フォルクスワーゲン・ゴルフR(4WD/6AT)
やる気たっぷりの高級ゴルフ 2014.02.20 試乗記 “最強のゴルフ”とうたわれる新型「フォルクスワーゲン・ゴルフR」。先代よりパワーアップし、環境性能も向上した「R」の魅力を堪能した。音もカッコイイ“レースモード”
新型「ゴルフR」を堪能しようと思ったら、レースモードで走るに限る。車載モニターにタッチスイッチを呼び出して操作する走行モード切り替えは、7代目「ゴルフ」の新趣向だが、「R」はスポーツモードがなくなって、代わりに“レース”が新設された。画面左からコンフォート、そしてノーマルとエコの間にレースが来た。いきなりレースかよ!? と思わせるところが、新型ゴルフRの“やる気”だ。
レースモードにすると、スロットルの感度がいっそう鋭くなる。6段DSGの変速スピードやシフトマップが最もスポーティーになる。ダンピングフォースが上がって、足まわりが堅くなる。ステアリングの手応えが増す。アンチスピン機能の介入が穏やかになる。
だが、なによりも一番わかりやすいのは音である。エンジン音ががぜん、勇ましくなる。排気音もたたきつけるようなビートに変わり、試乗車は高回転まで回すとダッシュボードがビビるほどだった。レースモードだと回転合わせのブリッピングも派手になる。サウンドジェネレーターでつくられた音だから、少々わざとらしくはあるのだが、それだけに、このままレースゲームの効果音に使えそうなカッコイイ“音チューニング”である。
ひとしきりレースモードで走ってから、エコやノーマルに切り替える。途端に静かになる。それが町の真ん中であっても、たったいまスポーツ走行を終えて、サーキットのゲートから出てきたような気分になった。
専用チューンで先代より24psアップ
「GTI」でも飽き足らない人のためのスーパーゴルフが“R”である。「R32」のころは3.2リッターV6だったが、Rに改名した先代からは直噴2リッター4気筒ターボにダウンサイジングして、スーパーGTI的な性格を強めた。ただしこちらはゴルフ唯一の4WDである。
新型Rのビッグニュースは、最高出力がついに大台の300psへ! と言いたいところだが、残念ながらそれは欧州仕様の話。日本向けのエンジンはホットカントリーバージョンの280psにデチューンされている。つまり、ひと足先に導入された「アウディS3」系のパワーユニットと同じである。
とはいうものの、ヘッドまわり、ピストン、ターボチャージャー、インジェクションなどを専用チューンした結果の280psは、先代Rの24ps増し。GTIからは60psアップを果たしている。パワーでは後退したものの、38.7kgmの最大トルクは欧州仕様と変わらないから、0-100km/h=4.9秒(DSG)と公表されているズバ抜けた加速性能にも陰りはなさそうだ。
四輪駆動システムはハルデックスカップリングを採用した第5世代の4MOTION。先代Rより30kgの減量を果たしたのは、7代目ゴルフを貫く軽量化コンセプトの成果だが、1500kgの車重はGTIと比べると110kg重い。
ファミリーカーにもデートカーにも
0-100km/h=5秒をきる史上最速のゴルフ、というと、どんな荒馬かと想像されるかもしれないが、ふだんのRは思いのほかおとなしい。「高性能車!」と意気込んで走りだすと肩すかしを食らわせるマナーのよさはベースのGTIと同じである。
5スポークの専用ホイールはGTIよりワンインチアップの18インチ。さらに固められたサスペンションは、さすがにGTIよりズシリとした重みを感じさせるが、ポテンザS001から伝わる乗り心地に荒さはない。レースモードまで上げても「激変」というほど堅くはならない。ファミリーカーにもデートカーにも言い訳要らずで使えるのが今度のRである。
踏み込めば牙をむくようにパワフルなエンジンも、ふだんの走りではそんな牙の存在をまったく感じさせない。あくまでパワー・オンデマンド、スピード・オンデマンド。ユーロ6適合のヨーロッパ車で、平時から肩を怒らせているような高性能車は見当たらなくなった。
記録的な大雪の影響により、ワインディングロードで留飲を下げるような走り方はできなかったが、それでも可能な限り速く走った約270kmで、車載燃費計は9.9km/リッターを示した。足場の悪いなかでもR気分を味わおうとレースモードを頻用したことを考えれば、ワルくないと思う。
エコモードでは、高速巡航中にスロットルを全閉にするとクラッチをきってアイドリングまでエンジン回転を落とし、惰性で進むコースティング走行に入る。フツーのゴルフに付いているそうしたエコデバイスはすべて標準装備。もちろんアイドリング・ストップ機構も備わる。
「R」はレアの頭文字?
撮影で早出した朝はマイナス2度だった。暗がりでドアを開けると、ちょっと妖しいブルーのLED照明が敷居やドア内張りにともる。黒のレザーシートはサポートがいいだけでなく、快適性も上々だ。乗り心地のよさはこのシートもひと役買っている。
暖機は早く、始動から5分ほどでエアコンの温風がぬくもる。シートヒーターも標準装備だから、冷え込んだ朝でも寒い思いをせずにすんだ。510万円の高級車なら、それも当然か。
先代の数字をあげると、日本でのRの販売比率は、GTIの3分の1ほど。ゴルフ全体の6%弱だったという。極端にレアなゴルフである。価格を考えると、新型も爆発的にブレークすることはないだろうが、レア(rare)の頭文字だったのかと思わせるところが、ゴルフRの魅力ともいえる。
個人的には220psのGTIで十分だと思うし、軽快な足まわりがもたらす小股の切れ上がった感じもGTIの独壇場だが、Rはそれよりも60psパワフルなゴルフ史上最強の四駆ランナーで、快適性や燃料経済性ではGTIにひけをとらず、「メルセデス・ベンツA45 AMG」「BMW M135i」「アウディS3」といったライバルのどれよりも安い。とフォルクスワーゲン・ジャパンが胸を張るハイエンド・ゴルフである。
(文=下野康史/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1800×1465mm
ホイールベース:2635mm
車重:1500kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:280ps(206kW)/5100-6500rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/1800-5100rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:14.4km/リッター(JC08モード)
価格:510万円/テスト車=510万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:863km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:266.0km
使用燃料:26.7リッター
参考燃費:10.0km/リッター(満タン法)/9.9km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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