日産デイズ ルークス ハイウェイスター ターボ(FF/CVT)/日産デイズ ルークス X(FF/CVT)
広さは“個性”になりうるか? 2014.03.25 試乗記 まさに戦国時代の様相を呈する軽自動車マーケット。第4極を狙う日産・三菱連合の“日産バージョン”である「デイズ ルークス」に試乗した。満を持してスーパーハイトワゴン市場へ
日産自動車と三菱自動車が50%対等出資して設立したのが、軽自動車事業のための合弁会社「NMKV(Nissan Mitsubishi Kei Vehicle)」。2013年5月20日にその第1弾となる「日産DAYZ(デイズ)/DAYZ(デイズ)ハイウェイスター」「三菱eKワゴン/eKカスタム」を三菱の水島製作所でラインオフしてから、まだ1年もたっていない。
それまでのOEMとは異なり、合弁会社という一大決心で軽自動車市場に名乗りを上げたわけだが、クルマ作りのプロセスから文化までまったく異なる企業が一緒に事業を行うことの難しさはわれわれがイメージする以上だろう。
もちろんそのためのNMKVであり、PCでいえばHUB(ハブ)のような役目でもあるのだが、日産自動車の関係者に話を聞くと「ラインオフまでは“仲間”ですが、クルマが同じでもカスタマーへの伝え方、もう少しわかりやすく言えば売り方が違うわけですから、ラインオフした日からライバルです」という結構容赦ないコメント。まあ、それが当たり前といえばそれまでだが。
そんなNMKVだが、第1弾の販売はまずまず好調。さらに、デイズの発表会場で当時の志賀日産COOが第2弾のスーパーハイトワゴンの発売にも言及していたこと、さらにテレビ東京系の番組『ガイアの夜明け』のホンダ軽自動車特集で、番組終了直前に「日産・三菱連合はスーパーハイトワゴンの開発に着手していた」的な差し込み映像が入り、業界関係者を驚かせたのは記憶に新しい。
その後、東京モーターショーでのティザーお披露目も含め、十分な助走期間を経て2014年2月に販売を開始したのが「日産デイズ ルークス」なのである。
キモはリアシートの圧倒的なスライド量
今更説明の必要はないかもしれないが、ここ10年における軽自動車の販売比率は全需要に対し40%に迫る勢いである。さらにその軽自動車の中でも、スーパーハイトワゴンは約25%を占めるまでに成長した。
この市場を開拓したクルマといえば「ダイハツ・タント」が代表格だが、もともと乗用タイプをベースにハイトワゴン化(当時はそういう呼ばれ方はしていなかった)したのは「三菱ミニカ トッポ」や「スズキ・アルト ハッスル」など。しかしこれらはあくまでも派生車種の扱いで、個々の評価は高かったものの、タントの登場まで市場の一翼を担うまでには及ばなかったわけだ。
さて、本題に戻すとこのデイズ ルークスの一番の魅力は、広大ともいえる室内空間にある。「室内高1400mm」。数値としては「ホンダN-BOX」と同じだが、広く見せようとする手法はこちらの方に最後発ならではうまさを感じる。そして何よりも後席のシートアレンジの多彩さ、もう少し絞って言うのであれば後席スライド機構に注目すべきなのである。そのスライド幅、なんと260mmと圧倒的。さらに意外と語られないのが、このリアシートが左右独立して動く点である。
乗員4名が上限の軽自動車において、人と荷物を効率よく積むことは登録車以上に求められる重要なポイントだ。多彩なシートアレンジは確かに便利だが、その機構を組み込むことで当然コストは上がるし「そんな複雑な機能、どれだけ使うのか」と商品企画の段階でボツになることも少なくない。ライバル車を見ると、ホンダの「Nシリーズ」はそれぞれの車種に役割を持たせているのが特徴だが、リアシートスライド機構を持つのは「N-WGN」のみ。さらに言えば、背もたれは分割で倒せてもスライドは一体式となる。同等の機能を持つライバルとしては「スズキ・スペーシア」があるが、スライド量は170mmと少なめ。後端までシートがスライドすれば、その分ラゲッジルームの奥行きは狭くなるが、左右分割とスライド機構、そしてダブルフォールディング機構によるフラットスペースなど、フレキシブルな使い方が可能なので実用上は問題ない。
ちょっとしたアイデア商品
まだまだ後席の話は続くのだが(笑)、やはりそれだけこのクルマがスーパーハイトワゴンの中でも後席の快適性&実用性を重視しているからにほかならない。
スライドドアの開口寸法は580mmでスズキ・スペーシアと同じ。640mmというMクラスミニバン以上の開口部を持つホンダN-BOXには及ばないが、地上からのステップ高も370mmと、現在の基準としては平均的。当然アシストグリップも装着されているので乗降性は十分といえる。
そして、乗り込んでまず目に飛び込んでくるのがルーフに設置された「リアシーリングファン」だ。いわゆるエアサーキュレーターの一種で、暖冷(エアコン)機能は搭載していない。ただ、空間の大きいスーパーハイトワゴンゆえに空気を循環させるだけでも省エネに寄与。実際、日産のデータによれば、同じくグレード別に設定されるロールサンシェードとの組み合わせにより、体感温度を4度も下げることができるそうだ。確かに便利な機能だし、エアコンを使わない時期(最近はフルシーズン使うことも珍しくはないが)でも送風することで快適性が増すのはありがたい。
そこで、これだけ立派なユニットを取り付けたのなら、ここに空気清浄機能を組み込むことを提案したい。ファミリー層をターゲットにしている以上、子供の食べこぼしによるダニの発生などで、車室内空間の環境は悪くなりやすい。事実、ディーラーオプションではシャープのプラズマクラスターイオン発生装置付きLEDランプが設定されている。また最近では市販のリア席用モニターに同機能を組み込んだ商品も存在するが、単価が高くなってもミニバンユーザーを中心によく売れているというデータもあるくらいだ。
そもそも登録車で初めてプラズマクラスターイオンを組み込んだのは「日産マーチ」(旧型)である。聞いてみると「オマエにそんなこと言われなくてもわかっているよ」という感触(?)はあったので、そう遠くないうちに設定されるのではないかと思っている。
実寸だけでなく、視覚的にも広さを訴求
フロントシートに乗り込むと、外観同様、非常に広々とした空間を感じることができる。広いガラスエリアとやや狭めだが実用上は十分なフロントクオーターウィンドウなどにより、周辺の視認性はかなりいい。あと「なるほど」と感じたのは、デイズとは異なる考えで設計されたインパネ周辺のデザインである。デイズの場合、話題になったタッチパネル式のエアコンとAVナビスペースを一体化することで一種の塊感を出していたのだが、ルークスの場合はこれらを分割し、全体のボリューム感を減らすデザインとしている。もともとダッシュボード周りがすっきりとした設計になっているのだが、この工夫により横方向に強く広がりを持たせることで、視覚的にも「さらに広い」感じを出すことに成功している。
大きく開くフロントドア(85度)や、すっと腰を下ろす感覚で座れる地上高670mmのシートなども含め、後席同様に快適性の高いデイズ ルークスの前席だが、注文もしっかりある。前述したデザインを考えると、これはやりようがないのかもしれないが、空調パネルが奥に引っ込み、かつ少し上を向いているので、操作性がデイズに比べて若干劣っている。もちろんオートエアコンなので一度セットすれば触れる機会は少ないのだが、自分なりの適正なシートポジションでは「ヨイショ」と少し手を伸ばす感覚になってしまう点は否めない。
また天井が高いのは素晴らしいが、グレード別に設定している日産自慢の「アラウンドビューモニター」を組み込んだルームミラーの位置が高過ぎる。運転席から左斜め上への視線移動が多くなるのである。これに関しては、ディーラーオプションのAVナビを装備すれば、ナビ画面上にアラウンドビューモニターを表示できるので解決するが、使用頻度の高いせっかくのマルチカメラシステムだ。保安上の問題などいろいろあるのかもしれないが、設置場所をもう少し下へ下げる(具体的にはルームミラーをウィンドウ接着型に変更する)などして、ドライバーとの距離を少し短くしてほしい。
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ダウンサイザーはやはりターボでないと
試乗したのは「ハイウェイスター」のターボと標準モデルのNA(自然吸気)だが、まずこのクルマのターゲットカスタマーは20代後半から30代のビギニングファミリーの主婦だそうである。子育て真っ最中で家族用には別にミニバンを所有しており、自分専用の日常の足としてのスーパーハイトワゴンを求めている層に向けているそうだ。
と言いつつ、昨今の軽自動車の売れ方のひとつに「ダウンサイザー」というものがある。広さや動力性能における大きな進化を遂げた軽自動車ゆえに、登録車でなくても十分という層が増えているのも事実。クルマはこれ1台でオーケーという層には当然動力性能の余裕も必要となってくる。
ターボモデルはそんなニーズにピッタリなのは言うまでもないだろう。64ps(47kW)&10.0kgm(98Nm)のスペックは高速道路でも余裕があるし、法定速度内であれば過給音が少し気になる程度で車室内への音の侵入も及第点を与えられる。しかし「それ以上」が無いのである。ギミック的な話になってしまうが、これだけ余裕があるのであれば、パドルまたはマニュアルシフトモードが欲しくなる。正直CVTのレスポンスはそれほど高くはないのだが、それでももうひと押しするための見た目の演出が欲しいのである。例によって「そんなことをすればコスト高になるし、そもそもパドルシフトってニーズあるの?」って言われてしまいそうだが、ホンダのNシリーズのターボ車には設定されているし、スポーティーに走るというよりは適切な速度と回転数を自分の好みに調整できる、という狙いも含め、何らかの機能追加は欲しい。
一方のNAだが、スペックがライバル車に比べて低いことはそんなに気にしなくていい。なぜなら、動力性能は皆それなりだし、街乗り中心であれば全然問題はないからだ。もちろんこれで高速に乗り、周りの流れに速度を合わせようとすればアクセルの踏み込み量は増し、エンジンが結構うなり音を上げる。この辺の割り切りと選択は購入時に考える必要があるだろう。
足まわりに関しても、これだけ全高のあるボディーを持つクルマとしてはフロントを中心に結構しっかりした感じは出ている。路面のギャップを乗り越えた際の収束も納得できるレベルだ。またターボとNAは設定されるタイヤの銘柄、サイズとも異なるが、NA車に装着されるダンロップの「エナセーブEC300」は、乗り心地と横方向へのグリップ感のバランスに優れていると感じた。
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まだ発展途上、もっと個性を!
冒頭で述べたように、日産自動車と三菱自動車というまったく文化の異なるメーカーが作り上げたこのクルマ、合弁会社設立前からある程度企画は進んでいたとしても、これだけ短期間で形にしたというある意味“執念”のような部分には敬意を払いたい。
一方、購入する側の感覚で言えば、今やクルマのトレンドでもある先進安全装備の設定がないなど、「あと少し」と思う部分がないわけではない。環境技術にしても、スズキの「エネチャージ」には及ばないとはいえ、パナソニックのニッケル電池を使ったエネルギー回生機構を採用した点は素晴らしいのだが、それはアイドリングストップとのセットでNA車にしか搭載されないのだ。
ただ、それを補って余りあるほどの後席の利便性と快適性は、やはり子育て家族には魅力的。「デイズといえばこれでしょ」と誰もが口にすることができる記号性、言い換えれば「個性」を身につけることで、軽自動車市場の台風の目にもなれるポテンシャルをさらに高めることができるはずだ。
(文=高山正寛/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
日産デイズ ルークス ハイウェイスター ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1775mm
ホイールベース:2430mm
車重:950kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:10.0kgm(98Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:22.2km/リッター(JC08モード)
価格:173万4600円/テスト車=176万850円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムパープル>(2万6250円)
※価格はいずれも5%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:1300km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:----km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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日産デイズ ルークス X
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1775mm
ホイールベース:2430mm
車重:930kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:49ps(36kW)/6500rpm
最大トルク:6.0kgm(59Nm)/5000rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:26.0km/リッター(JC08モード)
価格:133万8750円/テスト車=148万5750円
オプション装備:VDC<ビーグルダイナミクスコントロール[TCS機能含む]>+SRSサイドエアバッグシステム(8万4000円)/リモコンオートスライドドア<両側>(6万3000円)
※価格はいずれも5%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:1284km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:----km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
