ダイハツ・タントカスタムRS“SA”(FF/CVT)/タントX“SA”(FF/CVT)
フツーに、いいクルマ 2013.10.29 試乗記 「普通車よりも広い軽乗用車」の先駆けである「ダイハツ・タント」が、3代目にフルモデルチェンジ。ノーマルの自然吸気モデルとカスタムのターボモデルの試乗を通して、その出来栄えをチェックした。先代は真っすぐ走らなかった
幸いなことにというべきか、先代「ダイハツ・タント」は比較的最近、運転した。例えば今年(2013年)の2月。その時点で発表前の某新型車を運転しにいくために――もっというとそれと比較するためのクルマとして――静岡県の浜松の方まで運転していった。先代タント、簡単にいうと、真っすぐ走るのが苦手なクルマだった。80km/hを超えたあたりからはビミョーに蛇行みたいな感じになった。ウネウネくねくねと。で、「いくらなんでもこれは……」。
今度のに関して、そういう心配はどうやらなさそうである。だいぶ、ちゃんと走る。フツーに運転できる。で聞いてみたところ、お客さまからの不満の声に応えた結果だという。「“高速道路でフラつく”というのがあったんです」。今度のタントは3代目。自転車積み込み上等系軽乗用車のイッパツ目だった最初のタントはビックリするくらいちゃんと走るクルマだったから、その意味ではV字回復といえなくもない。少なくとも、折り返して上向きになっているのは間違いない。
「スズキ・スペーシア」のようにちゃんと走る軽、というかガチ競合車がいまはあるのだから、これぐらいにはなっていないと……のレベルは、少なくとも超えている。そこそこかもっといいセンいっている、といってもいいかもしれない。これよりもっとナニかを言うためには高速道路もちゃんと走ってみないといけないので、言いません。
リアにアンチロールバーを標準装備
走りの関係でいうと、新型タントはほぼ全車種にフロントのアンチロールバーがついている。「タント」と「タントカスタム」があるうちの、タントのいちばん安いやつ=「L」……の“SA”じゃないほうだけは、フロントにアンチロールバーがついていない。「それでも、先代と比べたらはるかに……」ちゃんと真っすぐ走るといわれた。フロントにおけるロール対策としては、アンチロールバーのほかにリバウンドスプリング。ダンパー内部に組み込まれる、伸び方向の動きに抵抗するバネ。これに関しては新型タント、全車種でアリだそうな。
それと、リアのアンチロールバーも全車標準。リアのスタビ? ノゾいてみたら、左右のトレーリングアームをつなぐ上下ひっくり返したU字断面のビーム部材(これ自体がアンチロールバーだともいえる)のなかにさらに棒というかパイプが一本。そのぶん主バネのレートを低く抑えることができ、それによって乗り心地が向上したという。ナルホド。
アンチロールバーもリバウンドスプリングも、ついてりゃエラいというものではない。ないけれど、ロールを制御するための手だては主バネ以外にもいくつかあったほうがいい……というか走りをちゃんとさせるために有効とはいえる。もちろん使いようにもよるし、つけることによるデメリットもあるわけだけれど、タントみたいな体形や重量バランスのクルマならついていたほうがいい。少なくともアンチロールバーは。
ある種の日本車がアンチロールバーをナシにしたがるのは、ひとつにはもちろんコストカットのため。それと、重量。つけると5kgとか重たくなる(軽自動車の場合)そうで、モード燃費対策優先のアタマからすると、できたらナシにしたい。重量ランキングのいっこ軽いほうで計測できて、それによってカタログに出す数字をよくできたりするので。ちなみにタントの場合、フロントのスタビがない仕様だけカタログ燃費の数字がいいということにはなっていなかった。
ムリな軽量化はしていない
スズキ・スペーシアとの比較でいうと、タントは重たい。エンジンフードやフロントフェンダーやテールゲートを樹脂素材にしたりして頑張ってはいるけれど、それでもザッと80kgぐらい。スズキほどラジカルな軽量設計はしなかったのか、またはできなかったのか。できなかったほうの要因としてひとつあるのは片側Bピラーレスの車体設計。
“ピラーレス”ではなくピラーがドアに入っているから「受動安全性能に関しては普通に両側にBピラーがあるクルマとまったく同じ」だとダイハツは言っていたけれど、いずれにせよ、これだとどうしてもクルマが重たくなる。剛性低下や剛性の左右非対称をカバーするためにやらなきゃいけないことが増えるので。このテの設計、ヘタをすると右カーブと左カーブで曲がりかた違うことになってしまうぐらい、車体設計や走行実験の担当者にとってはキツい。
あと、細かくない話としては助手席。車体側=Bピラーにスルーアンカーをつけるわけにいかないので、シートベルトは背もたれから出ている。イザというときの衝撃荷重をガッチリ受け止めないといけないこともあって、フツーの助手席比で15kgほど重たくなっているという。
それと新型タント、ダッシュボードもストレスメンバー、つまり剛性アップ要素として積極的に使っている。裏側に入れるリブの厚みを増したりしているそうで、でもそれも厚みを増やしすぎると樹脂のヒケがでて見た目が残念なことになってしまうのでいろいろタイヘンだったという。
ラジカルな軽量設計のひとつのキモは鉄板ウスウス攻撃で、その方面を攻めまくっていないせいかタント、路面からのザラザラやビリビリの対策はけっこう念入りな感じがする。モード燃費対策の極端に高いタイヤ内圧設定をやっていないことも、おそらく効いている。空気がパンパンに入った状態のタイヤを前提にすると、バネやダンパーの設定もそれなりのものにしないといけなくなる。簡単にいうと、カタくしないとバネ系全体のハーモニーがとれなくなってしまう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
エンジンもブレーキも至って“フツー”
ターボかターボなしか。最近の軽自動車のターボエンジンは常用域のドライバビリティーの向上に寄与するタイプであることがむしろフツーで、それに関してはタントも例外ではない。ないけれど、運転してみたところ自然吸気(NA)エンジンの頑張りというかフツーさがむしろ強く印象に残った。街なかをおとなしく運転しているなかで、ちょっと速度を上げたいと思ってアクセルペダルを踏み込んだら排気音が“パオーン!!”。エンジン回転が“ビヨ~ン”とだらしなく上昇。そういうことにならないようにはしてあった。少なくとも、簡単にはならないように。
あと、試乗後に「そういえば………」となったのはブレーキ関係。ずーっとG一定で最後にスッと踏力を抜く、のブレーキが、新型タントはやりやすかったような。でもってそれは、アイドリング停止関係のシステムとたぶん関係あり。ダイハツ流だと、アイドリングをストップする前に次の発進のためのギア比いや減速比にCVTを動かしておく必要がない。よって、クルマ側が勝手に減速Gを強めることがない。のではないかなと。
ライバルと伍して戦える
アシの設定に関しては、ターボのありとなしとで極端には違わない。新型タントの場合、ターボ希望の場合はカスタム一択となる。フツーのタントとカスタムのタントの内外見た目の違いと比べたら、アシの違いは誤差の範囲ぐらいのものでしかない。ただし、パワステの制御はターボのほうがより自然。自然というか、まずターボありの仕様に合わせて設定を決めて、同じものをそのままターボなしにも使って「問題なし」だった感じ。そうかなと思ってきいてみたら、どうやらアタリ。
ターボありの場合、フロントの軸重がたしか30kgほど重たくなる。それプラス、タイヤの幅が太い。なので、EPS(電動パワステ)関係の条件が同じである場合、簡単にいうと、より常時、あるいはより多めに、アシストが入るようになる。新型タントの場合、例えば据えきりやそれに近い状況でぐるぐるハンドルを回すと、ターボなしは「ちょっと重たいかな?」ぐらい。だからどうというほどのことはないけれど。なお新型タント、先代比でホイールベースが短くなっているらしい。技術者いわく、それは「ステアリング関係のジオメトリーの最適化を優先したから」だという。
助手席側の前後両方のドアをオープンするとBピラーがなくなってしまう設計を別にすると、新型タント、いまの軽乗用車として中庸、無難なセンではありそう。スペーシアよりもしっかり走るクルマではないかもしれないけれど、スペーシアの次くらいにいいクルマであっても不思議ではない。ビックリはしない。
もっというと、スペーシアに勝っているところもある。Bピラーがなくなること以外に。そしてそれは、商品力上けっこう大事なところでもある。スペーシアよりもタントのほうがいいという人が大勢いても不思議ではない。「いや、それを買うのはやめといたほうが……」なクルマが今の日本の小型車のなかにはいっぱいあるけれど、新型タントはそこに含まれておりません。俺の評価では。
(文=森 慶太/写真=荒川正幸)
拡大 |
テスト車のデータ
ダイハツ・タントカスタムRS“SA”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1750mm
ホイールベース:2455mm
車重:960kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6400rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/3200rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:26.0km/リッター(JC08モード)
価格:163万円/テスト車=172万6600円
オプション装備:スマートフォン連携メモリーナビゲーションシステム(8万4000円)/ドライビングサポートパック(1万2600円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:547km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
ダイハツ・タントX“SA”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1750mm
ホイールベース:2455mm
車重:930kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6800rpm
最大トルク:6.1kgm(60Nm)/5200rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:28.0km/リッター(JC08モード)
価格:135万円/テスト車=140万9850円
オプション装備:純正ナビ装着用アップグレードパック(1万7850円)/パワースライドドア<右側>(4万2000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:558km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

森 慶太
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
NEW
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.3.4試乗記メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。 -
NEW
始まりはジウジアーロデザイン、終着点は広島ベンツ? 二転三転した日本版「ルーチェ」の道のり
2026.3.4デイリーコラムフェラーリ初の電気自動車が「ルーチェ」と名乗ることが発表された。それはそれで楽しみな新型車だが、日本のファンにとってルーチェといえばマツダに決まっている。デザインが二転三転した孤高のフラッグシップモデルのストーリーをお届けする。 -
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す
2026.3.3エディターから一言電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。 -
F1で絶体絶命!? アストンマーティン・ホンダになにが起きているのか?
2026.3.3デイリーコラム2026年のF1開催を前に、早くも苦戦が伝えられるアストンマーティン・ホンダ。プレシーズンテストでの大不振はなぜ起きたのか? ここから復活する可能性はあるのか? 栄光と挫折を繰り返してきたホンダが、ふたたびF1で輝くために必要なものを探った。 -
電動式と機械式のパーキングブレーキ、それぞれメリットは?
2026.3.3あの多田哲哉のクルマQ&A一般化された感のある電動パーキングブレーキだが、一方で、従来型の機械式パーキングブレーキを好む声もある。では、電動式にはどんなメリットがあって普及したのか? 車両開発者の多田哲哉さんに話を聞いた。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.3.3試乗記「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。





























