メルセデス・ベンツS63 AMG 4MATICロング(4WD/7AT)
すべてにおいて上質 2013.10.07 試乗記 新型「メルセデス・ベンツSクラス」に高性能モデルの「S63 AMG」が登場。最高出力585ps、0-100km/h加速4秒という高性能サルーンの走りに触れた。Sクラスの中のSクラス
日本市場のラグジュアリーセダン・カテゴリーにおいて、「メルセデス・ベンツSクラス」の存在感はまず数的にみても圧倒的なものがある。先代もモデルチェンジ直後の年間販売台数は8000台を突破し、平時には「レクサスLS」に拮抗(きっこう)することも珍しくはなかったという。大胆なグレード構成と価格を実現した新型は、完全にLSを戦略の対象に据えたとみていいだろう。
その上で、Sクラスの日本市場におけるプレゼンスを物語るのがAMGモデルの年間販売台数だ。その数、ピーク時にはざっと500台以上。単価2000万円超級のカテゴリーでくくれば、日本で一番売れている銘柄であることは間違いない。それはライバルが侵せない、メルセデスの聖域とも言い換えてもいい。
SクラスAMGに対する日本のユーザーの絶対的な信任。そこに世俗的な理由も多く含まれるのはお察しの通りだ。が、その中にあるのは「パフォーマンス」と「ラグジュアリー」の絶妙な融合でもある。その絶妙なバランスを例えるなら、Sクラスの中のSクラスとしてもいいのかもしれない。W222型をベースとする新たなSクラスAMGが目指したのはまさにそこ――。この10月にAMGの社長に就任するトビアス・メアスは、AMGのコンストラクターとしての成熟度の高さをわれわれに強調するかのように、このモデルの趣旨を説明してくれた。
新たなSクラスAMGのモデルラインナップは現状、V8エンジンを搭載した「S63」を軸に構成される。12気筒の継続について、メアスは明言を避けたが、これはうわさされるSクラス・スーパーロングの登場と相前後して判明することになるだろう。
より豪華に、より速く
メカニズム面における最大のトピックは4MATICの採用。トランスミッションケースに内包される縦置きレイアウト用の四駆システムはマグナ・シュタイヤーとの共同開発となるもので、駆動配分は33:67の固定式。複雑な制御システムを持たないぶん、軽量コンパクトにしつらえられており、四駆化による重量増は70kgに収まる。ちなみにS63の日本仕様におけるラインナップはこのトランスファーを搭載した「S63 AMG 4MATICロング」、そして「S63 AMGロング」の2グレードとなり、標準ボディーは導入されないことになる。
M157型5.5リッターV8直噴ツインターボは先代モデルにも搭載されていたそれのリファイン版となるが、最高出力は先代比41ps増の585ps、最大トルクは10.2kgm増の91.8kgmとなる。組み合わせられるトランスミッションは、トルクコンバーター式ATの「7Gトロニック」から湿式多板クラッチを制御する7段の「MCT」へと置き換えられた。
動力性能の一端を示す0-100km/h加速はFRモデルで4.4秒、4MATICモデルで4秒フラットとクラスベストを塗り替える劇的なもの。これには基準車同様のアルミハイブリッドボディー構造に加えて、スチールベースのコンポジットブレーキディスクや鍛造ホイール、12Vリチウムイオンバッテリーの採用、スペアタイヤスペースのカーボン化など、先代比で100kgに達する軽量化も奏功しているはずだ。その効能はもちろん燃費の側にも表れており、FR車では欧州複合モードで10.1リッター/100km(約9.9km/リッター)と優れた数値を示している。
先進装備に関しては基準車に備わるもののすべてがS63 AMGには対応している。日本仕様においてはFRモデルがステレオカメラを用いて直近の路面状況をスキャンし、サスペンションの減衰力を最適化する「マジックボディコントロール」を標準で装備。4MATICモデルにはAMGのために専用チューニングを加えた、「AMGライドコントロールスポーツサス」が用意される。2種類のレーダーとステレオカメラの情報を統合解析し、セーフティードライブをアシストする「インテリジェント・ドライブ」もS63 AMGに関しては標準装備だ。
ブランドへの信頼を裏切らない
S63 AMG 4MATICロングを中心とした試乗で、やはり真っ先に驚かされたのは洗練された乗り心地や高い静粛性だ。同じパワートレインおよびドライブトレインを持つ「E63 AMG 4MATIC」は走りだしからスポーティーさを強く打ち出したセットアップが加えられている印象だった。しかしこちらは真逆で、そのみなぎるパワーをひたすら静かに柔らかくドライバーに伝えようというしつらえがなされていることは、すぐに理解できた。
そしてライドフィールに至っては、これが標準車のSクラスでも全然構わないというほどになめし尽くされている。この印象はバネ下重量の軽減効果に加え、ランフラットでなく通常のラジアルタイヤを採用していることも関係しているだろう。新たに搭載された7段MCTも、ごくまれに硬い作動感を伝えることもあるが、全般的にはトルコンの7Gトロニックと大差ない滑らかさを備えている。
常用域で走っている際にやや気になったのはステアリングフィールの濁りだ。微小な入力は柔らかく伝え、切り込むほどにシャープさをじわじわと高めていくというメルセデスらしいセットアップに文句はないが、その摺動(しゅうどう)感にはほんのわずかながら、渋さや段付き感がつきまとう。
また、インテリジェント・ドライブには車線を捕捉し積極的に修正を加えるレーンキープ・アシストが採用されており、この作動感自体は現在のソリューションにおいてパーフェクトの回答を示しているが、そこに加えられたトルクデバイスが人間の微妙な触感とのずれを生じているようにも感じられる。もっとも、それは生産精度等で解消できそうなほどの違和感でもあり、時間が解決してくれる問題なのかもしれない。
走行モードを「スポーツ」に切り替えてのパフォーマンスは、完全に車格を忘れさせるアグレッシブなものだった。間髪入れずに応答する7段MCTをパドルで積極的にコントロールしながらのワインディングロード走行は、100kgに及ぶ軽量化も相まってか、巨大なマスのハンディをみじんも思わせない。ロールを抑えながらもコンタクト感を豊かに伝えるサスは路面への追従性も見事で、大きな入力を一撃でいなし、ボディーをフラットに保ち続ける。
期待を上回りながら過激にすぎないアジリティーを、Sクラスらしい据わりの良さとしっかり両立している辺りからは、まさにAMGの一貫したチューニングの志向性が伺える。時代性を意識しながらも必要以上に存在をひけらかすことのない内外装のしつらえ、普段遣いに不快感を抱かせない乗り味の調律……と、何かに偏ることなく、全方位で絶対的に上質であることが彼らの第一義。少なくとも日本においては、それがブランドへの信頼の源なのだと思う。
(文=渡辺敏史/写真=メルセデス・ベンツ日本)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツS63 AMG 4MATICロング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5287×1915×1499mm
ホイールベース:3165mm
車重:1995kg
駆動方式:4WD
エンジン:5.5リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:585ps(430kW)/5500rpm
最大トルク:91.8kgm(900Nm)/2250-3750rpm
タイヤ:(前)255/40ZR20/(後)285/35ZR20
燃費:10.3リッター/100km(約9.7km/リッター、欧州複合モード)
価格:2340万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
※車両価格を除いて、数値はすべて欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】 2026.6.3 「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
NEW
ホンダ・インサイト(FWD)【試乗記】
2026.6.5試乗記「ホンダ・インサイト」が電気自動車(BEV)として復活! ……というよりは中国工場製BEVにその名が与えられて日本にやってきた。さまざまな事情により、国内で販売されるのはわずか3000台のみ。日本人は“限定”に弱いとされるが、果たしてこの場合はどうか。 -
NEW
KTM 990 RC R(6MT)
2026.6.5JAIA輸入二輪車試乗会2026今年も開催された「JAIA輸入二輪車試乗会」より、魅惑のバイクを一挙紹介! 先陣を切るのは、この4月に発売されたばかりの「KTM 990 RC R」だ。オーストリアの雄が放つ最新鋭のスーパースポーツは、意外や“速さ”以外にも見どころの多い一台だった。 -
NEW
空冷の「スポーツスター」が復活!? ハーレーダビッドソンの定番商品はどんなバイクとなるのか
2026.6.5デイリーコラムハーレーダビッドソンが、一度は廃止した空冷の「スポーツスター」の復活を発表! 伝統の一台はなぜ絶版の憂き目にあい、そしてよみがえることとなったのか? ファンに愛される定番車種を刷新する難しさと、新型に課せられた使命、そして課題を考察した。 -
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。


































