BMW 320i xDriveツーリング モダン(4WD/8AT)
さらりとした4WD 2013.08.22 試乗記 4輪がガチッと路面をとらえる骨太なフィールこそが4WDドライビングの妙味? それとも、今どきの4WDは後輪駆動車のように軽いフットワークを持つべき? ハンドリングに一家言持つBMWは、こう考えている。多いに越したことはないが
昨年発売されたF30型「3シリーズ」はこの1年半ほどの間に続々とラインナップを拡大しているが、あらためて数えてみたら全部で56車種もあった。「クーペ」やひと回り大きなボディーの「グランツーリスモ」は勘定にいれず、BMWジャパンが日本仕様として現在ラインナップしている3シリーズのセダンとツーリングだけでも、パワートレインや駆動方式、トリムの違いで今やこれほどの数に上る。なんともびっくり、「マークII」三兄弟華やかなりし頃のトヨタも顔負けのバリエーション展開である。かつてはMTモデルひとつ輸入するのにも苦労し、その理由というか言い訳(?)を並べていたBMWジャパンゆえ、なおさらその変身ぶりにただ驚くばかり。これだけモデル数が増えると、在庫管理やディーラーサポートその他は大丈夫なのかと、かえって心配になってしまうほどだ。
もちろんユーザーにとっては、MT仕様やディーゼルターボ、ハイブリッド、それに4WDモデルなど、選べるバリエーションが多いのは基本的に大歓迎である。例えば、降雪地に住むためにできれば4WDが望ましいが、大きなSUVまでは必要ないと考えているユーザーにとっては、この4月に追加発売された3シリーズの「xDriveツーリング」、すなわちステーションワゴンの4WD版などは打ってつけのモデルと言えるのではないか。
という僕自身もセダン系4WDには憧れを抱いていた。BMWの四駆といえば、思い出すのは1980年代半ばから90年代初めにかけてのE30型3シリーズに存在した「325iX」だ。名高いスモールシックスを搭載し、プラネタリー式のセンターデフを装備したBMW初の市販フルタイム乗用車であり、雪国の若者の憧れの車だった。今思い出しても、サイズといいパワーといい、バランスに優れた素晴らしい4WDセダンだったが、ただでさえ手が届かない「325i」よりさらに高価だったのは言うまでもない。「アウディ・クワトロ」もそうだったが、本物の4WD車は昔から高いのである。
その後、雪山で「トヨタ・セリカ」があり得ない走破性を見せる映画のおかげか、WRC(世界ラリー選手権)が知られるようになったせいかは知らないが、4WDスポーツセダンの人気が高まった時代もあったが、今では三菱もスバルもWRCから撤退して久しく、ヨンク方面についてはごく一部の人のマニアックな話題に縮小してしまったようだ。高性能SUVのドライバーの多くは駆動方式などに興味はなさそうだし、メーカーのスタッフさえ「いやあどんな4WDですかって聞かれても。ヨンクはヨンクです」なんてことも珍しくない昨今だ。でも今回はかつてWRCを追いかけたラリー好きとして、webCG担当の懐の深さをいいことに余談から始めたい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
便利な電子制御の時代
以前から思っていたのだが、問題はトランスファーとしてのセンターデフとセンターデフの差動制限機構、すなわちLSDを混同しているところにあるのではないか。もともと4WDはパートタイムとかセレクティブなどと呼ばれる2WD/4WD切り替え式が祖先である。必要な場合だけレバーを操作したり、フリーホイールハブをロックして4WDに切り替え、オンロードでは2WDに戻すという方式だ。若い方は知らないと思うので念のために書くと、フリーホイールハブとは(通常前輪の)ホイール中心に装備されたロック機構のようなもので、悪路に入る前に車を止めて手で切り替える必要があった。こうして4WDにするが、舗装路に戻った後に再度切り替えることを忘れるとコーナリングに問題が発生する。前後アクスル間の回転差を吸収できず、ググギギッと曲がらなくなってしまうのだ。
その回転差を吸収調整するのがセンターディファレンシャル。2WD車の左右輪間に備わるデフと基本的に同じものだ。これで曲がる時にギクシャクしないで済むが、ただし回転差を吸収してしまうので、例えば前輪が完全に浮いて空転するような極端な状況では後輪にも駆動力が伝わらなくなる。そこで差動を抑えるためにセンターデフのLSDとしてのビスカスカップリングを追加したり、機械式のロック機構を装備したりするというわけだ。「メルセデス・ベンツGクラス」には今もこの機械式デフロックが3基備わっている。切り替えなしに常時4WDゆえ、パーマネント、あるいはフルタイム4WDということになる。
ゲレンデバーゲン(Gクラス)に乗る人なら別だが、普通のドライバーに多くを期待するわけにはいかない、ということでフールプルーフ性を追求したシステムがオンデマンド式などと呼ばれる4WDで、最近はほとんどこれが主流である。電子制御の油圧多板クラッチパック(カップリング)を使って、駆動輪が滑って回転差が生じた場合だけ他のホイールにも駆動力を伝える方式で、常に4輪が路面を噛(か)んでいるわけではないので本格的なフルタイムというにはちょっと疑問もあるが、一応その仲間に入っている。この場合はセンターデフとLSDの両方を兼ねている。何よりシステムがコンパクトで駆動ロスも小さく、当然コストも安いというメリットが大きく、今では高性能スポーツ4WDの先駆者となったアウディでさえ、横置きエンジンモデルの多板クラッチ式までクワトロと称している。
匂いがしない4WD
余談が長くなったが、BMWの「xDrive」も多板クラッチをセンターデフおよびLSDとして使用するシステムだが、クラッチプレート間の圧着は油圧ではなく、モーターで行う点が特徴でレスポンスに優れるメリットを持つという。イニシャル状態での駆動力の配分は40:60と後ろ寄り、ちなみにギアで振り分ける真正フルタイム4WDは、50:50でなければ例えば「メルセデス・ベンツE63 AMG 4マチック」の33:67という具合の数字になるのが普通だ。
184psと27.5kgmを生み出す2リッター直噴ターボ+8ATのパワートレインなど基本部分は他の「320i」と変わらず、寸法も後輪駆動(RWD)のツーリングと同一、ギアボックスにはフロントアクスルを駆動する折り返しのプロップシャフトが追加されているはずだが、それによる足元スペースの浸食も見受けられない。違いは車重がノーマルのツーリングより90kg増しの1690kgであることぐらいだ(セダン320iに比べると150kg増し)。
そのせいか、うねりのある路面を飛ばすとダンピング不足かなと感じられる場面もあったが、日常的に使うワゴンとしてはこのぐらいが適切ではないかと思う。ノーマルのBMWは本来こんな感じだ。決してガチガチではなく、ロールの変化、ブレーキングに伴う荷重変化を正確に伝え、たとえタイヤのグリップ限界を超えても十分にフォローできるのが美点。やや大きめの姿勢変化を上手に利用して、コーナーに進入する際の姿勢をコントロールすることができる。ほんのわずかリアよりの重量配分となっているせいか(車検証では前830kg/後ろ860kg)、下りのコーナーにブレーキングしながら進入する際などは、意外に早めに後輪が流れ出すこともあったが、いったん分かってしまえば、積極的にそれを利用してイン側に向けることも難しくはない。
4WD化に伴うハンドリングの違いも感じられなかった。その分、剛結されている感覚は希薄で、雪道でどのような挙動を示すか興味があるが、少なくともオンロードではRWDと同じ軽快さとスタビリティーを備えている。
洒落(しゃれ)たワインバーなどでがっかりするのが「すっきりとして飲みやすいですよ」というお薦めのセリフだ。プロなら人を見て言えよ、と内心思うが、決まり通りに頑張っている若者に文句を言ってもしょうがないので「いやクセがあるのが好きなんですよ」とか言ってその場を濁すオヤジである。ただ口当たりがいいのは悪いことではない。その奥にあるコクまで伝えられるならもっといい。バーテンダーも自動車メーカーも。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
BMW 320i xDriveツーリング モダン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4625×1800×1460mm
ホイールベース:2810mm
車重:1690kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:184ps(135kW)/5000rpm
最大トルク:27.5kgm(270Nm)/1250-4500rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91Y/(後)225/45R18 91Y(ピレリ・チントゥラートP7 ランフラット)
燃費:14.5km/リッター(JC08モード)
価格:521万円/テスト車=663万3000円
オプション装備:イノベーション・パッケージ(36万円)/トップ・ビュー+サイド・ビュー・カメラ(10万円)/パーキング・アシスト(4万9000円)/電動パノラマ・ガラス・サンルーフ(21万5000円)/フロント・センター・アームレスト(2万2000円)/TVチューナー(10万8000円)/8段スポーツ・オートマチック・トランスミッション(2万2000円)/バリアブル・スポーツ・ステアリング(6万5000円)/タービン・スタイリング415 アロイ・ホイール(9万2000円)/リア・サイド・ウィンドウ・ローラー・ブラインド(3万6000円)/ストレージ・パッケージ(3万円)/アダプティブ・ヘッドライト(8万2000円)/パーク・ディスタンス・コントロール(4万3000円)/ダコタ・レザー・シート+シート・ヒーティング(運転席&助手席)(19万9000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1040km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:291.6km
使用燃料:32.3リッター
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)、9.5km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
NEW
スバル・トレイルシーカーET-HS プロトタイプ(4WD)【試乗記】
2026.3.5試乗記スバルから本格的な電気自動車の第2弾となる「トレイルシーカー」が登場。前後のモーターから繰り出すシステム最高出力はドーンと380PS。ただし、それをひけらかすような設定にはしていないのがスバルらしいところだ。スノードライブの印象をお届けする。 -
NEW
ホンダ・インサイト
2026.3.5画像・写真4代目はまさかの電気自動車(BEV)! ハイブリッドからBEVへ、4ドアセダンからSUVへと変身して、「ホンダ・インサイト」が復活を遂げた。ドアトリム/ダッシュボードヒーターにアロマディフューザーと、新たな快適装備を満載したその姿を、写真で紹介する。 -
NEW
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。 -
NEW
ついにハードウエアの更新も実現 進化した「スバルアップグレードサービス」の特徴を探る
2026.3.5デイリーコラムスバルが車両の機能や性能の向上を目的とした「スバルアップグレードサービス」の第3弾を開始する。初めてハードウエアの更新も組み込まれた最新サービスの特徴や内容を、スバル車に乗る玉川ニコがオーナー目線で解説する。 -
NEW
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く
2026.3.5マッキナ あらモーダ!2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。 -
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.3.4試乗記メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。






























