで包み込むという、いいとこ取りのエキゾティックカーが2003年に登場したガヤルドなわけだが、せっかくいいコンポーネンツができたのにランボルギーニだけに使わせるのはもったいないということで、親会社のアウディも3年後の2006年にR8を発売した。
つい先日まで、トランスミッションも共通のシングルクラッチ式ロボタイズドMTを載せていたのだが、このたびR8は、モデルチェンジでデュアルクラッチ式の「Sトロニック」に変更した。今回の改良では、外観の小変更を含め細かい変更はいくつかあるが、一番の肝はこのデュアルクラッチトランスミッションの採用だろう。
目指したのは総合芸術
R8クーペは2シーターのミドシップでないと成し得ない非日常的なプロポーションをしているが、前方視界は下手なセダンよりも良好。排気量が5.2リッター、シリンダーが10もありながら、ドライサンプ方式を採用したためかエンジンのかさが低く、低い位置に座るにもかかわらず後方視界も十分に確保されている。
ステアリングホイールやシートの調整幅も十分で、これならだれでも好みのドライビングポジションを得られるはずだ。乗降性も悪くない。そして、インテリアはアウディクオリティー。R8がとんでもないパフォーマンスを発揮しながらも“デイリースポーツカー”などと、いい意味でもそうでない意味でも評されるのはこの辺りが理由だろう。
近頃のハイパフォーマンスカーのエンジンは、V8+過給器というのが多数を占める。アウディも「S6」や「S8」に4リッターV8ターボを積むが、R8は自然吸気エンジンを積む。最高出力525ps/8000rpm、最大トルク54.0kgm/6500rpmというスペックは大したものに違いないが、マルチシリンダーの過給器付きのエンジンなら60kgm超えの最大トルクも珍しくないので、強くアクセルを踏んでも驚くほどではない。4WDだから最初の蹴りだしは強烈だが。
けれど、ストレスフリーに8000rpmまで回るV10には、V8+過給器とはまた違った官能性がある。もっと刺激的なクルマなら多々あるが、スポーティーという尺度で見れば、R8は一級品だ。アウディはエンジンだけを突出させず、高剛性軽量ボディーと4WDを組み合わせた総合芸術を目指したのだろう。
いつでもどこでも楽しめる
従来のRトロニックは、ロボタイズドMTとしては出来がよくて、パドル操作に対する反応も速く、大きなトルクの変動の連続にもまったく不安を感じなかった。しかし加速の途切れは明確に存在したので、元気よく走るときではなく、街中を流す際の挙動がスムーズとは言いがたかった。その点、デュアルクラッチのSトロニックはほぼ完全無欠のATで、百利あって一害なしだ。
変速のスピードはノーマルとスポーツから選べる。ノーマルは早めにアップシフトし、変速ショックも穏やか。スポーツはその逆なのだが、街中を走らせる時にもスポーツにしておいたほうが、挙動が小気味よくて印象がよかった。
4輪ダブルウィッシュボーンのサスペンションの仕立てはこのクルマを万能たらしめていて、とにかく乗り心地がよろしい。磁気に反応するオイルが封入されたダンパーのおかげで硬さをノーマルとスポーツから選べるが、こちらもスポーツのほうがシャキッとした乗り心地で、設定はスポーツだけでもよいのでは?
まとめると、R8はとにかく素性のよさを感じさせるリアルスポーツカーだ。ワインディングロードでは、4輪でパワーを有効に路面に伝え、車体を1mmずらしたいと思ったらできそうなほど正確無比なステアリングと、フロント15%、リア85%の前後トルク配分(必要に応じて最大でフロントに30%まで配分される)によってほぼ後輪駆動のような挙動を楽しみ、街中では乗り心地のよさを味わいつつ、時々無意味なダウンシフトをかまして注目を浴びるというのが、正しい乗り方ではないだろうか。
(文=塩見 智/写真=河野敦樹)
テスト車のデータ
アウディR8クーペ 5.2FSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4440×1930×1250mm
ホイールベース:2650mm
車重:1710kg
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:525ps(386kW)/8000rpm
最大トルク:54.0kgm(530Nm)/6500rpm
タイヤ:(前)235/35ZR19 91Y/(後)295/30ZR19 100Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター(JC08モード)
価格:2119万円/テスト車=2281万円
オプション装備:カラードステッチング(49万円)/カーボンデコラティブパネル(34万円)/カーボンシグマサイドブレード(32万円)/カーボンエンジンカバー(47万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1139km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:330.2km
使用燃料:59.0リッター
参考燃費:5.6km/リッター(満タン法)

塩見 智
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