フィアット・パンダ4×4 ROCK 1.3 16V マルチジェット(4WD/5MT)
遠くまで行く人へ 2013.12.02 試乗記 4WDシステムとディーゼルエンジンを備えた、道を選ばぬ「フィアット・パンダ」に試乗。シリーズの究極形「パンダ4×4 マルチジェット」はどんな走りを見せるのか。「パンダ」の究極の姿
イタリアはもとより欧州におけるミニマムトランスポーテーションとして、「フィアット・パンダ」はその愛らしい形やサイズをもって重宝されている。ならば丁重に扱われ、かわいがられているかといえばその逆で、多くの例ではガンガン酷使され、かつ長期間にわたって使役に供されている。だから並のクルマよりもボディーやサスペンションは、はるかに頑丈に造られている。
その便利さをさらに追求し、経済性をも備えた4WDディーゼルエンジン仕様は、実用車パンダの究極の姿ともいえる。その「パンダ4WDディーゼル」(ドイツ仕様)が、CARBOXの手によって並行輸入・販売されることになった。価格は259万円である。
簡単にスペックをおさらいしておくと、ホイールベースはFFモデルと同じ2300mmだが、全長は若干長い3686mmとなる。エンジンの排気量は名称こそ「1.3」となっているが、正確には1248ccで、ターボ過給によって出力とトルクは75ps/4000rpmと19.4kgm(190Nm)/1500rpmとされる。「シトロエン・ネモ」(「フィアット・フィオリーノ」のバッジエンジニアリング車)などに載るユニットと基本は同じなのだろうが、また少し進化しているようだ。4WDのシステムはセンターデフにビスカスカップリング(VCU)を用い、電気式デフロックのスイッチも備わる。
そしてギアボックスは5段MTで、ハンドル位置は左のみである。わが国では右ハンドルのAT仕様の方が売りやすいといわれているが、現地オリジナル仕様の良さは頑としてある。ペダルやレバー類の配置、フロア形状、そしてステアリング位置などがもたらす自然な操作性や、より広い足元の余裕はいうまでもない。全世界の多くのクルマが基本的にはアメリカや中国の市場を向いているがゆえに、この点に関しては英国車や日本車といえども例外ではないと思う。日本で左ハンドル車に乗るということは、料金所や駐車場などインフラに対して不便なことも多いが、慣れで解決できる部分も多く、筆者はあえてこの仕様を好む。
静かでしかもスポーティー
4WDは、都市生活者には恩恵が薄いと考える人もいるだろう。しかし、冬季はもとよりその他の季節でも、4WDは地方で暮らしている人以外にも数々の利点をもたらすものである。
傾斜地や低ミュー路での発進だけでなく、タイヤの前後輪間の摩耗差が少なく4輪が平均して減ることや、走行安定性だけでなく乗り心地に関しても優位性があることは、最近よく認識されるようになってきた。また、駆動力が4輪に分散されるため、スロットルのオン/オフ時に生じる前後Gがやさしく、老人や子供、あるいは病人を乗せる機会の多い家庭では好まれる傾向にある。
このように、4WDにはさまざまな効用があるため、わが国の軽自動車でも着実に浸透しているように感じる。
ディーゼルエンジンに関しては、一昔前ならば燃料経済性しか注目されなかったが、現代のディーゼルエンジンはパワーや静粛性もガソリンエンジンより優位に立つ。それだけでなく、高圧縮比によるレスポンスの良さや軽快な回り方によるスポーツ性も目を見張るものがある。
あまり予備知識もないので、とにかく走りだしてみよう。最初の印象をひとことで言い表すならば、パンダ4WDディーゼルはなかなか速いクルマである。アイドリングからちょっと上のボトムエンドの回転域では、ディーゼルエンジンに限らずパワーを期待できないものである。しかし、このエンジンは最大トルクを1500rpmで発生させることから、そのほんの少し前からターボ過給が利いてきて、グングン加速を速める。
そしていったん速度に乗ってしまえば、あとはもう大排気量車の加速感にも匹敵し、とても1.3リッターとは思えないレスポンスを備えている。4WDゆえに急加速を試みてもホイールスピンなどのマナーの低さはみじんも見せず、「シューン、シューン、シューン」と、一気にレブリミットの4500rpmを目指す。
また、その手前の4000rpmで最高出力に達するから、勢い余ってオーバーレブさせるような心配もない。もとよりディーゼルエンジンは噴射量で回転限界を決めているから、踏みっぱなしにしてもそれ以上に上がることはない。シフトダウンの時に過回転させないように気をつければいいだけだ。
このクラスのガソリンエンジンのリミットがおおむね6000rpmで、ディーゼルは4000rpm。各ギアの感覚的な到達車速が同じとするならば、この回転差分だけディーゼルは静かに回っていることになる。さらに、ディーゼルは回転上昇がガソリンの3分の2とあって、より素早く感じる。加速の楽しみというのは瞬間的なものだが、一定速度で流すような走り方の時には、ディーゼルのより静かで快適な良さが光る。振動など、昔のディーゼルエンジンの記憶がウソかと思うほどの進化だ。
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足の長いコンパクトカー
ディーゼルエンジンは経済性も優れている。燃費は、フツウに流れている国道などではまず20km/リッターを切ることはない。むやみに加速を楽しんでしまっても、2桁を割るようなこともない。車載のドライブコンピューターで簡単な区間燃費をとると、場合によっては30km/リッターに達することもあった。
今回の試乗に先立って、同じ車両で横浜から豊橋まで走る機会があった。楽しんで走った岐阜の山間部の区間も含め、約800kmの総平均燃費はちょうど20.0km/リッターを記録した。もし、これと同じようなルートを個人所有の「パンダ100HP」で走ったら、17km/リッターあたりというのが予想できる値だ。ハイオクガスはリッター当たり170円で軽油は120円ぐらいであるから、金額にすると約3分の2という計算も成り立つ。燃料タンク容量は35リッターと小さいけれども、500kmぐらいの距離なら安心して無給油で走れる。
ところで、旧型パンダオーナーとしてショックだったのは、燃費よりも乗り心地の快適さだった。ホイールベースが同じクルマとは思えないほど姿勢はフラットで、路面からの突き上げも少ない。緩衝材としてのバネ系の反発を感じず、ホイールがストロークして凹凸を吸収してしまう感覚だ。
タイヤはこのクルマの性格上、オールシーズン的な「コンチネンタル・コンチクロスコンタクト ウインター」が標準装着されていたが、細かいサイピングは雪や氷にも効きそうだし、路面の当たりも十分にソフトだ。グリップに頼るハードなコーナリングには向かないまでも、適当なところで流れるコントロール性は素直だ。広げられたトレッドによる、ロール感の良さと、ロールすることによる前後左右輪間の回転差がVCUの結合度合いを助け、しっかり路面を捉えながらタイヤが接地してくれる安心感は高い。
内装デザインのセンスの良さはさすがイタリア車といえ、見ているだけでも楽しい。シートも、形状、サイズともに上々。数時間座り続けても疲れない。その上、高めに座る着座位置は外の眺めも良好。最近はおもしろい新型車がなかなか登場しないなと思っていたが、個人的にこのパンダ4WDディーゼルは、目下、欲しいクルマの筆頭といえる。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)
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テスト車のデータ
フィアット・パンダ4×4 ROCK 1.3 16V マルチジェット
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3686×1672×1605mm
ホイールベース:2300mm
車重:1190kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:75ps(55kW)/4000rpm
最大トルク:19.4kgm(190Nm)/1500rpm
タイヤ:(前)175/65R15 84T/(後)175/65R15 84T(コンチネンタル・コンチクロスコンタクト ウインター)
燃費:4.7リッター/100km(約21.3km/リッター)(EU基準・複合サイクル)
価格:259万円/テスト車=265万4000円
オプション装備:Blue & Me Bluetoothハンズフリーキット(3万6000円)/分割式リアシート(60:40 3人乗車3点式シートベルト付き)(2万8000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2395km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(7)/高速道路(1)/山岳路(2)
テスト距離:164.6km
使用燃料:--リッター
参考燃費:19.7km/リッター(車載燃費計計測値)

笹目 二朗
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