トヨタ・アクアG“G’s” プロトタイプ(FF/CVT)/アクアG“ブラックソフトレザーセレクション”(FF/CVT)
「味」にもこだわり 2014.01.13 試乗記 「ホンダ・フィットハイブリッド」から燃費世界一の座を奪還した「トヨタ・アクア」。マイナーチェンジを機に追加されたスポーツモデル「G's」とともに試乗した。「アクア」vs.「フィット」の名勝負
月ごとに発表される国内市場の販売台数ランキングで、2013年の多くの月の1位を占めたのがトヨタのハイブリッド専用小型車「アクア」である。しかし、それも同年秋に3代目「ホンダ・フィット」が登場するまでのことであった。10月にトップになったフィットは続く11月も1位、12月は現時点では未発表ながらアクアを猛追している。
フィット3代目の成功要因のひとつに、本格ハイブリッドをラインナップに加えたことがある。JC08モード燃費36.4㎞/リッターと、35.4㎞/リッターを誇っていたアクアを堂々上回ったのだ。日本一になるためには世界一にならなければならない。かつて本田宗一郎はそういってマン島TTレースに参戦した。というのとはちょっと話が違うかもしれませんが、ともかくトヨタとホンダの間で熾烈(しれつ)な燃費世界一主張競争が繰り広げられているのである。
2013年11月26日、トヨタが三河魂を爆発させた。この日、アクアのエンジンのフリクションを低減、制御系を改良することでハイブリッドシステムの効率を高め、燃費性能で世界トップの37.0㎞/リッターを実現した、と発表した。あちらがハイブリッドで来るなら、こちらもハイブリッドで、とホンダが繰り出してきたのがいわばハイブリッドのダブル・クロスカウンター。それをトヨタはトリプル・クロスで返したのである。
あるいは、あちらがリキラリアットとサソリ固めなら、こちらはドラゴンスクリューに飛竜原爆固めの名勝負数え歌、にも比せられるかもしれない。アクアとフィット、どっちが革命戦士なのか、微妙なところではありますが、アクアの開発担当者は次のような趣旨のことを昨年の師走に富士スピードウェイで開かれた試乗会で語っている。
「H社の強力なライバルが現れて、切磋琢磨(せっさたくま)していきたい。燃費性能世界一の座は奪還した。あわせて乗り心地を改善。これは2年間の蓄積の効果である」
ヨーロッパの小型車のような味わい
アクアの発売は2011年末のこと。東日本大震災を乗り越えて、東北でつくられていることは読者諸兄もご存じであろうと思う。
アクアにとって2年めの定例マイナーチェンジでの目玉は、トヨタが自ら開発するチューニングモデル、“G SPORTS”こと通称“G's(ジーズ)”が加わったことだ。シリーズ第6弾となるこれは、専用のコイルスプリングとダンパー、それに高性能タイヤを装着し、その高性能タイヤ、195/45R17の「ブリヂストン・ポテンザRE050A」のグリップ力にボディーが耐えられるよう、床下にブレース(補強材)を加え、さらに溶接スポットの打点を追加している。メーカーならではの本格チューニングが施されているのだ。
専用デザインの前後バンパーは、好き嫌いの分かれるところではありましょうけれど、一見してレクサスのスピンドルグリルよりド派手で、ヤンキー文化を漂わせる。往年の淡谷のり子にも似ている。う〜、若い人は知らないかもしれませんね、淡谷のり子。「ブルースの女王」よ。青江三奈じゃないのよ。
このようなスペシャルな仕立てにかかわらず、価格は222万円と、ベースの「アクアG」の187万円から35万円しか高くなっていない。「気軽に走り味を楽しんでもらいたい。今度のモデルは女性の評判がいい。内装も黒とシルバーの組み合わせにトライした。乗り味はしっかりつくり込んである」とG's開発担当者は語った。
「アクアG“G’s”」はGグレードをベースとする1モデルのみ。残念なのはエンジンとブレーキに手が入っていないことだけれど、ハイブリッドなので、そのチューンは困難であったらしい。アクアのパワートレインは2代目「プリウス」の1.5リッターエンジン+電気モーターを大幅改良したものとされる。この1.5リッターエンジンに、色というか艶というか、そういうモノがあったらがぜんスポーティーなコンパクトカー誕生ということになったのだろう……、というのが筆者の率直な感想である。ちょっと硬めの乗り心地で、ヨーロッパの小型車のような味わいがある。
燃費性能世界一だけではない
G'sについては、今回は富士スピードウェイ内の道路しか走ることができなかった。なので、多くを語ることができない。次にフツウのアクアGの“ブラックソフトレザーセレクション”で、スピードウェイの構内を飛び出し、近所の山道を登って下った。
久しぶりに乗ってみたアクアはフツウのモデルでも乗り心地は硬めで、G's同様ヨーロッパの小型車テイストでまとめられていた。マイチェン前との違いは詳(つまび)らかではないけれど、ロールは控えめでハンドリングはシュア、山道を走って楽しい種類に仕立てられている。
試乗車は175/65R15の「ブリヂストン・エコピア」を履いていた。1.5リッター アトキンソンサイクルエンジンは最高出力74ps/4800rpm、最大トルク11.3kgm/3600-4400rpmとごく控えめながら、電気モーターは61psと17.2kgmを発生し、電気モーターのトルク特性を生かして急な山道もガンガン登る。車重1110kgと、ハイブリッドにしては軽量なことも効いているのだろう。
とはいえ、G's同様、エンジンが高回転域で発する電気掃除機みたいなサウンドがどうにも残念で、化石燃料を燃やして内燃機関を歌わせている快感に乏しい。残念というほかない。と私なんぞは思うわけですけれど、こういう感覚は時代錯誤もいいところ、精進料理の店に入ってステーキはないのか、とつぶやいているようなものなのかもしれない。
日本一のベストセラーカーが燃費性能世界一を奪還したばかりでなく、社長キモ入りのチューニングモデルまでメニューに加えた。クルマの味にもこだわっているんだ、という姿勢を、世界一の量産自動車メーカーが示した。そのことを素直に寿(ことほ)ぎつつ、新春を迎えたい。
(文=今尾直樹/写真=小林俊樹)
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テスト車のデータ
トヨタ・アクアG“G’s” プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4055×1695×1420mm
ホイールベース:2550mm
車重:1140kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:74ps(54kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:11.3kgm(111Nm)/3600-4400rpm
モーター最高出力:61ps(45kW)
モーター最大トルク:17.2kgm(169Nm)
タイヤ:(前)195/45R17 81W/(後)195/45R17 81W(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:--km/リッター
価格:222万円/テスト車=256万3350円
オプション装備:195/45R17タイヤ<ブリヂストン・ポテンザ RE050A>&17×6.5J G’s専用アルミホイール<ダークスパッタリング>(6万3000円)/スマートエントリーパッケージ(5万3550円)/LEDヘッドランプパッケージ(11万5500円)/アドバンストディスプレイパッケージ+ナビレディパッケージ(7万4550円)/ビューティーパッケージ(2万6250円)/寒冷地仕様(1万500円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:15km
テスト形態:ロードインプレション(サーキット構内路)
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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アクアG“ブラックソフトレザーセレクション”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1695×1445mm
ホイールベース:2550mm
車重:1110kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:74ps(54kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:11.3kgm(111Nm)/3600-4400rpm
モーター最高出力:61ps(45kW)
モーター最大トルク:17.2kgm(169Nm)
タイヤ:(前)175/65R15 84H/(後)175/65R15 84H(ブリヂストン・エコピアEP25)
燃費:33.8km/リッター(JC08モード)
価格:195万円/テスト車=226万800円
オプション装備:175/65R15タイヤ&15×5.5Jアルミホイール<センターオーナメント付き>(4万7250円)/LEDヘッドランプパッケージ(11万5500円)/アドバンストディスプレイパッケージ+ナビレディパッケージ(7万4550円)/ビューティーパッケージ(3万1500円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>&SRSカーテンシールドエアバッグ<前後席>(4万2000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:3436km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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