ポルシェ911 GT3(RR/7AT)
本質は変わらない 2013.08.10 試乗記 直噴のフラットシックス、PDK、そして後輪操舵(そうだ)機構の採用と、大きく飛躍した新型「911 GT3」。レーシングカーの血が宿る“GT3イズム”は、どう再定義されたのだろうか。PDKのみ、しかも後輪ステアまで
「911 GT3」を、走りをピュアに追求したポルシェの代名詞として信奉してきたハードコアなファンは、きっと動揺しているんじゃないだろうか。何しろ最新の991シリーズについに設定された新型911 GT3は、とうとう空冷由来のエンジンとお別れし、ギアボックスはPDKだけの設定となり、電子制御式のリアホイールステアなんてものまで付いているのだ。他人事ではない。かつて初代996型のGT3を所有していた筆者としても、「そんなのGT3じゃ……」なんて、思わないわけではなかった。実際にステアリングを握る前までは。
「カレラ4」用をベースとするワイドトレッドのボディーは、これまでの流儀にのっとって大きな開口部を備え、前後に大型の空力パーツが装着されている。997後期型のGT3と比べると最大ダウンフォース量は実に20%も増加しているという。
リアに積まれるエンジンは、カレラシリーズが使う直噴ユニットをベースとする。しかしながら鍛造ピストン、チタンコンロッド、ロッカーアーム式バルブ駆動の採用など徹底的に手が入れられて、最高回転数9000rpmという超高回転型にしつけ直された。最高出力は475ps、最大トルクは44.9kgm(440Nm)を発生する。
PDKも、軽量化やローギアード化を行い、専用の変速プログラムが与えられている。操作系も、パドルスイッチはストロークが詰められ、またセレクターレバーは手前に引いてシフトアップ、押し込んでダウンというレーシングパターンに。これは非常に大きな、そしてうれしい変更である。
アルミ素材の採用などで軽量化されたシャシーには、新たに電子制御式デフを使ったPTV Plus(ポルシェ・トルク・ベクトリング・プラス)、そしてリアホイールステアが搭載された。後者は、低速域ではフロントと逆位相に、高速域では同位相にそれぞれ最大1.5度、後輪を操舵することで、低速での軽快な挙動と、高速域での安定性をいずれも向上させるのが狙いだ。
快感のトップエンド
今回主に試乗したのは、ロールケージや6点式シートベルトなどがセットされたクラブスポーツパッケージ装着車だった。実は歴代GT3は、オーナーの実に80%がサーキット走行を楽しんでいるという。それは思わずそうしたくなるクルマだというだけでなく、こうしたオプションをメーカー自身が用意しているからこそのことだろう。
バケットシートに体を滑り込ませてエンジンを始動すると、室内にはガラガラとした無愛想な音と振動が今のクルマとしては異例なほどダイレクトに侵入してくる。エンジン回転が微妙に上下する不安定なアイドリングは初代GT3から不変。と思ったら、何とコレはあえてそうしているのだという。今どき、そんなの均(なら)すことなどたやすいが、高回転型エンジンを積むクルマらしく演出しているというのだ。ギミックとののしるなかれ。元オーナーとしては、これが何ともうれしかったのだから。
このエンジン、高回転型とはいっても低速域からトルクは出ているし、車重は1430kgと軽く、またPDKも加速重視のローギアードな設定とされていることもあって、日常域でも十分に動きの軽さと力強さを実感できる。とはいえ、本領を発揮するのはもちろんアクセルを奥まで踏み込んだ時だ。4000rpm辺りから音とレスポンスがさらに研ぎ澄まされ、7000rpmオーバーまで一気にパワーをさく裂させるだけでも頭が真っ白になりそうだが、新型GT3はその先でさらにサウンドが甲高く変化し、まるで3段目のロケットに火が入ったように9000rpmまで伸び切るのだ。これはもう快感以外の何物でもない。
PDKの反応も鋭くダイレクト。多少のショックも厭(いと)わず素早く変速していく。2段連続のダウンシフトを試みた時などの、とてもマニュアルギアボックスでは不可能な電光石火の変速ぶりを目の当たりにすると、PDKのみの設定となったことにも納得するしかないか……という気にさせられるのは確かだ。
後輪ステアに違和感なし
しかし、だからといって左足が退屈してしまう……なんてことはない。なぜなら左足には、フットレストの上で絶え間ないGに対して踏ん張り続ける役割があるからだ。
20インチへと拡大された、見るからにドライグリップ重視の、つまり最小限の溝しか掘られていないパターンを持つタイヤの路面への粘着力は凄(すさ)まじく、コーナリングの限界は公道では垣間見ることもできないほど高い。饒舌(じょうぜつ)な手応えを示すステアリングは、切り込むと微小な舵角(だかく)から、まさに意のままのレスポンスで応えてくれる。
気掛かりだったリアホイールステアは、逆位相に切る50km/h以下の低速域では、自分を中心にクルリと向きが変わる感覚に、その効果が感じられる気もするが、いずれにせよ違和感は皆無。ただただよく曲がり、安定感も凄まじいということに尽きる。
もっとも、一般道での試乗では高速域でのメリットをハッキリと体感するのは難しかった。もちろん実際には、恩恵を受けているに違いないのだが、またの機会があれば高速コーナー主体のサーキットでも試してみたい。
PASMをスポーツモードにすると、挙動がさらにシャキッとしてステアリングの正確性が一層際立つ。タイヤ溝が浅いせいか、途中降られた雨の中では若干つま先立った感じもあったが、その時はPASMをノーマルにすれば十分なグリップ感を得ることができた。すべてが極めて実戦的なのだ。
エンジンが変わりPDKになり後輪操舵が付いても、本質は変わっていない。そう断言していいだろう。ガチガチなボディーに締め上げられた足まわりがつくり出す乗り心地、荒ぶるサウンドとレスポンスを堪能していたら、気持ちの高ぶりを抑えきれず、そのままどこかのサーキットに向かって、思い切りそのポテンシャルを引き出してみたいという衝動に駆られてしまった。まさにこれぞ、GT3がGT3であることの変わらぬ証しではないだろうか。
(文=島下泰久/写真=ポルシェ)
テスト車のデータ
ポルシェ911 GT3
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1852×1269mm
ホイールベース:2457mm
車重:1430kg(DIN)
駆動方式:RR
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:475ps(350kW)/8250rpm
最大トルク:44.9kgm(440Nm)/6250rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR20 103Y(ミシュラン・パイロットスポーツカップ2)
燃費:12.8リッター/100km(約7.8km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:1859万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※価格は日本での車両本体価格。それ以外の数値は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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