第204回:充電できるEVに垣間見た低炭素社会のカーライフ
プラグインハイブリッドと自動車の未来論
2013.10.01
エディターから一言
電気自動車オーナーの熊倉重春氏が、「三菱アウトランダーPHEV」と「ホンダ・アコード プラグインハイブリッド」を2台合わせて1週間にわたり試乗。プラグインハイブリッド車のプチオーナー体験を通して思ったこととは?
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距離を気にせずどこまでも
とっくにハイブリッド車(HV)が常識になった今、さらに外部から電力を補充できるプラグインハイブリッド車(PHV)なら驚異の超低燃費など予想通りとはいえ、重量1.7~1.8トン級のアッパーミドルセダンやSUVが実用走行20km/リッター以上を連発してくれると、けっこう感動的だったりする。いや、感慨にふけると言った方が正確かも。
20年以上も昔、ソーラーカーを取材した時、開発エンジニアは「『クラウン』級でも20km/リッター以上で走る時代が来る」と言っていた。その時は夢みたいな気がしたが、本当になってしまったのだから。
もう何回もテストしたのに、乗るたびにニヤニヤ笑いが浮かんでしまうのがPHV。「三菱アウトランダーPHEV」で走りだした途端、わざわざ名称の中に“E”を入れた訳がよくわかる。HVでありPHVであるのを超えて、もはやレンジエクステンダーEV(発電機付き電気自動車)としか言いようがない。ウィ~ンと軽くモーター音を響かせるだけで、実に軽々と都心の流れをリードして、時代を置き去りにする快感は格別だ。
いろいろな走行モードを使い分けながら、愉快痛快にまかせて寄り道しまくり。いつも愛用の「三菱i-MiEV」では、バッテリーの残量が気になって、思うように行動範囲を広げられないが、こちらは電気を使い切ってもガソリンで延々と走れるPHV(じゃなかった、PHEV)だから、一気に郊外まで足を延ばして名物の新そばなど味わいに行ったり。
でも、人間やはり欲がある。ここで電気をつぎ足せばガソリンを燃やさずに行けるとばかり立ち寄った急速充電スポットで30分ほど時間をつぶしていたら、そのぶん無駄に電気自動車(EV)を待たせてしまって、ちょっとばかり罪悪感も。「まだガソリンで走れるくせに、EVのエネルギー源を占領するなよ」とか、向こうの顔に書いてあるように見えた。ごめんね。
限りなくEVに近い使い方も
PHVのEV的要素をフルに生かすには、自宅で充電して近距離を走りまわるのが正道。これだと、最寄りの駅まで来客を送迎したり、地元のショッピングモールに出掛けたりして帰るたびにコンセントに差してつぎ足せば、ずっとエンジンを働かせず、本当のEV状態が続く。だから「アコード プラグインハイブリッド」に急速充電機能がなくても気にならない。
そのうえでチャージモードに切り替えるとエンジンが回ってせっせと充電するから燃費はガタッと悪化するけれど、そのぶん目的地で静かにEV走行できる。しっとり落ち着いた住宅街で行きつけのコーヒー店に乗りつけるのに、無音のアコードだったらカッコイイじゃないですか。そんなアコード プラグインハイブリッドを窓の向こうに眺めながら、原稿の締め切りなどシカトして、ゆったり味わうコーヒーはうますぎる。
そんな“いい人”を演ずるだけでなく、早くも秋色深まる木漏れ日を浴びつつ、川沿いのカーブの連続をモーター駆動で駆け抜けると、これまでより二回りも大型化したのに、気持ちのままにカチッと応えるハンドリングも印象に刺さる。
こうして普通に走るかぎり、アウトランダーもアコードも、エンジンを駆動に参加させるチャンス、ほとんどゼロ。
これが実に効くんですな、低燃費に。元はガソリンでも、それでエンジンが発電機を回し、その電気でモーターを回して走る方が、エンジンから変速機を介して車輪を駆動するより格段に効率が高い。アウトランダーは60km/h以上、アコードなら70km/h以上になると直結クラッチでエンジンも走らせる仕事に加わるけれど、同時に発電もするから、最もコンスタントに行ける状態(高速巡航など)で発電させながら流すと、普通のガソリン車やディーゼル車では想像もできない数値をたたき出してくれる。
それに味をしめてしまうと、仕事も忘れて走りまわりたくなって、ふと気付くともう小江戸・川越。余談ながら、関越道の高坂サービスエリアにある焼き芋ソフトは、甘い香りが絶品です。
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大事なのはCO2削減という「結果」
いつもPHVやPHEVで感ずるのは、アクセル操作とエンジンの不思議な関係。走らせるためでなくバッテリーの都合によって働くから、ス~ッと無音状態で行くかと思う一方、歩く程度の低速でも意外にブ~ンと回るうなりが聞こえたりする。普通のクルマになじんだドライバーにとって、最も違和感を覚えるシーンだろう。
でも、モーターによる滑らかきわまる走行感覚が身にしみ込んでしまうと、もう心は元に戻らない。ほかの仕事でエンジン車にも乗っているが、ボタンを押してブンとかかった瞬間、「わあ、古くせえ!」とか思ってしまうのは本当だ。さんずの川を渡るとは、このことか。
大ヒットの「トヨタ・アクア」や「プリウス」でEV走行の味を知ってしまった人は非常に多いから、おそらく感覚も戻らなくなって、たぶん時代は確実に、しかも急速に変わる。だから「カローラ」もHV化されたのだろう。
いや、そんな話をすること自体、もう古いかも。HV、PHV、EVなどクルマの区別より大切なのは、どこまで非自然エネルギーの消費を減らせるか、つまりCO2の排出を抑えられるかという「結果」。話題の次世代車も、良い結果を得るための手段でしかない。今すぐEVとまでは言わなくても、PHV(PHEV)を使うということは、夢の実現に向けての、確実な一歩に違いない。
アウトランダーPHEVやアコード プラグインハイブリッドを乗りまわすだけで、思わずそこまで空想の翼が羽ばたいてしまうところにも、きっと何か、あると思うよ。
(文=熊倉重春/写真=荒川正幸、熊倉重春)

熊倉 重春
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