トヨタ・ハリアー プレミアム“アドバンストパッケージ”(FF/CVT)
挑戦するパイオニア 2014.02.10 試乗記 国内専用モデルとして再スタートを切った元祖プレミアムSUV「トヨタ・ハリアー」。果たして、17年後の「ワイルド・バット・フォーマル」に新たな提案はあるのか? 最上級グレード「プレミアム“アドバンストパッケージ”」のガソリンエンジン搭載FF車に試乗した。「プレミアムSUV」の源流
「彼の名はH.H. 彼の特徴を一言で伝えるのは、とても難しい」と、オサレなテレビCMで紹介される新型「トヨタ・ハリアー」。なんのことはない、彼は「ワイルド・バット・フォーマル」なヤツである。初代から変わらず。
いまをさかのぼること17年の、1997年。トヨタが、北米での基幹車種「カムリ」のシャシーにクロカン風ボディーを載せて売り出したのが、初代ライオン丸ことハリアーである。
タフでワイルドな見かけにして、ジェントルでフォーマルな乗り心地。押し出しがきいて、それでいて運転しやすい。これが、フロンティアスピリットを誇りつつ、実は安楽なことが大好きなアメリカ人に、バカ受け! 2代目に至っては、カナダに新工場をつくらなければ生産が追いつかないほど、売れに売れた。前後して、雨後のたけのこのごとく各自動車メーカーから、乗用車やトラックのシャシーを活用したSUVが登場し、さらにはクロスオーバーと呼ばれる新ジャンルが生み出され、ついにはジープやランドローバーまで“ハリアー化”されるのだから、その影響たるや、おそるべし。
そのわりに、エポックメイキングなモデルとしてことさら尊敬を集める風でもないのが、邦名ハリアー、北米「レクサスRX」の不思議なところ。やはり、テクノロジーというより、マーケティングとアイデアの勝利であったところが、世のクルマ好きの琴線に触れにくいのでありましょうか。いいクルマなんだけどね。
「RAV4」ベースへ
読者諸兄ご存じの通り、トヨタ・ハリアーは、2代目までは、日本ではハリアー、北米ではレクサスRXとして販売されていた。2005年に本邦でもレクサスブランドが展開されるにあたり、3代目は国内でもレクサスRXとなり、トヨタブランドでは、2代目ハリアーが継続して売られることに。
その型落ち(失礼!)ハリアーがフェードアウトするのに先立ち、トヨタの(乗用車系)SUVラインナップには、「RAV4」に加え、そのストレッチ版、5/7人乗りの「ヴァンガード」がラインナップされた。ただ、“ちょっと上級”と位置づけられた後者が、期待したほど育たなかったのだろう。新型車は、2660mmのホイールベースはそのままに、しかしヴァンガードの名を捨て、より知名度の高いハリアーのネーミングをひっさげての登場となった。今回のテスト車である。
「国内市場を見据えて、サイズを抑えました!」と、国内ユーザーの心をくすぐる新型ハリアー。たしかにRXと比較すると50mmほど短いけれど、なんのことはない、全長4570mm、全幅1815mmのヴァンガード(5人乗り)より、長さも幅もググッと大きくなった。ニューハリアーの寸法は、全長4720mm、全幅1835mm、全高1690mmである。
前述の通り、2660mmのホイールベースは、ヴァンガード時代そのまま(2代目ハリアーより55mm短い)。拡大分は、“鬼面人を驚かす”(!?)フロントの造形代に使われた。遠目にニューハリアーを見ると、少々頭デッカチに見えるのは、そのためである。
2リッターガソリンと2.5リッターHVの2本立て
「ひねりの利いた遊び心で高級・洗練を感じさせる」と説明されるハリアーのデザイン。透明樹脂のグリルが横長のヘッドランプにつながって後方に伸びていくさまは、なるほど、クール。わかりやすく斬新だ。「年月を経ると、樹脂部分が曇ってみすぼらしくなるのでは」と、近未来の中古車市場を心配するのは、あまりに貧乏性に過ぎましょう。
ニューハリアーは、2リッター直4(151ps、19.7kgm)とCVTを組み合わせたガソリン車と、2.4リッター直4(152ps、21.0kgm)を用いたハイブリッドモデルに大別される。
前者は4WDとFFが用意され、後者はリアにも駆動用のモーターを配した「E-Four」と呼ばれる4WDシステムを採る。
価格は、2リッターモデルが272万円から378万9000円。ハイブリッドが361万円から447万円。「ヴァンガード時代は、2.4リッターで250万円級だったのに」と口をとがらすアナタは、古い! 21世紀のSUVは、排気量ではなく、燃費をジマンすべき。ガソリン車は14.8~16.0km/リッター、ハイブリッドは、なんと21.4~21.8km/リッター(JC08モード)である。
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日常使いでは2リッターで十分
ハリアー プレミアム“アドバンストパッケージ”(車両本体価格:360万円)のドアを開けると、大きくS字にうねった合皮(ボルドー)の内張りが、大胆不敵。オーナーが、「新世代のハリアーを買ったんだなぁ」と実感できる派手な演出だ。
もう1点、大胆不敵なのは、ダッシュパネルを覆う合皮が、パネル上面全体をカバーせず、あたかも前かけのように途中で終わっていること。しかしココで、「材料ケチりやがったな」と思うのは、あさましい、のかも。
たとえば、いまでも地方都市で見ることができる看板建築。正面から見ると立派に見えるが、すこし横から見れば、あたかも書き割りを貼り付けたような、普通の建物であることがすぐ知れる。はたまた歌舞伎で便利に使われる黒子。見えているけれど、見えないことにする。そんな奥ゆかしい日本人の心を、ハリアーの内装は表しているのかもしれない。商売上手なトヨタは、かつて「オーリス」の豪華版たる「ブレイド」で、アルカンターラを使って同じような手法を試していたから、市場の反応は折り込み済みなのだろう。
さて、走らせれば、1640kgに151ps。2.4リッターのヴァンガードは、1530kgに170ps(240S)だったから、絶対的な動力性能は、推して知るべし。急坂を駆け上がる際に、高速道路で前方のクルマを追い越すときに、「本当の俺はこうじゃない!」と歯がみしそうなら、ハイブリッドモデルを試すことをお勧めします。もっとも、新型ハリアーの姿カタチにほれているなら、2リッターモデルでも日常使いにはまったく十分なはず。
(文=青木禎之<Office Henschel>/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
トヨタ・ハリアー プレミアム“アドバンストパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1835×1690mm
ホイールベース:2660mm
車重:1640kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:151ps(111kW)/6100rpm
エンジン最大トルク:19.7kgm(193Nm)/3800rpm
タイヤ:(前)235/55R18 100H/(後)235/55R18 100H(ブリヂストン・デューラーH/T 687)
燃費:16.0km/リッター(JC08モード)
価格:360万円/テスト車=371万3400円
オプション装備:マイコン制御チルト&スライド電動ムーンルーフ(10万5000円)/アクセサリーコンセント(8400円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1612km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:262.5km
使用燃料:26.4リッター
参考燃費:9.9km/リッター(満タン法)/9.5km/リッター(車載燃費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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