第13回:コージが勝手に分析!
日本COTY、ゴルフ初栄冠の本当の意味
2013.11.29
小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ
賞は本来サプライズであるべきだ
大変なまいきですけど個人的にはやっと……というか、ついにフツーに……という感覚でありましょうか? 先週末に決まった日本COTY、つまり日本カー・オブ・ザ・イヤー2013-2014の話で、今年は、な、なんと、イベント始まって以来の初の輸入車「フォルクスワーゲン・ゴルフ」! 誰もが知ってる輸入車ベストセラーで、文字通り“ガイシャの顔”。結果的には非常に良かったと思う。
というのも、この国では残念なことに、なかなか政治でもこの手のイベントでも保守的というか、たいてい世間に与える衝撃は小さい。
だが、あくまでも個人的な考えではあるが、賞というのは基本サプライズであり、世間の考えの一歩先を表すべきと考えている。なによりもインパクトが大切だ。もちろん一番売れているものや、大衆に出回っている良いモノを評価すべきという声もあるだろうが、それらはある程度売れているので数字に出ているし、大半の評価は既に終わっている部分がある。
もちろんそれはそれで、あらためて「よくできました」と評価する意味はあるし、例えば2013年のベストドラマはおそらく『あまちゃん』であり『半沢直樹』なんであろう。それは、『あまちゃん』と『半沢直樹』が賞に輝くことを多くの人が切望していることが容易に想像できるからで、そもそもドラマ自体にそういう力があった。
が、もはや既に10年以上COTYに関わっている身として言わせていただくと、毎年残念な思いがあって、それは昔のレコード大賞的な力が既にないことで、一般大衆からの反応はほぼなく、一部では「担当エンジニアの賞」であり「広報の賞」とも言われている。
実際、現場で賞を勝ち取ったエンジニアやメーカー関係者の喜びようを見ると、身につまされるものがあり、一緒に受賞を喜びたくもなる。それは想像でしかないが、物を作り出す苦しみであり、それを評価される喜びがおそらく掛け替えのないものであるからだ。
僕らですら多少は苦労して書いた原稿を「面白い」とか「すごいこと書いてたね」と言われるとうれしくあり、たとえ辛口な意見でも、無視されるよりよっぽどうれしい。しかも、僕らみたいにメーカーエンジニアと直接しゃべり、その“顔”や“歴史”や“趣味”まで知っている立場からすると、判定は難しくなる。
というかCOTYは僕らにとっては、広い意味での仕事の仲間が一生懸命苦しみ、喜び育ててきた子供を評価するような趣もあって、結構ツライ。だって、誰だって自分の子供はかわいいし、「かわいいねぇ!」「リッパだねぇ」って言われたいでしょう? 心の内ではみんなに10点満点。ホントです。だから賞の時期はそれなりにつらい。と言っても胃炎になるようなことは全然ないですけど(笑)。
でも、だからこそ心優しい日本人たちは厳しい大胆判定をしないのではあるまいか。それは、地元で身近で親しみやすく有名な候補者をつい応援してしまう心理と同じで、日本は大胆な選挙結果やサプライズな賞が生まれにくい土壌なんだと思う。事実、今回ゴルフに最高10点を付けた人の中で、ライバル「ホンダ・フィット」に対し10点差を付けた(=点を入れなかった)のは不肖オザワともう一方のみ。9点差で島下君ともう1人。後は結構1点多し。ここには日本人の体質がわりとよく出てる気がする。もっとも、まるで違う考えの人が多くいるだけかもしれないけど(笑)。
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もはや日本メーカーは盤石ではない
よって個人的にオザワは、そういう日本人的な配慮は考えないことにしている。それより賞はやっぱり、部外者が「へぇ~、そうなんだ」「そういう時代なんだ」と考える物を選ぼうと思っている。それが賞を、価値を真っすぐ高める道であり、そう考えた時、ここ数年どうしても輸入車は外せない部分があった。
そもそも日本は、販売台数の統計が取られはじめて以来、輸入車の販売シェアが1割を超えたことがない。確か90年前後のバブル期に10%を超えそうな時期があって、最近でも2012年度に前年度10%増で3年連続の増加。軽を除いた登録車販売台数で7.6%のシェアとなった。
でね、ここからが本題なんだけど、今までの日本車の強さは文字通り、日本自動車産業の強さそのものでもあったわけですよ。戦後の復興で、日本にはトヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱、スズキ、ダイハツ、スバル、いすゞとデカい乗用車部門だけで一時9社もあって、これはドイツやアメリカでもあり得ないものすごい力であり財産だった。
それらが地元で良質なクルマを安価な現地価格で提供するわけだから、シェア9割以上も当然。10年ほど前はいくら輸入車がちょっと良いクルマを出しても、日本COTYと呼ぶべきではないと思っていたワケですこの私でも。
でも最近はちと事情が変わってきている。海外での現地生産が進み、あのトヨタでも国内生産は全体の3割ほどだし、ホンダなんて4割以上が北米だ。
その上、ご存じ韓国や中国が世界市場に進出してきている。確か欧州では、トヨタ+レクサスがヒュンダイ+キアに抜かれたし、新興国では韓国メーカーが日本メーカーを上回っているところがごまんとある。
となると日本の閉鎖性は隠しようがない。もちろんTPPで軽規格を即時撤廃すべきかはなかなか難しいけど、少なくともヒュンダイ&キアの乗用車が日本に入って来てないのは、国民感情的に難しい部分があってもちょっとヘン。というか、逆にわれわれ日本人が韓国メーカーの力を直接体感できないという点でマイナス面があると思う。
とにかく冷静にみて、昔ほど日本車であり日本ブランドは盤石ではないし、圧倒的ではない。いろんな楽しみ方が増えるという点でも、根本的に輸入車シェアは10%ぐらいあってもいいと思うわけです。それでもなんせ9割国産(!)なんだから。
で、その筆頭がやはりフォルクスワーゲン・ブランドであり、個人的には3年前の第31回COTYが「ポロ」になってもいいと思っていたほど。実際、当時のポロは品質感に加えて燃費性能まで考えると、一部国産エコカーを超えていたからね。つい最近追加された「ポロ ブルーGT」にしてもすごい総合力だし。
だから個人的には、今回のゴルフ受賞はいまさらの部分すらある。ちなみに新作「ゴルフVII」は、そのポロをも上回る品質感と使い勝手と定番ブランド性があって、しかも一部激安仕様が250万円以下でものすごいお買い得感。だって、今や国民車となった「トヨタ・プリウス」とほぼ同価格で、高速燃費なんかはほぼ匹敵していて、品質感は確実に上回るんだからして。ホント、誰もが国産ブランドの代わりに買ってもおかしくない時代が来たと思う。
とにかく賞は一般大衆をビックリさせてナンボですよ。そういう意味では「ボルボV40」がとってもおかしくなかった? と思えるほど。確かに「日本車がイチバン!」はうれしいし、そうあってほしい気持ちはある。でも、見方によってはそうじゃないし、世界の自動車界は現実に拮抗(きっこう)している。
ライバルを認めてこそ正しい市場であり、ニッポン人ですよ。クルマを買おうというみなさん、一度輸入車に乗ってから国産車にも乗ってくださいな。そういう行為が、逆に日本メーカーの正しい危機感をあおり、発奮させるんだから。
フォルクスワーゲン・ゴルフ、大変いいクルマだと不肖オザワは確信しておりますよ。
(文と写真=小沢コージ)
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小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』