ホンダ・オデッセイ G(8人乗り)(FF/CVT)/オデッセイ アブソルート EX(7人乗り)(FF/CVT)
名こそ惜しけれ 2013.12.06 試乗記 背の高いミニバンへと大変身を遂げた新型「オデッセイ」。その走りを箱根で確かめた。残ったのは名前だけ?
あからさまな言い方をしてしまえば、残ったのは名前だけである。あえての4枚ヒンジドア、タワーパーキングに入庫可能な車高というこだわりをかなぐり捨てたのだ。「オデッセイ」の根幹の部分が失われてしまったと感じるのは自然だろう。しかもより大きなミニバンである「エリシオン」を廃止して統合するという措置がとられたわけだから、実質的にはそちらの後継車ではなかろうかと勘ぐった人も多いはずである。
ミニバンでありながら、セダンをしのぐ走りを実現する。そういうポリシーは、もう時代遅れなのか。実はかなり危惧しながら試乗の場に赴いたのだ。だが、それはまったくの杞憂(きゆう)だった。運転してみれば、これはまごうことなきオデッセイであり、洗練されたドライバーズカーだったのだ。
正直に言って、外観にはそれほどのインパクトを感じなかった。もちろんデザイナーは苦心してさまざまな仕掛けを施しているのだと思う。リアのタイヤハウスからフロントドアの下端に落としこむキャラクターラインや、スライドドアのレールをカムフラージュするようなエッジなど、功を奏している工夫もある。でも、ミニバンとしてある程度の大きさを確保し、両側スライドドアを採用すると、着地点は似通ってくるのも事実だ。
「アブソルート」は筋肉質
それでも最初の試乗車「G」の運転席に収まると、ミニバンに乗るのだという意識は瞬時に消えうせた。試乗会場が箱根だったこともあり、走りだせばもうドライブを楽しんでやろうという気分が盛り上がってくる。
中高速コーナーの多いターンパイクではなく、狭くて曲がりくねった湯河原方面へのコースを選んでみた。ガタイの大きいクルマだと持て余すこともある道だが、曲がり道でのすれ違いでも不安を生じない。全高が先代から150mmも高くなっているが、腰高な印象はまるでなかった。アクセル、ステアリングのレスポンスがとても自然で、自在に操れているという感覚が安心感をもたらすのだ。だから、運転していてボディーが小さく感じられる。
「アブソルート」に乗り換えると、まったく別物だった。標準車だってなかなかのスポーティーさだったが、こちらはミニバンにはあるまじきムキムキの筋肉質である。目の前のメーターからして真っ赤で、ドライバーの戦闘意欲を刺激してやまない。挑発に乗ってアクセルを踏み込めば、瞬時に滑るような加速を開始する。猛々(たけだけ)しいところはまるでなく、ガサツな騒音とも無縁だ。きれいにそろったエンジン音が高まり、あくまで軽やかに速度を増していく。
エンジン自体は標準車と同じ2.4リッター直列4気筒だが、アブソルートは直噴タイプに変更されている。それによって、最高出力は175psから15ps上乗せされて190psになっている。伝わってくるパワー感は、数字以上にダイナミックだ。レスポンスの速さが、ドライバーの気分を高揚させる。全高は10mm低められ、スプリングやショックアブソーバーのセッティングも変えてある。コーナリングのシャープさは、誰もが体感できるはずだ。
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狭苦しさのない3列目ではあるが……
2列目に移ってみれば、確かに広い。ホンダお得意の超低床構造の恩恵でステップ高は300mmという低さだから、乗降しやすい上に室内高を稼げるわけだ。低床ながら3列目シートの床下収納機構も健在で、フラットな巨大空間が簡単に出現する。折りたたんだシートを回転させる引きひもが最も力のいらない位置に取り付けられているところなど、長年の研究の跡が垣間見える。開口部が低くて女性が自転車を載せるのがラクラクだと、エンジニアは誇らしげに話していた。
試乗したアブソルートは、キャプテンシート装着車だった。ブラックの革内装だったこともあり、わかりやすい高級感を醸し出している。背もたれの中折れ機構が付き、オットマンを内蔵する「プレミアムクレードルシート」だ。カタログに“気分はまるでファーストクラス”と書いてあるのは言い過ぎかもしれないが、LLCに乗るよりははるかにリッチな気分になれる。ただ、靴を履いたままオットマンに足を乗せると、前席のシートに足の裏が当たって汚してしまいそうになるので注意が必要だ。
2列目以上に感心したのが、3列目だった。閉所恐怖症気味の人にはオススメしにくい場所になるのが常だが、意外にもほとんど閉塞(へいそく)感がなかったのである。2列目の乗員が極端に横暴な姿勢をとらない限り、十分に実用的な空間になる。絶対的な広さというよりは、狭苦しく感じさせない演出がうまいのだろう。
そんなわけで、ミニバンにとって重要なスペースである2列目3列目の居心地がいいのもこのクルマの美点だ。ただ、ちょっと注釈が必要になる。広さの面では文句がないものの、問題は乗り心地だ。標準車に関しては、合格である。前列から3列目に至るまで、家族全員が気分よくドライブできるだろう。しかし、アブソルートでは事情が違ってくる。ドライバーの幸福のために仕立てられたサスペンションは、後席の乗員にはいささかマイナスの効果を及ぼす。特に3列目でリアタイヤからの入力をダイレクトに味わうのは、あまり歓迎できるものではなかった。
走り好きのお父さんに朗報!
しかし、好調な推移を見せている受注の中でも、アブソルートの指名は9割近くに達するという。やはりホンダ好きは走りが最優先なのかと感心もしたのだが、モノはミニバンである。日々平穏を旨とする家族の乗り物であり、選択を主導するのは家政を取り仕切る奥方になるのが常態であるはずだ。走り指向のお父さんたちは、いかなる方法で恋女房を説得したのだろう?
どうやら、カラクリは燃費にあるらしい。ハイパワーでスポーティーなアブソルートだが、標準車の13.8km/リッターに対して14.0km/リッターと、0.2km上回っている。先代のアブソルートは燃費が悪い上にハイオク仕様で、エコロジーとエコノミーに敏感な奥方はいい顔をしなかった。今度は、たとえ頭の中では走りの虫が鳴いているお父さんでも、口では“倹約のため”と堂々と主張できる。走って楽しく家庭は円満、いいことばかりだ。後席に乗る子供たち、おじいちゃんやおばあちゃんには、ちょっとだけ我慢してもらおう。
オデッセイは1994年にデビューして大ヒットし、低迷期を脱出するのに功(こう)があったモデルである。ひとつのジャンルを切り開き、ホンダの象徴的存在になった。コンセプトを変えるにあたっても、その名前を簡単に捨てなかったことは賢明だった。「名こそ惜しけれ」とは坂東武者がよく使った言葉で、その名にかけて恥ずかしいことはできない、という意味だ。オデッセイという名前のクルマを、中途半端なものにするわけにはいかない。名前を継ぐことは、志を引き受けることでもあったのだ。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ホンダ・オデッセイ G(8人乗り)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4830×1800×1695mm
ホイールベース:2900mm
車重:1720kg
駆動方式:FF
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:175ps(129kW)/6200rpm
最大トルク:23.0kgm(225Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)215/60R16 95H/(後)215/60R16 95H(ダンロップSP SPORT 230)
燃費:13.8km/リッター(JC08モード)
価格:269万円/テスト車=277万7000円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムディープロッソ・パール>(4万2000円)/ナビ装着用スペシャルパッケージ(4万5000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1226km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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ホンダ・オデッセイ アブソルート EX(7人乗り)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4830×1820×1685mm
ホイールベース:2900mm
車重:1830kg
駆動方式:FF
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:190ps(140kW)/6400rpm
最大トルク:24.2kgm(237Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(トーヨー・トランパスR30)
燃費:13.6km/リッター(JC08モード)
価格:358万5000円/テスト車=406万8000円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトオーキッドパール>(4万2000円)/マルチビューカメラシステム+スマートパーキングアシストシステム(7万3500円)/手動開閉リアエンターテインメントシステム(8万4000円)/本革シート(21万円)/ACC+CMBS(7万3500円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1401km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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