ポルシェ・パナメーラ4S(4WD/7AT)
ドライバーズサルーンの白眉 2013.11.04 試乗記 マイナーチェンジを機に、大幅なダウンサイジングが実施された「パナメーラ4S」に試乗。ポルシェが放つ4ドア4シーターモデル、その走りはどう変わった?効率的に、より速く
ポルシェには、偉大過ぎるスポーツカーの「911」シリーズと、もはや「911にかなわないのはヒストリーだけ」になりつつある「ボクスター」「ケイマン」という特別なプロダクトが存在するだけに、どうしても「パナメーラ」と「カイエン」は彼らの世過ぎのため……といった印象を拭えない。今ではすっきりと巨大なフォルクスワーゲングループの一員なんだから、そういうのは大規模なフォルクスワーゲン/アウディに任せ、“wrong end”と“right place”にエンジンを置くスポーツカーたちとモータースポーツに専念していただきたい。
個人的にはそう思うが、それはそれとして新しい「パナメーラ4S」に乗った。
ところで、パワーと燃費の両方が向上したとしても、V8がV6になることには抵抗がある、と考える人がどれくらいいるだろうか――というのが、ここのところプレミアムブランドが頭を悩ませる問題だったが、なんだか大丈夫そうなので、おおかたのブランドが切り替えを済ませた。ポルシェも、慎重にV8(GTS)を残しつつ、パナメーラSおよび4SのエンジンをV8からV6ツインターボに切り替えた。
もちろん、切り替えに際しての事実上の条件である“効率向上”は抜かりなし。最高出力は20ps増しの420ps/6000rpm、最大トルクは2.9kgm増しの52.0kgm/1750-5000rpmと、きちんと性能アップしている。しかも、どちらもより低い回転数および回転域でピークに達することからもわかるように、“速さ”を取り出しやすいはずだ。
“気持ちのよさ”にも妥協なし
カタログ上の燃費も大幅に(2割近く)向上した。これはエンジンの効率が上がったことに加え、911にも備わるコースティング(アクセルオフでニュートラルになって、空走することで燃費を稼ぐ)を標準装備し、軽自動車のように停止前にエンジンが止まるタイプのアイドリングストップを備え、さらに、ポルシェが「バーチャル・ギア」と呼ぶ、スピードが低下してもすぐにシフトダウンせず、高いギアのまま半クラッチ状態で乗り切ることで変速機会を減らし、燃費を稼ぐような機能(体感できなかったが)まで付与するなど、総合的な努力のたまもの。今回の試乗では実測6.6km/リッターだったが、それはそれだ。
僕としては、V6→直4+過給器の移行にはほとんど抵抗がない。少しでもパワーと燃費が向上している、つまり効率がより高いほうがありがたい。でもV8→V6となると、効率が上がったとしてもその是非は難しい。V8以上のマルチシリンダーにはそれぞれに素晴らしい回転フィールがあるし、「ヴィーエイト」という言葉自体には非常に情緒的だが「イコール最高!」的な記号性があるので、おいそれとは譲れない。
ただし、ポルシェの場合、マルチシリンダーが主要な魅力のブランドではないので、V8にこだわる必要はないと思う。だからV6でもいい。モーターがついていてもいい。実際、どんどんそうなってきているから世間もそうなのだろう。それに、乗ったらモデルチェンジ前より明らかに素晴らしかったので100%支持したい。踏めば必要なだけパワーを得られるし、90度V6だが、バランサーシャフトが効果的なのか回転フィールも悪くない。ツインターボのラグは気にならないどころかわからない。
さらに、スポーツボタンを押すと、エンジンが発するサウンドと振動の心地よい部分だけを室内に伝えるため、それを聴いてたらドライバーは確実にアガる(緊張するほうじゃないほう)ので、V6でもV8でも関係なくなる。ポルシェは動力性能に関係のない、そういった演出にどちらかというと無頓着だったはずだが、今やそうも言っていられないということなのだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
まるでライトウェイトスポーツ!?
素晴らしいと感じさせたのは、エンジンだけではない。モデルチェンジ前のモデルに比べると、まるでライトウェイトスポーツかと思わせるほど、身のこなしが軽やかになっていた。ところが、不思議なことに車重はモデルチェンジ前と比べてほぼ変わらぬ1870kgだという。2気筒減ったことによって、重量が減り、重心も後方へ移ったが、その程度ではない違いを感じた。こんなに巨体なのに、どんなに小さな操作にも正確に応えてくれるし、ボディーの剛性感はまるで911のよう。総合的なブラッシュアップによって、より研ぎ澄まされた挙動を得たということか。とにかく、スポーティーな挙動というものが骨の髄まで染み込んだ人たちだけが携わったのだろうと想像させる。
冒頭にあんなことを書いたものの、背景など考えず、プロダクトのみを見ると、パナメーラ4Sは総合的によくできたクルマだと思う。運動性能だけのクルマではない。サイズを納得したうえであれば、使い勝手も良好。絶対的なサルーンの王様は「メルセデス・ベンツSクラス」なのかもしれないが、法人用途ではなく個人所有のドライバーズサルーンとして使うなら、リアも完全なセパレートの2座で、絶対的な広さよりも4人それぞれのパーソナルな空間であることを強調したパナメーラのインテリアもありだ。そりゃ不純な過ごし方をするには不便かもしれないが、なにより見てカッコいいインテリアだ。
最後になってしまったが、エクステリアはそれほど変わっていないようでいて、リアはナンバープレートの位置を含め全面的に変わり、フロントもエアインテークが大型化するなど、結構変わった。が、前よりカッコよくなったとも悪くなったとも思わない。中身の変わりように比べれば、無視してよい程度の変化じゃないだろうか。
(文=塩見 智/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ポルシェ・パナメーラ4S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5015×1931×1418mm
ホイールベース:2920mm
車重:1870kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:420ps(309kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:53.0kgm(520Nm)/1750-5000rpm
タイヤ:(前)255/40ZR20 101Y/(後)295/35ZR20 105Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:8.9リッター/100km(約11.2km/リッター、欧州複合モード)
価格:1480万円/テスト車=1638万8000円
オプション装備:インテリアカラー<ツートンカラーレザーインテリア ブラック/クリーム>(73万3000円)/スポーツクロノパッケージ(21万7000円)/20インチ911ターボIIホイール(54万7000円)/カラークレストホイールセンターキャップ(2万9000円)/フロアマット(3万2000円)/アルカンターラスポーツデザインステアリング(3万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2292km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:311.9km
使用燃料:47.4リッター
参考燃費:6.6km/リッター(満タン法)
![]() |
