フォルクスワーゲン・ザ・ビートル ターボ(FF/6AT)
何事も楽しむべし! 2013.12.08 試乗記 フォルクスワーゲンの「ザ・ビートル」に、先代「ゴルフGTI」の心臓部を積んだ「ザ・ビートル ターボ」が登場。動力性能は文句なし。天下のフォルクスワーゲンが本気で作ったファンカーに似合うオーナー像とは?中身は先代「ゴルフGTI」?
瞠目(どうもく)すべき高速ツアラーである。アウトバーンの追い越し車線をぶっ飛ばすことができる「フォルクスワーゲン・ザ・ビートル」のカタチをした200km/hカーなのだ。真価は高速道路にあがってからである。低速での乗り心地は硬めで、100km/h以上になると、水を得た魚的に快適になる。タイヤは235/45R18の「コンチスポーツコンタクト3」。けっこうな偏平率である。町中だと、ビシバシはこないけれど、ある種の覚悟はしておいた方がいい。ま、人間すぐに慣れるものではありますが。
「ザ・ビートル ターボ」は、先代「ゴルフGTI」の魔界転生版である。臨兵闘者皆陣列在前!
それゆえに、というべきか、先代ゴルフGTIとは性格を異にするところもある。
最高出力211ps/5300-6200rpm、最大トルク28.6kgm/1700-5200rpmを生み出す2リッター直4ツインカムターボは先代ゴルフGTIと基本的に同じだ。ところが、である。このエンジン、筆者の記憶のなかのゴルフGTIとはまるで別物なのだ。
始動した瞬間からそれは明瞭である。ヴォンッ! と一発ほえるものの、ごく控えめで、数値的には1700rpmから5200rpmに至る広範囲で最大トルクを発生するフラットトルク型なのだけれど、フィーリングはぜんぜんフラットではない。アクセル開度が半分以下だと、ターボチャージャーは眠っているがごとく。一方で、ガバチョと踏み込んだときの仕事ぶりは目覚ましい。ダッシュボードに設けられたターボ圧計がビューンと跳ね上がり、グオオオオッという快音を静かに発しながら、遠くの景色を見る見る近くにたぐり寄せる。その加速感は天井のなきがごとし。13.4km/リッター(JC08モード)という低燃費と高出力を、このような設定によって両立させているのだろう。
メカニズム面で大きく異なる点もある。先代ゴルフGTIが前方排気であるのに対して、ザ・ビートル ターボは後方排気なのだ。エンジンが逆向きに置かれている! 触媒の位置を排気管に近づけ、始動早々に暖めて排ガスをクリーンにする方策がとられている。これがドライビングフィールにいかなる影響を及ぼしているのか、については筆者は詳(つまび)らかではない。
クルマのデキは折り紙つきだが……
フツウのザ・ビートルとの違いはハンドリングにも表れている。フツウのザ・ビートルが明瞭にアンダーステアであるのに対して、ザ・ビートル ターボは小型FF車らしいキビキビ感にあふれている。それというのも、先代ゴルフGTI同様、電子制御式ディファレンシャルロック“XDS”を装備していることが一助になっているに違いない。“XDS”は、高速コーナリング時に駆動輪内側のグリップ不足を検知すると、自動的に内輪にブレーキをかけて空転を抑制し、トラクションを回復させ、アンダーステアを軽減するシステムである。これがどこまで作動しているのか、は実のところ定かではないけれど、これだけはいえる。ワインディングロードが楽しい。ファン・トゥ・ドライブなクルマなのだ。
とはいえ、このようなファンカー、フォルクスワーゲンのゆるキャラ君的遊びグルマに対して、筆者のような五十男(いそお)はどのように考えるべきなのだろう? 好きな人はお乗りなさい、とはもちろんいえる。機械部分は「ゴルフVI」のGTIだから、折り紙付きの太鼓判付き、フォルクスワーゲンの保証書が付いているようなものだ(実際付いてます)。
私、参考にすべきはザ・ビートルのCMキャラクターでもある所ジョージさんではないかと思う。機能は形態に従う必要なんて、まったくない、という考え方。機能は形態に従わないからオモシロい、と何ごともオモシロがれる胆力のある方にこそ、こういうクルマはふさわしいのではないでしょうか。
だからこそクルマ選びは面白い
「やりたいこと、やろう!」。先日私は、某誌の取材で、所さんの世田谷ベースを訪問した。BSフジで放映中の「世田谷ベース」をナマで拝見した感じでした。世田谷ベースには所さんがカスタマイズしたザ・ビートルの黒いクーペとベージュのカブリオレが、それぞれ1台ずつ置いてあって、今は2台ともシャコタンになっている。所さんは1台めのクーペをまず2インチぐらい下げた。でも2インチだと下げた感がない。そこで、さらに1インチ下げた。そうすると、元の足まわりだと底づきしてしまう。そこで、足まわりを全部つくることにした。なじみのクルマ屋さんに依頼して。いざ試乗してみると、乗り心地が悪くて腰が痛くなった。そこで、やっぱり2インチ上げることにした。乗ってみたら、それでもダメ。じゃあ、ともう1インチ上げた。これじゃ元通りじゃないか!
2台めに手がけたカブリオレの方は、パルコでの展覧会に間に合わせるためもあって、バネだけ切って落とした。そしたら、その方が1台めより乗り心地がよかった! つまり所さんはまったくムダなことをやっていたわけで、でもそれを「無駄なことをやっていた」とうれしそうにオモシロがれる、そういう人生に対する余裕がある人なのだった。ザ・ビートルのようなクルマには、所さんのような人生態度が必要なのではあるまいか。
あるいは、ドイツといえば、ノイシュヴァンシュタイン城のような、ある種の狂気である。バイエルン王ルードヴィヒ2世が中世騎士道への憧れから19世紀につくらせた、いわばニセモノのお城。その意味では、ディズニーランドのシンデレラ城と同じようなもののような気もする。20世紀のビートルの21世紀の復活版は、後世、自動車文化史的に極めて興味深い解釈がなされるであろうことは疑いない。
ザ・ビートル ターボ。価格は348万円である。新型ゴルフGTIは220psで369万円。あと21万円プラスで、今年、輸入車として初めて日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得したクルマの高性能モデルが手に入る。「ゴルフVII」はMQBを採用した新しいベンチマークカーである。クルマ的には明らかに、先代ベースのザ・ビートルより上であろう。そう考えると、ザ・ビートル ターボを買うのはアホである。だからこそクルマ選びはオモシロい。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ザ・ビートル ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4270×1815×1495mm
ホイールベース:2535mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:211ps(155kW)/5300-6200rpm
最大トルク:28.6kgm(280Nm)/1700-5200rpm
タイヤ:(前)235/45R18 98W/(後)235/45R18 98W(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト3)
燃費:13.4km/リッター(JC08モード)
価格:348万円/テスト車=390万円
オプション装備:Coolsterパッケージ(3連メーター+ダークティンテッドガラス+バイキセノンヘッドライト)(42万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:3410km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:401.6km
使用燃料:37.9リッター
参考燃費:10.6km/リッター(満タン法)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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