第231回:低燃費プラスαがポイント ブリヂストンの最新エコタイヤ2種を試す
2014.03.18 エディターから一言ブリヂストンから車種別専用低燃費タイヤ「エコピアEX20シリーズ」とSUV用低燃費タイヤ「デューラーH/L 850」が登場。最新のエコタイヤは、どのように進化したのか? 同社テストコースで開かれた試乗会の模様をリポートする。
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低燃費タイヤの最新モデル
フランスのミシュランと世界のタイヤブランドの覇権を争うブリヂストンから、「雨に強く、長持ちする車種別専用低燃費」と「高い静粛性と優れたSUV用低燃費」をうたい文句とする、2タイプの最新タイヤがローンチされた。
そんな新商品のテストに出向いたのは ブリヂストンが世界8カ国・10カ所に所有するテストコースの中にあっても、主に冬季試験が行われる北海道プルービンググラウンドと共に実車テストの中枢となっている、その名もズバリ「ブリヂストンプルービンググラウンド」だ。
1977年に栃木県那須塩原市に竣工(しゅんこう)された、1周3.9kmの高速周回路をメインとする施設内でまず試したのは、“エコロジー”と“ユートピア”という2つの単語に由来して命名された「エコピア」を名乗る乗用車用低燃費タイヤに追加設定された「EX20シリーズ」。
製品名からも、それが“エコスタンダードタイヤ”としてこれまで販売されてきた「EX10」の、実質的な後継モデルであるのは明らかである。そして、そんなEX10に対するさらなるアドバンテージとして主にアピールされるのが、ウエットグリップ性能の向上、耐摩耗性能の向上という2つのポイントだ。
シリカ増量が性能向上のポイント
転がり抵抗を低く抑えつつ、雨降りによる低温下でもトレッドコンパウンドが高い柔軟性を保ち続けることによって、結果として高いグリップ性能を発揮するためには、「シリカ」という結合力の高い補強剤の含有率を高めるのが有効なのはもはや常識。実際EX20シリーズも、「シリカの含有率を、EX10での50%から90%にまで高めたことが、ウエットグリップ向上の重要なポイントになった」のだという。
それはここにきて新たな技術が開発されたからこそ実現可能となったもの。コスト面での要求も厳しいこのクラスのタイヤでシリカの大幅増量を可能としたのは、「含有率を高めると難しくなるゴムとの混合を、高いレベルにキープする“ウエット向上ポリマー”の新採用が大きい」のだそうだ。
路面への接地形状を改良することでトレッド接地圧の集中を緩和、ショルダー部の偏摩耗を低減させライフ性能を向上、とうたわれる部分の検証は、さすがに今回は困難。しかしウエット性能の向上に関しては、散水設備を備えた同プルービンググラウンド内のウエットハンドリング路で、明確に体感できた。
“エコ”を意識させないグリップ感
低燃費スタンダードタイヤとして発売中の「ネクストリー」と「EX20」の双方を、「トヨタ・プリウス」に履かせての比較テストでは、その差は「走り始めて最初のコーナーに差し掛かった時点で、誰もがハッキリと分かる」というほどに明白。EX20を履いたモデルの方が路面とのコンタクト感がはるかに濃密で、実際にアンダーステアが発生し始めるスピードも全く異なるのだ。
端的に言って、EX20が実現させたグリップ感は、もはや“エコタイヤを履いている”などという印象とは完全に無縁のもの。そして、それが感覚的なものだけではなく実際の安全性面でも大きな意味を持つものであることは、軽・コンパクトカー向けとミニバン向けにそれぞれトレッドパターンを最適化させた、「EX20C」と「EX20RV」装着車を、やはりネクストリー装着車と比較したウエットブレーキングの比較デモ走行でも、想像以上の制動距離の違いとして目にすることができた。
SUV版の「レグノ」を目指す
一方、「エコピア」のタイトルは名乗らないもののやはり優れた燃費性能を追い求めつつ、従来の「デューラーH/L 683」の後継モデルとしてローンチされたのが「デューラーH/L 850」だ。
「エコピアに採用済みの、転動の際のエネルギーロスを減らすサイド部最適化形状の搭載などで、H/L 683比での転がり抵抗を24%低減」と紹介されるこの新タイヤは、一見ではSUV用とは思えないほどに繊細なトレッドパターンを目にした時点で、まずは快適性を追及したモデルであることが明らか。
事実、その端的な開発の狙いは「SUV版『レグノ』を作ること」にあったという。ただし、実際にそのブランドを名乗らないのは「SUV用としてある程度の雪上性能を意識すると、駆動力確保には有効でも静粛性には不利なラグ(横方向)溝は残さざるを得ず、レグノとして不可欠な快適性レベルにまでは、まだ足りない部分も残るため」と説明される。
こちらの新タイヤのチェックはプルービンググラウンドを出発し、周辺一般道と最寄りの東北道を新型「日産エクストレイル」にて行った。
SUV用も快適性重視の時代
パターンノイズが耳につきやすい平滑な舗装路面上でも、周波数が車速にリンクしたノイズというのは、なるほどほとんど気にならない。このあたりは、ラグ溝を斜め化してパターンノイズの原因となる圧縮される空気量を減らしたり、ショルダー部の溝のボリュームを減らしたりすることでノイズの発生を抑制する「レグノの開発で培われて来た技術」が効いているということだろう。
一方、荒れた路面に差し掛かるとそこで発生するロードノイズは、前述した小さなパターンノイズとの対比ではやや目立ちがちという印象もある。
最近ではいわゆる“コンパクトSUV”のカテゴリーが急成長を続け、それと共に2輪駆動のモデルも珍しくなくなりつつあるなど、オフロードでの使用は全く想定しないというユーザーも急速に増えているのがSUVマーケットであるはず。となれば、そこで求められるタイヤの性能も、燃費性能や快適性の高さが上位にランクされるのは、もはや必然という時代に違いない。
ここに紹介したデューラーH/L 850は、まさにそうしたユーザーの希望をいち早くキャッチアップしたことで、人気の商品となりそうだ。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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